第十一話 エンシェントドラゴン
「また、公国がひとつ魔物の群れに飲み込まれたそうだ」
辺境のルクス公国。ハインリッヒ王国の大陸最北端に位置し、隣接するザイン公国との距離はかなり近い。
人を操る能力のある魔物がいて、その魔の手は隣のザイン公国に迫っていた。
「王国の力で守ることはできないのですか?」
父親のラグナルは厳しい顔をした。歯を食いしばっている。
「出来ることならば、もうやっている。ハインリッヒ王にも昔のような力はないのだ」
ハインリッヒ王には三人の息子がいる。長男のハインリッヒ ゼマ リンデ。次男のシオン、三男は
魔物の力が強くなっていくにつれて、結界の範囲も小さくせざるを得なくなっていた。知らされてはいないが、今の結界の範囲から、隣のザイン公国も外されていた。
去年の冬、父親のラグナルが厳しい顔をしているのを思い出した。王国会議で決定したそうだ。このまま魔物が強大になっていけば、やがては結界を張ることさえできなくなる。
「これはやばいわね。ルクス公国がザイン公国に戦争を仕掛けたみたいよ」
魔道鏡を見ながら、姉のアリアが気楽な口調でそう言った。
ザイン公国から、ルクセンブル公国までは馬車で一週間の距離だ。姉のアリアにとっては他人事と言って良いだろう。でも、……。
魔道鏡が映し出す光景に、わたしの瞳が釘付けになった。
「嘘、……神居……くん」
軍隊を指揮している男にわたしの目は釘付けになった。見間違うわけがない。黒髪、少し垂れ目だけど優しい瞳、そして……。そっくりなんてもんじゃない。神居くん、やはり転生していたんだ。
「あっ、パパ。大将ぽい人が倒されたわよ」
なんの感情もなく姉のアリアが呟いた。転生前にお茶の間で見ていた大震災を思い出す。宮城県気仙沼市を飲み込んだ大地震は、
でも、それはインフラの問題だけで当時の
別に自分には関係ないから、映し出さられるテレビ報道を冷静に見ることができたんだ。当事者なら、そんな余裕などあるはずがない。
今のこの状況がそれに似ていた。父親のラグナルは、今後の王国への影響を考えて、厳しい目をしているが、母親のエマと姉のアリアはテレビ報道を見ている感覚だ。
何とかして助けないと……。
ただし……、ここで召喚魔法などを使ったら、家族にバレないわけがない。
「うわ、ザイン公国の長男と次男も殺されたわね。これはやばいわね」
アリアの能天気な声が
「あっ……そうだ」
バレるのはどうでも良いと気づいた。その後が重要なのだ。
「何、何なの、それ……」
「おい、カノン……お前……」
「嘘よ、カノンが……魔法なんて使えるはずがないわよ」
三者三様の反応だが、
「助けないとならないの……ごめんない」
「訳がわからないわよ。なぜ、あなたがそんな巨大な魔法が使えるのよ」
もう、時間がない。アリアのお喋りに付き合ってる暇はないのだ。
「お願い……エンシェントドラゴン……ザイン公国を、カムイを……助けて!」
部屋中に風が吹くように一気に広がる魔力。巨大すぎる魔力のせいで、コーヒーがこぼれ、皿が振動で床に落ちた。風もないのにカーテンが捲り上がる。
「カノン、……それは……無詠唱……しかも禁忌な古代魔法……そんなバカな」
使えるはずがない古代魔法……。私《わた
し》だって何故使えるかなんてわからない。
「ダメだ、古代魔法を使うことは許されない」
父親が
「まさか、結界が展開されてるのか」
「誰にも邪魔させないです。例えお父様でも……」
「そんなバカな……」
「あり得ない。あり得ないわ……、カノンが……カノンが……魔法を使えるわけないわ」
「エンシェントドラゴン。お願いします!」
わたしは空を見上げた。屋敷の中だから天井で見えるはずはないが、今は魔法の力で空が見えた。頭上には、大きく羽ばたくエンシェントドラゴン。
「誰だか、分からないが。仕方がない……手伝ってやる」
一言言い残して空に消えた。
魔法鏡を見ると空から現れたエンシェントドラゴンがドラゴンブレスを放っていた。
カムイは……いた。敵に飛び込む寸前のところでエンシェントドラゴンが現れたのだ。間一髪だった。
「良かった……」
「良くないわよ。これは一体どう言うことなの?」
家族の視線が
この後始末は、私がつかないとならない。
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