第59話 あゆみが限界らしい・・・⑤


カフェを思いっきり楽しんだ俺たちは店を出ると、先ほど通ったアーケード街を満足した様子でのんびりと歩く。


「やっぱりいいもんだよな、こういうのは」

「かっこつけて何言ってんのよ。ただパンケーキを食べに行っただけじゃない」


俺はアーケード街を歩くカップルや家族を見ながら感慨深くそんなことをつぶやいたのだが、あゆみの耳にはあまり響かなかったようである。

やはりあゆみは今日俺たちがやったような休日に誰かと外に出かけるという行為をさぞ当たり前かのように思っているらしい。


しかしそんな行為でも、俺からすればまったく違うものへと変貌する。


「分かってないな~お前。大人になったらこんなことということでもできなくなってしまうものなんだぞ」

「大人でもないあなたにそんなこと言われてもね~」


友達と当たり前のように遊べる、学生時代では当たり前のように思えることだが、局所的に見ればそれも奇跡となる場合がある。

例えば、前まで友達がいなかった俺のようなぼっちにとっては…


「いいか?友達と時間が取れず、一緒に遊びに行けない大人。そして友達がいなくて誰かと遊びに行けなかった俺。結果だけ見ればどちらも同じ結末だ。つまり、俺には大人の気持ちも分かるってことなんだぞ!」

「…バカじゃないの」


あゆみは俺に対し、冷たくそんなことをつぶやくが俺は半分冗談で半分本気であった。

確かに結果までの経緯は全くと言っていいほど異なりはするものの、やはり結果はどちらも同じではあるのである。

そのため、俺自身はまだ学生の身ではあるが、友達と遊びに行けるということをとても貴重なものとして捉えているのである。


「まっ、今のお前にはまだ分からんだろ」

「何達観しちゃってるのよ。正直全然かっこよくないわよ」

「ふっ、言ってろ…」


あゆみには感じないことを俺が感じていることに多少優越感を感じた俺は、そんなことを言ってみたもののすぐあゆみに一蹴されてしまった。

結局俺たちはそのまま終始そんな会話をしながら帰路につくことになるのだが、その途中である数分後、俺は急にアーケード街の真ん中で立ち止まった。


「あ、やばい」

「は?何が?」


そして俺は立ち止まったまま一言そうつぶやくと、あゆみは不思議そうな顔で俺にそう聞くのだが、


「……トイレ行きたい。それにこれは大の方だ」

「……はやく行ってきなさい」


そんな俺の返事を聞くと、すこし呆れたような表情をしてそう返事をした。


何を呆れているのだろうか、俺からすればちょっとした緊急事態なのに…


「すまん、ちょっとそこのコンビニでトイレ借りてくるわ」


そしてあゆみの返事を聞いた俺は、目の前にあったコンビニを指さしながら急いで中へと入っていく。

中に入り俺はすぐに目に入った店員に声をかけて、トイレを借りることを伝えると、俺は急いでトイレへと駆け込んでいく。


「…よっしゃ、誰も入ってないっ!」


そしてトイレの扉のドアノブの上が赤ではなく青を示していることを確認すると、俺は心の底から安心し、すぐに中へと入って用を済ませることに成功する。


「ふぅ~、助かった~。この時期になると、どこもクーラーめちゃくちゃ効かせるからお腹が冷えてくるんだよ」


夏の気温が年々高くなっていることもあり、夏が近づいてきている現在ではどこに行ってもエアコンを効かせており、最近の俺は外と中の寒暖差によりお腹が刺激を受けている状態だった。


(やっぱり男は、下痢しやすいのか…)


今回の件から俺はそんなことを思いながら用を済ませると、コンビニに来たついでとして、昼ごはんがパンケーキだけだったこともあり6個入りの唐揚げを一つ買って店を出た。

すると、


「あれっ、あゆみの奴どこ行った?」


俺は先ほどまで俺たちがいた場所にあゆみの姿が見当たらないことに気づく。

そんな状況に俺はここがアーケード街ということもあって近くのゲームセンターや雑貨屋にでも行っているのかと思い、あたりを見回してみると、


「あれっ、あゆみ誰かと一緒じゃねぇか。同級生か?」


あゆみがコンビニのすぐ近くの通りの端っこで、誰かと話しているところを発見する。

隣で話しているその人は、身長が俺と同じくらいの高校生と思われる男子が一人。

最初はあゆみの同級生か何かかと思ったものの、その顔が俺の記憶に一切にないことに気づくと、俺は一瞬首をかしげる。

しかし、ふとあゆみの方を見てみると、困った顔をして下を向いて一言もしゃべっていないことに気づき、俺はある程度状況を理解する。


「あ~、そういうことね…」


俺はかっこつけて、達観したかのように小さくそうつぶやいてはしたが、状況が分かることと、状況に沿った行動をすることでは意味が違う。


「なんで俺が間に入らにゃならんのだ。コミュ力はあいつの方があるだろうに…」


俺はそんな文句を誰にも聞こえないくらいの声でつぶやくと、ため息をつきながらあゆみの方へと歩いて行くのだった。





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彼女契約結んでみました えとはん @etohan

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