第58話 あゆみが限界らしい・・・④
「それにしてもお前、中間の時もそうだったけどよくここまで勉強続けられたよな」
「ん?」
俺はおいしそうにパンケーキを頬張るあゆみをよそにこんなことをつぶやく。
今の雰囲気では想像がつかないだろうが、テスト勉強を始めてから今日でもう二週間が経とうとしている。
勉強を教え続けた俺を褒めたたえてもらいたいのはもちろんだが、ここまで弱音こそ吐きながらも勉強を続けられたあゆみには、正直ちょっとびっくりしている。
もし俺があゆみの立場なら三日と持たないだろう。
「ねぇケンジ、私前から思ってたんだけど、そう思うのだったら初めから私にこんなことさせないでくれない?」
「何言ってんだよ、十番以内に入りたいって言ってたのはお前だろ?ということはこんなことをすることになったのは元をたどればお前が原因なんだよ」
「そっちこそ何言ってるの?あなた家を出る前、五番以内に入れるかもって言ってたじゃない。私、そこまでは望んでなかったんだけど」
「それは…リスクヘッジだ、リスクヘッジ。十番ギリギリの学力でテストに臨んでもし十二、三番だったらどうするんだよ」
俺はあゆみに対しここまで言うとあゆみはそんな俺の発言に納得してしまったのか、悔しそうな表情を浮かべながら、
「そ、それはそうだけど…」
と小さくそうつぶやく。
まぁ、あゆみでちょっと遊びたいという気持ちがなかったわけではなかったのだが、まぁ嘘はついてないわけではないから、それは言わないでおこう。
しかし、そんな言い合いをした数十秒後、
「……じ、じゃあご褒美よ。ケンジだって私が今日まで勉強が続くと思ってなかったわけでしょ。それならご褒美くらい寄越しなさいよ」
「はぁ?」
あゆみが今度はそんなことを言い始める。
そんなあゆみに俺はなぜ急にそんなことをと思いはしたが、あゆみは止まることなく、
「そうね~……じゃああなたのパンケーキもおいしそうだし、一口もらえる?」
俺にそんな要求をしてきた。
しかし、そんなあゆみに対し俺は予想よりグレードの低い要求であったため、
(なんだ、それくらいなら…)
と思い、パンケーキの皿を差し出そうとしたのだが、その直後、
「あ~ん、ってしてほしいかなっ!」
あゆみはそんなことを言い出した。
「はぁ!!なんだよお前!一口くらいさっさと自分で取って食えばいいじゃねぇか?」
「いいわけないじゃない、ご褒美なんだから。ほら、そういうことをしておくと後々思い出にもなるわよ?」
俺の驚きの発言に対し、あゆみはそんなことをにやにやしながら言ってくる。
(こ、こいつ・・・腹いせに俺を弄ぼうとしているな…)
現在、俺たちいるのは家でも何でもなく、たくさんのお客さんのいるカフェである。
そんないつだれかに見られるか分からない場所で、あゆみは俺にあ~んをさせようとしているというのか。
俺はあゆみの発言に反応するように戸惑いの表情を出してしまったため、あゆみは余計ににやにやした表情を俺に見せてくる。
しかし、前まで彼女どころか友達すらいなかった俺は、こんなことでさえもドキドキしてしまうことを避けることはできなかった。
(なっ、なにも考えるな。堂々と、堂々するんだ。そうすれば何も恥ずかしいことはない)
しかしあゆみをこれ以上好きにさせるわけにはいかないと思った俺は、そんなことを自分自身に言い聞かせ、
「い、いいぜ。それくらいなら…」
余裕のある表情を心がけながら、あゆみにそうつぶやいた。
こんな時は先に恥ずかしがった方が負けなのである。
それならば、逆に俺があゆみを恥ずかしがらせてやろう。
「えっ…そっ、それじゃあ…」
すると、今度はそんな俺の発言を聞いたあゆみの方が少し戸惑いの表情を浮かべると、
「はい、あ~ん」
そう言ってケーキの刺さったフォークを差し出す俺に対し、顔を赤くしながら目をつむって口を大きく開けてケーキを頬張った。
「……」
口をもぐもぐさせるあゆみの姿は先ほどの薄笑いを浮かべていた時とは異なり、顔を赤らめ、すっかり大人しそうに片手を口に当てている。
そんな中、俺はなんてことないと思わせるように涼しげな表情を浮かべることを心がける。
(ふっ、安易に俺をおちょくろうとするからだ。せいぜい自分が行ったことを恥ずかしがるがいい)
この時にはすでに俺とあゆみの立場は逆転し、俺とあゆみのからかい対決は俺の勝利で幕を閉じた。
―――――そして、そんなことをしながらちょっとしたカフェでのひと時を楽しんだ俺たちは、
「ほらほら食い終わったんだから、早く出るぞ。もう時間も一時過ぎちゃってるから帰ったときには二時過ぎちゃうぞ!」
明日がテストということもあり、パンケーキを食べ終わるとさっさと店を出ることにする。
「はいはいそんなに急かさないでよ。それと、お会計お願いしちゃってもいい?後で私の分のお金渡すから」
すると、そんなことを言う俺に対し、あゆみは財布を出しながらそんなことをつぶやく。
「……あぁ、別にいいわ。今回は俺のおごりにしてやるよ」
「えっ?」
しかし、そのあとにそんな俺の言葉を聞いたあゆみは、一瞬体を硬直させる。
「これが俺のお前へのご褒美ってことにしてやるよ。だが、お前が今回もまたテストで十番以内に入れたら、俺の分の食費も出してもらうからな」
そしてそんなキョトンとしているあゆみに対し、俺はそう宣言し、さっさとレジの方へと歩いていく。
今回の俺の行動は、正直ただの気まぐれである。
出かけたばかりの俺は少し不機嫌ではあったものの、あゆみの面白い表情も見せてもらったこともあり、今はすこぶる機嫌がいいのだ。
「あ、ありがとう…」
しかし、そんな気分のいい俺に反し、俺の言葉を聞いたあゆみは先ほどと同様に大人しそうな表情を浮かべ、小さくそうつぶやくのみ。
今までのあゆみを見ていた俺としては、いつもと振る舞い方が違うあゆみに多少違和感を感じながらも、そこまで気にすることなく俺たちは店を後にするのだった。
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