第57話 あゆみが限界らしい・・・③


「そうそう、私一度ここに行ってみたかったのよね~」


あゆみはそんな俺の発言に対し、ウキウキした様子でそうつぶやく。

どのくらいご機嫌かというと、あゆみの視線は会話をしている俺ではなく、すでに店しかとらえていないくらいである。


(おいおい、えらいご機嫌だな~、さっきまでの様子は一体なんだったんだよ)


いつものあゆみを見ている俺としては、そんなに楽しそうなあゆみを見るのは久しぶりであったため、そこで俺はちょっとしたギャップを感じてしまう。


「はいはい、それじゃさっそく中に入ろうぜ。俺もちょっと小腹がすいてきた」


俺は店の前にある広告の看板をじっくり見ているあゆみをよそに、さっさと店の中へと入る。

店に入ることは確定しているため、俺としてはさっさと中に入ってゆっくりメニューを選びたい。

それにここは人の多いアーケード街であるため、周りの目だってある。


「ねぇ、ちょっと待って。もうちょっと入る前も楽しませてよ」


しかしそんな俺に対して後ろであゆみがそんなことを言ってくるため、俺は気にせず中に入ることにする。

店に入るか迷ってるわけでもないのだから、店の前で突っ立ってるのは俺としては居心地が悪いのだ。

そしてそんな俺の後ろをついてくるあゆみをよそに、俺は店の扉から中に入ると、


(うおぉ…マジか。中めっちゃおしゃれじゃねぇ~かよ)


俺はまずそのお店の内装に驚くことになる。

中は昔ながらの喫茶店を思わせるようなレトロな雰囲気であり、俺をまるで昭和の時代にいるかように感じさせた。

周りは木製のもので囲まれ、照明も暖色系で統一されている。

誰から見てもこの店が内装に力を入れていることは、一目瞭然であった。


俺はそのような光景に多少感動しながらもとりあえず席へと座り、店のメニューに目を通す。


「このお店、いいところだな」


とりあえず現時点でここに来たことにある程度満足した俺は、目の前を座るあゆみに小さくそうつぶやく。


「えっ、まだ何も食べてないよ?」


しかし、当のあゆみというと、店の内装よりメニューの方に興味がいっているらしい。

わざわざここに行ってみたいと言っていた奴が一体何を言っているのだろう。


「ふっ、これも価値観か…」

「は、どういうこと?」

「はぁ~、まぁお前が今までここに来なかった理由が分かったってことだよ」


俺は話を変え、そんなことをあゆみにつぶやく。

店の中に入ってみて、俺は今まであゆみがこの店に来なかった理由が身をもって理解した。

先ほど述べた通りこの店はとても雰囲気がよく、それだけでも今回はある程度満足している位である。

だからこそ思うのだ、これは一人では行きにくいな、と。


別に一人で言ったらだめなど決して思ったりしてはいない。

俺としてもソロ活はしたい派であるし、俺だって一人で遊びに行くというは何度も経験している。

しかし、そんな俺でも客観的に見ると、どうしてもひとりでこの店にことをためらう人はいるだろうなと考えてしまったのだ。


(確かにあゆみ、あかりさんと友達になるまで一緒に遊びに行くような友達いなかったって言ってたしな…)


俺は今回、久しぶりにあゆみのイメージと実態がマッチしたような気がした。

確かにあゆみは別に陰キャなどではない。

ただ人付き合いが苦手らしく、あまり多人数の集まりはあまり好んでないだけなのだ。

しかし、俺が言うのも悲しいことだが、俺と比べてしまうと陽キャの部類に入ってしまうだけなのである。

全体的に見ると、俺とあゆみは正直どっこいどっこいであり、あかりのコミュ力と比べると天と地ほどの差があるのである。


「まぁ、ケンジに分かられてもって感じだけど、やっぱり考えることは一緒なのね。うれしいような、悲しいような…」


するとあゆみはそんな俺のつぶやきに対し、すこし微笑んだようにそうつぶやく。


(はぁ、コイツは何を考えてるのかよくわからん)


しかしあゆみはそのようなことを言いながらも、なにやら安心しているかの表情を浮かべているため、俺としてはそんなことを考えながらメニューをゆっくり眺める。


「はいはいそれで、何注文するのか決まったのか?」

「え~っとね、それじゃあ私、このイチゴのパンケーキがいい!!」

「うわ~うまそうだな。じゃあ俺はこのチョコレートの奴かな」


そしてまた話題を変えた俺とあゆみはそう言ってメニューを決めると、店員さんを呼んで、俺たちの注文を伝える。

ケーキが来るまでの間、俺は店の内装を眺めながら、ちょっとしたいつもとは違う特別感を楽しみ、あゆみはそんな俺を何とも言えない目で眺めるという時間を過ごしていると、


「お待たせしました~チョコレートパンケーキのご注文のお客様は……」


あっという間に時間は過ぎ、注文したケーキが俺たちのもとへやってくる。

俺たちが注文したパンケーキは二段重ねのホットケーキにそれぞれチョコ系とイチゴ系のクリーム、ソース、アイスが乗った、テレビでしか見ないような豪華なパンケーキであった。


「うわぁ~!!めっちゃおいしそう」


自分のケーキを見たあゆみはそう言って感動しながらスマホを取り出すと、目の前のケーキを写真に収めだす。

さぞ当たり前かのようにあゆみはカメラを向けているが、俺からすれば初めて見る光景であった。


「なぁ、お前SNSとかってやるタイプ?」


そのため、そんなあゆみを見た俺はというと、ちょっとした好奇心でそんなことを聞いてみる。


「えっ、やってないけど……まさかケンジ、こういったものを写真にとる人全員SNSやってるとでも思ってるの?」


しかし、あゆみは俺の質問への返答だけでなく、俺がそんな質問をした理由まで添えて返してきた。


「え、違うの…?」

「そんなわけないじゃない、確かにSNSは流行ってはいるけど、誰もかれもがやってるって思ってたら大間違いよ。それに私、SNSやるような性格じゃないって分かるでしょ」


俺はそんなあゆみの発言により、納得をするとともに考えを改めることとなる。

そもそも俺は外食をするタイプではないため、そういったことをする機会すらなかったのだが、ネットの情報だけで食事の写真を撮る人はSNSにアップするものなのだと思ってしまっていた。

やはりどんなことでも経験が大事なのだと改めて思い知らされる。


「そりゃそうだな、俺もSNSやったことね~し。よし、じゃあ俺も真似して・・・」


また、なかなかこんな経験をしてこなかった俺としてもこのような時間を写真におさめたいと思っていたため、俺も先ほどあゆみがしたように目の前にカメラを向ける。


「ねぇ、その画角って私も映ってない?」


しかし、被写体はあゆみのとは異なり、俺のカメラにはパンケーキだけでなくあゆみもしっかりと映っている。


「別にいいじゃね~かよ。いいか?悲しい話だが、俺のスマホの写真ホルダーには人が映る写真は一枚もないんだ。一枚くらい彼女の写真があったっていいじゃね~か」

「いつも思うけど、ケンジの話って大体が悲しい話に落ち着くわね……はぁ~、しょうがない」


そして俺のそんな発言に対し、あゆみはそのように文句を言いつつも諦めたのか慈悲をくれたのか、少し恥ずかしそうにしながらも頬のそばにピースを置いてくれる。


「よっしゃ、これで『彼女とデートなう』ってSNSに投稿できるな!!」

「何言ってんの!変なこと言ってないで、さっさと撮りなさいよ」


しかし、俺のそんな発言により、あゆみは恥ずかしがるどころか、顔まで赤くしはじめる。

するとそんなあゆみの反応に対し、俺はというと、


(おっ、たまには可愛い表情するんじゃん・・・)


そんなことを思いながら、恥ずかしそうに俺にピースをするあゆみをよそに、楽しく写真を撮るのだった。



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