第56話 あゆみが限界らしい・・・②


「なぁ~、どこ行くんだよ。なんでわざわざテスト期間中に出かけるんだよ~」


俺は現在、目の前にいるあゆみに向かってそんな文句を垂れている。


俺たちが今いる場所は俺らが住む町の中では比較的人通りの多いアーケード街。

カラオケやゲームセンターなど、若者が来ても比較的楽しめるものが多く、学生もたくさん見かけるのだが、やはり今はテスト期間中であるということもあり、いつもより学生は少ない。


正直俺からすれば、わざわざテスト期間中に十数分かけてここに来て何をする気なんだという気持ちなのだが、あゆみはもう行くところが決まっているらしく、足を止めることなく進んでいる。


話はさかのぼることおよそ一時間ほど前、俺に向かって出かけるのよ、と言い放ったあゆみはすぐさま俺の部屋を出ると、隣である自分のアパートの部屋に戻り外に出る準備をしてきたのか、ものの数十分で家での服装とは異なるおしゃれな服装に身を包んで、俺の部屋へと戻ってきた。


そしてその間、朝ご飯の食器を洗っていた俺はというと、服のある場所まで知られてしまっていたあゆみにより、強制的に出かける用の服装をコーディネートされ、さっさと部屋を追い出されてしまった。


そのため、俺からすれば出かける気などさらさらないのである。


「もう、さっきからしつこいわね。いいじゃない一日くらい付き合ってもらっても。一応あなた、私の彼氏なんでしょ。デートよ、デート」


しかし、あゆみはというと、俺の方を振り返りそんなことを言ってくる始末である。


(あ~、そうだった~。俺、一応あゆみの彼氏だった~!)


そして、俺はそこで久しぶりにあゆみが俺の彼女であることを思い出す。

正直、あゆみは今まで彼氏彼女の振る舞いというより、ただ俺の部屋に入り浸っているだけであったため、俺としてはすでにあゆみは彼女というより腐れ縁のような感覚に陥っていた。


確かに最初は、かわいい女の子が俺の家に来てくれているという気持ちだったが、今となっては、もう親戚の子が遊びに来ているという気持ちになってしまっていたのだ。


「はいはい、それじゃ久しぶりに彼女らしくしてください…」

「何言ってるのよ、私はいつも彼女らしく振る舞ってるでしょ」


勉強以外だったらクッションに持たれながら俺の部屋で遠慮なく寝転んでマンガ読んでる奴が何を言ってるんだと思いはしたが、これをぐっとこらえ、俺とあゆみは恋人らしく手をつないでアーケード街を歩いていく。


(あれっ、そういえば。あゆみと手をつなぐの、初めてだな…)


また、ふと歩きながらそんなことを思ってしまった俺は、自分でも初心だとは思ったものの、そんな初めての体験に悔しいが少しだけテンションが上がってしまうのだった。






「―――――いいんだ、俺のことは気にしないでくれっ、お前は自分の用事を済ませてくるんだっ!!」


しかし、恋人らしいなどと思ったのも束の間、数十分後には俺とあゆみの手は引きはがされようとしていた。


「ケンジ何言ってるのよ!!今日は私が外に出るって言ったから出たのよ!あなたの用事はないはずでしょ!!」

「いやいや、通りかかってしまったのなら話は別だ!!見てしまったからには、行かなければならないんだっ!」


俺たちは現在、とある店の目の前でお互いの手を引っ張り合うという、おもちゃ売り場での子供と親の光景のような事をしてしまっていた。


「それにあなたこの前も行ってたじゃない!!それなら今日は私に付き合ってよ!」

「あぁ、確かに行った。だが、今日は今日でまた新しいグッズや漫画が出ているかもしれないじゃないか!!」


そう、俺たちの目の前にいる店はアニメグッズの専門店。

その上確かにあゆみの言う通り、俺は二週間ほど前にその店を訪れていた。

しかし、逆に言うとすでに二週間も経っているのだ、新刊などが出てきていても不思議ではあるまい。


「お願いだから次にしてっ!!あなたいつもあそこに行くと数時間は入り浸るから、私の時間が取れなくなっちゃうの、お願いだから分かって!!」


しかし、あゆみはそんな俺の主張に反抗して俺を引っ張ろうとしてくる。

用事があるのならば一人で行けばいいものをと一瞬思ってしまったが、一応俺たちは今デートをしている最中であるということを思い出し、何とか口に出すことだけはとどめる。


(くっ、仕方がないか。さすがに今日はこいつに付き合うか……)


俺は理性と欲望との葛藤の中、あゆみに対する今までのこともあり、何とか理性が勝利して、


「わ、分かった。今日は、お前に付き合う…」


言いたくはなかったが、俺は何とかその言葉を口にする。


「そ、それはありがたいけど、もうちょっと紳士的にしてほしいかな。行けないことへの悔しさが顔から駄々洩れだから」


そして俺は、誰から見ても分かるくらい残念な表情を出してしまいながら、俺はあゆみの手を引っ張られながら、店の前を後にするのだった。




―――――そして数十分後、あゆみに流されるままアーケード街を進んでいくと、やっとあゆみの目的の店の前へと到着する。


「やっと着いた、ここよここ、一度来てみたかったのよね~」


そして、そんなあゆみの発言とともに、俺は看板や中の様子からここがどんな店なのかを把握する。

しかし俺としては、あゆみの予想外のチョイスに小さくこうつぶやく。


「ここって、スイーツの店か?」




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