第52話 三人のほのぼのとした日常・・・⑤
「い、いただきます…」
俺は目の前に置かれた料理目の前に、手を合わせてそう告げる。
すると、ローテーブルを中心に俺の両隣に座るあゆみとあかりも俺に追随して手を合わせている。
時間は現在午前七時。
そして今、目の前にうつるご飯はというと、もともと冷凍していた白米に、インスタント味噌汁。
最後に冷蔵庫にかろうじて残っていた卵とベーコンで作ったベーコンエッグの三点である。
また、先ほどまで眠そうにしていた二人についても、先ほどまでの俺の騒ぎで目が覚めてしまったらしく、今は目の前にあるご飯を黙々と食べている。
そして、今俺たちに流れている雰囲気はというと、深夜テンションなど一切感じない、なんともまぁ変な雰囲気である。
あかりはいつもと変わりはしないのだが、あゆみはいつも以上に堂々とご飯を食べており、特に俺は先ほどまで騒いでいたからか、少しけだるくなってしまった。
そして、ただ黙々と朝ご飯を食べていた俺たち三人の中で、最初に声を発したのはあゆみであった。
「はぁ~、まさかケンジが平日と休日を勘違いするなんてねぇ~」
「なんだよ、なんか言いたいことでもあんのか?しょうがないだろ、あの時俺ずっとてんぱってたんだから」
俺はあゆみの発言に対し、そう発言する。
これは別に何か言い訳をしているというわけではない、ただ事実を述べているにすぎないのだ。
「で、でもケンジ君ゲーム中に言ってたじゃん。明日休みだから思いっきりやろうぜって」
しかし、今度はあかりが少し目をそらしながら俺にそうツッコんでくる。
「あぁ~!言ってた言ってたこの人。私をゲームでボコボコにしながら調子乗ってそう言ってた!!」
「うるせぇうるせぇ!!だから何だってんだ!はいはい私が寝ぼけてましたよ~。別に早く起きれた分には別にいいじゃね~か!!」
すると、あゆみはあかりの言葉に便乗し、立ち上がって俺にそう言ってきたため、俺としてもそれに反抗してそう二人に言ってやった。
「あぁ~逆切れしだしたよ、この人。あ~あ、女の子に逆切れしてくるなんて最低~」
「うっせぇ、言いたいだけ言ってろ!!」
「あはは……結局、朝から騒がしくなっちゃったな~」
近所迷惑にもなりかねないのだが、俺たちの朝はこのように過ぎていく。
―――――朝ご飯を終えた俺たちは、各々別のことをして時間を過ごしている。
俺はというと先ほど食べたご飯の食器を洗い、あゆみはというと、俺の本棚にある読みかけのマンガをクッションにもたれながら読んでいる。
「はぁ~あ、何とも良い御身分なこって…」
俺はそんなあゆみに対し、そうつぶやく。
まぁボソッと言ったため、本人には聞こえてはおるまい。
そしてあかりはというと、食器をキッチンへと持って行ったあと、自分の持っていたカバンを肩にかけ、
「ごめんケンジ君、さすがにもう家に帰らないと、お母さん帰ってきちゃいそうだから……」
食器を洗っている俺に対し、申し訳なさそうにそうつぶやいた。
気づけば現在の時刻はもう八時前、先ほどの話からさすがにこれ以上家を出るわけにはいかないというのは容易に想像できる。
「あぁそうか、もうそんな時間か。家まで送っていこうか?」
すると俺はそんなあかりに対して、家まで送ろうと提案するのだが、
「いやいや、全然大丈夫だよ。家も近いし、もう登校する時間とほぼ一緒だから」
あかりはというととても申し訳なさそうにしながら、両手を振りながらそう断る。
そしてあかりはいそいそと玄関の方へと向い、自分の靴を履き終えると、俺たちの方へ向き直り、
「あ、あの、今回は本当にありがとね。本当、めっちゃ楽しかった。さすがに何回もこんなことはできないと思うけど、また誘ってくれると、うれしいなっ」
そんな言葉を俺たちにかけてくれた。
その時の彼女の表情は今まで以上に明るい満面の笑みであり、
(あ、ヤバい。かわいい)
と、俺も思わず心の中でそうつぶやいてしまった。
そしてあかりは玄関の扉を開けて外へ出ると、それじゃ、とつぶやいてそのまま扉は閉まっていった。
「…………」
そして残るは俺とあゆみだけがいる部屋。
今まででは当たり前となっていたが、先ほどまでいたあかりがいなくなったことで一人ぼっちということではないのだが、多少の寂しさが残ってしまった。
あかりが帰った後、水道の流れる音だけが流れる時間が数分の間流れていると、
「…なぁ、あゆみ」
先ほどより静かになってしまったこの部屋で、俺は食器を洗う手はそのままに静かにあゆみに問いかける。
「ん~何~?」
しかし寂しさを感じている俺をよそに、あゆみはマンガに熱中しているらしく、目線を動かすことなく適当にそうつぶやく。
「…お前は呑気だな……」
「何?喧嘩でも売ってるの?」
するとそんなあゆみの反応から、俺は思わずとっさに思ったことを言ってしまい、あゆみの機嫌を損ねてしまう。
まぁ、言いたくなかったのかと言われれば、めちゃめちゃ言いたかったため、後悔はしてないのだが。
「違う違う、間違えた。ついつい本音が」
「本音だったら間違えてないと思うんだけど……」
「いやいや、そんな話をしたいんじゃないんだよ、あかりさんのことだよ、あかりさん」
「え、あかりさん?どういうこと?」
俺はしたかった話をするため、一気にあかりの名前を出して話を戻す。
「いや、まぁ、これからどうしていくのが正解かな~ってさ」
「何よ、正解って?」
「だからさ、俺たちがあかりさんのために何かしてあげられないかな~ってことだよ」
あゆみはどう思っているのか分からないが、俺にとっては初めてできたまともな友達なのだ。
俺としても親が家にいない寂しさを和らげるために何かしてあげたいという思いが出てしまう。
そのため、あゆみも俺程かどうかは分からないが、そんな気持ちがあるのではないかと思いそう言ったのだが、そのあとのあゆみの反応は俺の予想外のものだった。
「ばかじゃないの。正解なんてあるわけないじゃない」
「は?どういうことだよ」
俺はあゆみの意図が分からず思わずそう口にする。
「だ~か~ら~、あかりさんの気持ちが分からない私たちにとって、できることなんてたかが知れてるってことよ」
「で、でも、やっぱり友達になったんだし、何かできることがあるならしてやりたいだろ」
俺は戸惑いながらもそう言い返すのだが、あゆみの勢いは止まらない。
「はぁ~、あなた、友達に幻想持ちすぎよ。友達のいなかったケンジにとって友達はかけがえのないものなのかもしれないけどね、正直世間から見れば友達なんてよく話す知り合いくらいにしか捉えてない人たちばっかりよ」
そしてあゆみはこのように俺に向かってズバズバとそんなことを言ってくる。
「なぁ、今俺バカにされてる?」
「いえ、全然」
まぁ、多少俺への皮肉が入っている気もするのだが。
「まぁその話は置いておいて。言っておくけど、あかりさんに気安くあなたの気持ちを分かってあげたいなんて絶対に言うんじゃないわよ。そんな言葉、相手からしたら傷口に塩を塗るようなものなんだから」
「そ、そういうものなのか?」
「そういうものなの。いい?私から言わせると、あなたそんな考え方だと、後々絶対にあかりさんを悲しませることになるわよ」
そしてあゆみによる俺の気持ちの全否定に、俺は思わず息をのむ。
「マ、マジか」
「……だから、あなたはいつも通りでいいの。あなたのその能天気さを見せつけるだけで十分よ」
「なぁ、やっぱりお前、俺をバカにしてるよな?」
「…してない」
多少俺への皮肉が入っていたような気はするが、まぁ、最後まで聞くとあゆみの言っていることは至極真っ当な気がしてきた。
「なぁ、あゆみ……」
「ん?今度は何?」
「……人間関係って、難しいな」
「……そうねぇ」
俺はこの時、寂しさや遊びたいがためにというより、将来のために友達を作るべきだなと実感した。
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