第51話 三人のほのぼのとした日常・・・④
あれから何時間たっただろう……
先ほどまで、夜でも当たり前のように聞こえていた路面電車などの外の生活音はもうすでに消え去り、現在俺たちを漂う雰囲気はとても奇妙なものとなっていた。
今聞こえる音があるとすれば、先ほどまでやっていたゲームのリザルト画面の音楽のみ。
それ以外は俺どころか、俺の右隣にいるあかり、そして数時間前までは騒がしくゲームに向かって叫んでいたあゆみまでもが今では一言もしゃべることなく、各々クッションや座布団、ブランケットなどを布団代わりにして、三人ともいつの間にか眠ってしまっていた。
「…ん、うぅ……」
そしてそのあと最初に目を覚ました俺は、眠い目をこすりながら、ゆっくりとあたりを見回すと、壁にかけている時計に目をやる。
「うお、マジか。もう六時じゃねぇ~かよ」
俺は目の前にうつる時計の針の位置を見て驚愕する。
俺とあかりがあゆみをゲームでボコボコにしすぎて、あゆみがゲームを放棄してクッションに顔を埋めたのが深夜1時ごろであったため、少なくとも俺たちは3時間以上眠っていたことになるだろう。
最初の俺はボ~っとしていたため、ちょっと寝すぎちゃったなと考える程度であり、今日のところはさっさと布団を敷いて寝てしまおうと考えていたのだが、
(あぁ!あかりがいるんじゃん!!寝ちゃだめだろう!!)
俺の隣にはいつもの状況とは異なり、あゆみだけでなくあかりがいることを思い出す。
「やばいやばい、ちょっと夜中までとかいうレベルじゃなくなっちまったぞ」
俺は急いで体を起こし、現在の状況を把握する。
俺は今、親と一緒に住んでいる女子高生を親の許可なく、夜中どころか朝まで自分の家に招き入れてしまった。
はたから見れば俺は女の子を朝帰りに誘うようなヤバい奴と見れられもおかしくないだろう。
「あかりさん、あかりさんってば!」
そのため俺はここから少しでもまともな対応を行おうと、必死にあかりの体を揺らし起きるように呼び掛ける。
「う、うぅ…あれ、うち寝ちゃってた?」
しかし、あかりはというと、俺の切羽詰まったような呼びかけとは対照的に、呑気な表情を浮かべながらそう俺に告げる。
「おぉ、呑気そうだなぁあかりさんよぉ。今からあなたに悲しい現実を教えてあげよう…さて、いま何時でしょ~か?」
そんなあかりの反応に対し、俺はあかりにも俺と同じ反応をしてもらうべく、深夜テンションでそうあかりに問いかける。
「ん~?何時だろ~、え~っと…七時くらいかな~。でもまだうち眠いんだよね~」
「いつにもまして吞気ですね、あかりさん…」
するとあかりは相変わらず呑気にそう俺に告げる。
どう考えてもいつものあかりとは雰囲気が異なり、深夜ならではの特別な雰囲気であることを如実に物語っていた。
その上、あかりの回答は現実より遅い時間を言ってくる始末である。
「はぁ~、そんな答え言われると、クイズにした意味がねぇじゃねぇ~かよ。安心しろよ、まだ六時だよ。俺にとってはもう六時だけどな」
「えへへ、それはごめ~ん」
「ま、六時と言われてもそんな呑気でいられるってことは、親はまだ帰ってきてないってことでいいのか?」
とりあえず俺はあかりの言動から少しホッとする。
あまりいい話ではないが、俺からすればありがたいことにまだあかりのお母さんはまだ帰っていないらしい。
「そうだね、今日だといつも通りうちが学校に行った後じゃないと帰ってこないから帰ってくるとしても八時以降かな」
その言葉を聞き、俺は安心したような、虚しいような感情に包まれる。
親は学校に行った後に帰ってきて、学校から帰ってくるときには仕事に行かなければならない、この状況が子供からすればとんでもない状況であることは客観的に見ても容易に想像がつくからだ。
そのため、俺は休日はどうなのかと少し疑問に思ったものの、口に出すことはしなかった。
「そうか…なら、もう少し眠るとしますか」
とりあえず懸念が解消されたことにより、先ほどまで襲ってきた眠気がもう一度襲来してきたため、俺は再び座布団を枕代わりにし目を閉じる。
そう、学校を出るまでは大丈夫なのだ、学校を出るまでは……
(ん?学校?)
そう思った俺はもう一つも懸念が思い当たることに気づく。
「バカ野郎!?学校だ!学校のこと忘れてた!何やってんだよ俺!!」
そこで俺は気づく、親が仕事をするように俺たちも学校があるということを。
俺はもう一度体を起こし、今度はあゆみに向かって体を揺らしながら呼びかける。
「おいっ、おいって!!起きろよあゆみ。ヤバい!まじでヤバいって!!」
俺は必死にあゆみに呼びかける。
八時には学校を出る必要があるため、タイムリミットはすでに三時間を切っている。
その間に俺たちは風呂に入らなければならないし、朝飯だって食べないと二時間目くらいに俺たちの腹が悲鳴を上げることになるのは容易に想像がつく。
あかりに関しては、一度家にだって帰らなければならないだろう。
そのことを考えると決して時間に余裕があるわけではないのだ。
「あはははっ!相変わらず寝起きの悪い野郎だぜ。頼むから今日に限ってはその要素は省いてほしかったぜ、まったくよー!」
やはり今の俺は深夜の解放感からか、とてもテンションが高くなっている。
あゆみがなかなか起きないにもかかわらず、変に笑いが込み上げてしまっているのだ。
「何よさっきから、うるさいわね!もう少し寝かせてよ!!」
するとあゆみは俺の叫びに反応し、目を閉じたまま片手をあげ、そんなことを叫びながら手を左右に振り始めた。
「なんで二人ともこんなに呑気なんだ!?焦ってる俺がバカみたいじゃね~かよ」
左右二人の似たような態度に、俺はさすがに若干の呆れさえ憶えてくる。
「何言ってんだよ、学校があるだろ!準備する時間のことを考えたらもうギリギリなんだよ!!」
あゆみが起きることを拒否してくるとはいえ、さすがに放置するわけにもいかなかった俺は必死にそう呼びかける。
すると今度はあゆみがとんでもないことを言い始めた。
「はぁ~、学校?行くわけないじゃない」
「お、おい、何言ってんだお前!?」
俺はそんなあゆみの発言に対し、今まで以上に焦り始める。
俺に対してはこんな感じだが、なんやかんやであゆみははたから見れば、真面目な生徒で通っているのだ。
そのため俺に対してとはいえ、あゆみがそんなことを言うことがあるというのは俺にとっては想定外だった。
「休む気か?先生になんて言う気だよ?おいって!!言っとくけど俺は協力しないからな!」
俺は前以上に必死にあゆみの肩を揺らしながらそう叫び、あゆみが起きるよう訴えかける。
しかし、あゆみは起きるどころか、上げていた手を降ろしもうひと眠りに着こうとする始末である。
(え、どういうこと?何?これ俺がおかしいの?)
そしてついに俺ははそんなことまで考えてしまった時、
「はぁ~、もう、いい加減気づきなさいよ…」
やっとあゆみが体を起き上がらせ、寝ぼけた顔を俺に見せる。
「はぁ?どういうことだよ?気づくって何が?」
すると起きたはいいものの、今度はあゆみの発言に引っ掛かりを覚える。
あゆみの発言から、俺はとっさに部屋の時計がずれているのかといった、学校に行く行かないでは全く関係のない的外れなことを考え始める。
しかし、そのあとに発せられたあゆみの発言は、そんな俺の予想よりも、もっとシンプルなものであった。
「何言ってるのよ、今日は土曜日でしょ。学校は休みじゃない…」
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