第49話 三人のほのぼのとした日常・・・②
「ただいま~!!」
俺の部屋であるはずのアパートの一室では、なぜか俺ではなくあゆみの声が電気を消していた部屋へと響き渡る。
「何言ってんだよあゆみ、ここは俺の部屋だぞ。お前が言うべきセリフは“ただいま”じゃなく“お邪魔します”だ」
「いいじゃないケンジ、もうここは私の部屋みたいなものだし~」
「違うわボケ」
近くの弁当屋で晩御飯を買ってきた俺たちは、ものの数十分で部屋へと戻ってきた。
やはり、作る手間や片付ける手間がないというはやはりいいもので、袋から取り出した弁当はそのまますぐに食べることができ、食べ終わった後もそのまま容器を捨てるだけでいい、何ともありがたいものである。
「さぁ、さっさと食べちまおうぜ。早くしないとせっかく買ったばかりの弁当が冷めちまう」
そう言いながら、部屋のテーブルの上を片付けた俺は、三人が選んだ弁当を適当に並べ始める。
「あっ、うちお茶入れてくるね。冷蔵庫開けちゃってもいい?」
「おう、全然いいぞ。頼むわ」
そしてあかりの手伝いもあり、ものの数分で食べる用意を終えた俺たちは、さっそく各々が選んだ弁当を食べ始める。
「それじゃ、いっただっきまーす」
「なんだよあゆみ、さっきまで何も準備してなかったお前が一番がっついてんじゃね~かよ」
俺たちが選んだ弁当は、それぞれあゆみが唐揚げ弁当、俺がハンバーグ弁当で、あかりが野菜炒め弁当。
なんともまぁ各々の性格を表しているかのような選択である。
「わっ、このお弁当、すごいおいしい…」
「でしょでしょ~。あそこのお弁当屋さん、私の行きつけなんだ。ケンジの部屋に入り浸るようになるまでは、ほとんど毎日この店のお弁当食べてたんだよ~」
すると、あかりのおいしそうな表情に、弁当を作ってるわけでもないあゆみがなぜかドヤ顔でそう言い始める。
あゆみはあの弁当屋さんの何なのだろうか。
「お前、いくらおいしいからってよく今まで飽きなかったな~。お前がごみ出す時、一回鉢合わせたことあるけど、プラスチックのごみ袋の中身ほとんど弁当の容器だったじゃね~か」
あゆみが俺の部屋に入り浸るようになったばかりの頃、あゆみの出すゴミ袋はいつも何かの弁当の容器やお菓子のゴミばかりであった。
あの光景を見た瞬間の俺は、さすがに“お前、確か一人暮らししたかったんだよな?”と心の中で問いかけたものである。
「あ、あはは…このお弁当がおいしいってのは分かるけど、ちょっとそれは食べすぎじゃない?」
そして、そんな俺の発言により、あかりも若干苦笑いである。
「むぅ~いいじゃん。別にそんな昔の話はさ~。はい、もうこの話おしまいっおいしまいっ!!」
すると、さすがのあゆみもそんな俺たち二人の反応に恥ずかしくなってしまったのか、両手を振って強制的に話題を変えようとし始める。
「分かった分かった。じゃあこの話は終わりでいいよ。…で?今度はどんなお前の恥ずかしい話をするんだ?」
「しないって!!一回恥ずかしい話から離れようよ?」
なぜか急にボケとツッコミが入れ替わってしまったあゆみは、焦った様子でそう俺にツッコんでくる。
そして、話題を何とか自分からそらそうと思ったのか、あゆみは急に、全く違う話を始めてくる。
「あ…そういえばさ、あかりさんのお母さんっていつも何時に帰ってくるの?」
「!?」
すると、俺はあゆみのそんな発言に一瞬戸惑いの表情を浮かべる。
(……絶対に話題を間違えてるよ、お前)
恥ずかしくなっててんぱってしまったのは分かるが、なぜあゆみはこの話題を選んだのだろうか。
俺は思わず、心の中でそうあゆみに訴えかけてしまう。
「………」
すると、俺の予想通り、あゆみの発言を皮切りに場の空気はぐっと重くなってしまい、俺とあかりは思わずほぼ同時に目線をあかりの方へと向けてしまう。
「え、え~っと、実はお母さん……ほとんど朝帰りなんだよね」
すると、俺からすればわざわざ答えなくてもいいものを、あかりは素直にそう答えてしまう。
(いいんだよ、答えなくたって。余計空気重くなっちまったじゃね~か!)
あかりの発言を聞いた俺は心の中でそうあかりにつぶやきながら、あゆみに怒りの念を覚える。
「あ、あはは……そ、そうなんだ…」
その上、自分から聞いてきたはずのあゆみは、場の空気に耐えられなかったのか、まともなフォローをせず、うつむいてしまっている。
(バカ野郎、あゆみから聞いたんだから責任取れよ!)
俺は場の雰囲気を重くした張本人であるあゆみにそうツッコみながら、怒りの念は最高潮へと高まる。
(あ~あ、どうしよ。この空気。せっかく場所を俺の部屋に変えて一回リセットしたのにな~)
そして俺もあゆみに続き、うつむきながらいろんな考えを巡らせる。
俺としてはもう暗い雰囲気になるような話はもうこりごりなのだ。
高校生活最初の友達であるあかりとは楽しくワイワイしたいだけなのである。
(あぁ!!もうどうにでもなれやっ!!)
そして、最終的にやけくそになってしまった俺は、何とか場の空気を変えようと、思わず立ち上がり、二人に向かってこう叫んでしまった。
「よ~し、じゃあ夜中まであそぼ~ぜ~!!」
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