第47話 あかりの回答・・・①
俺がその言葉をつぶやいた瞬間、この教室にとんでもなく重い空気が流れだす。
それはあかりの顔を見ればより明らかであり……
「………」
現在のあかりは、無言で目を大きく見開き、ただただ俺の顔をじ~っと見ている。
俺はこの時点で、先ほどの発言に対し、大きく後悔をしてしまう。
(はぁ~、だから俺は言いたくなかったんだよ…。やっぱりこういう時は女子同士とかの方がまだよかったんじゃないのか?)
俺はそんなことを思うと、目線をあかりからあゆみへと変え、じっと睨んで俺の心境を伝える。
しかしあゆみは、そんな俺の目線を発見すると自分は無関係だよとでもいうように、目線を俺から大きくそらし、なぜか天井の方を見つめ始める。
(なんだよ!悪いのは俺だけかよ!)
そのことにより、俺はより後悔の念を強めてしまう。
しかしその時、今度はあかりの方が意識でも取り戻したかのように、目をぱちぱちさせ、
「……あちゃ~、昨日見られちゃったのか~。恥ずかしいなぁ~」
急に笑顔を取り戻し、そんなことを俺につぶやいた。
場の雰囲気を和ませるために、そんな口調でつぶやいてはいるのだろうが、あかりのその笑顔は、学校で見せるような心からの笑顔ではなく、むしろ、昨日俺の家で見せたような寂しさに満ちた笑顔に近かった。
「いや、別に共働きで夜も仕事だとかだったら別にいいんだ。ただ…ちょっと気になっただけでさ…」
そのため、俺もこれ以上場の雰囲気を暗くしてはいけまいと、そんなかすかな希望をもって、そんなことを言ってはみる。
しかしそう言う俺も、先ほどのあかりの表情から、そんな軽い事情ではないのだろうということは言う前から確信しており、
「ううん、違うんだ……まぁ逆にそんなことだったら、うちは全然いいんだけどね…」
あかりは大きく首を横に振り、下を向きながら小さくそうつぶやく。
この時点で先ほどの俺の質問は、気楽なものではないのだろうということは容易に想像できる。
(これやっべ~。今回、とんでもないことに首を突っ込んだな…俺…)
俺はそんなあかりの発言により、先ほどの発言をより強く後悔する。
「まぁ~見られちゃったのならしょうがないね、うちもここまで知られちゃってるのにケンジ君たちに隠したままにしておきたくはないし…。とりあえず説明するね」
そしてそんなあかりのつぶやきにより、あかりは自身の家庭環境が明かし始める。
(よし、こうなってしまってはしょうがない。どんな事実だろうと俺は受け入れる!!)
そして、そんなあかりの発言により、俺とあゆみは強い覚悟を持ち、あかりの発言に耳を傾けるのだった。
「……うちの両親ってね、実は離婚してるんだ。だから今は、お母さんとの二人暮らし。でもね、お母さんお金を稼ぐためにって夜も働きに出ちゃってて、いつも家に帰ってもずっと一人なんだ…」
「………」
この時点で、場の雰囲気は前以上に重く、俺史上最大と言っても過言ではない。
俺はそんなあかりのカミングアウトに対し、覚悟に似合うよう、無言無表情を貫いている。
しかし、俺の心はそんなわけにはいかないわけで、
(………俺、帰っていいかな)
俺はこの時点で覚悟は半分折れてしまった。
場の雰囲気、あかりの家庭事情、この二つが混ざりあい、俺の心はおおきくゆさぶられてしまった。
もし、世間一般の人がこの状況になってら、なにをそんなに驚いているんだと思うかもしれない。
世間からすれば、このような事情を抱える家庭は少なくないというのは分かっている。
しかし、ちゃんと両親もいて、逆に高校で一人暮らしをすることを許してくれるような親を持つ俺は、このような家庭があることをあまり信じられないのだ。
そしてそれは、俺の隣の奴も例外ではなく、
「………」
あゆみも俺と同じく、目を大きく見開いて、今の現状を信じられないでいるようだ。
母親との関係がよくはないものの、私立受験させてくれるような両親がいて、その上お姉さんまでいるあゆみも、やはり世間から見れば恵まれている方らしい。
「……そうか、そうだったのか。なんかほんと、こんなこと聞いちゃってごめん」
そして数秒後、俺はこんな重い空気を何とか受け入れ、とりあえず一言あかりにそう謝る。
「いや、いいよ良いよ。やっぱりおかしいと思うもんね。夜に家の電気がついてなかったらさ」
しかし、それに対しあかりは場の雰囲気をよくするために、そんなことを言ってくれ、
「それにうちの方こそごめんね。実は昨日、家に帰るのが寂しくてケンジ君の家に行っちゃってたんだ。こんな友達になって数日の私を家に上げさせちゃってほんとごめんね」
その上、逆に俺たちの方に謝ってくる始末である。
「おいおい待てよ。謝るのが俺ならまだしも、あかりさんが謝るのはおかしいだろ」
俺はあかりのそんな態度に驚き、そう言ってあかりの謝罪を制止する。
なぜそういう人はこんなにもお人よしなのだろうか。
俺からすれば信じられない。
俺はあかりの両肩に手を置くと、とりあえず場の雰囲気を一旦リセットするため、あかりのこんなことを提案するのだった。
「よし、今日も俺んちに来いよ。今日も一緒に飯食おう!!」
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