第46話 あかりへの疑問・・・③
「あゆみさん!!なんでこんなところに!?」
今俺は、自分の目の前にうつるこの状況を、受け止めきれないでいる。
なぜ俺の目の前には、見た目からすればほぼ大人と言っても差し支えない体格の女子高生が、わざわざこんな放課後にロッカーの中に隠れているのだろうか。
俺は事情は知っているから別にいいとして、他人がそれを見れば驚くことはもちろん、頭の中に?のマークが強く表れることは間違いないだろう。
よくマンガなどではとっさに隠れてしまうなんていうシーンもあるが、現実である上に、とっさでもない状況で、こんなことが起こるなんて誰が予想できるだろうか。
実際、俺の後ろではあかりが大声を出しながら、この状況に対し困惑の表情を浮かべている。
「……はぁ、まぁ俺は大方の予想はついているから、とりあえずあかりさんの前では深くは聞かないでおいてやる……とりあえず出ろ」
そして俺はこの状況におろおろしているあゆみに対し、最大限の情けをかけてやろうと、そうつぶやいてあゆみをロッカーから出させる。
さすがに俺も、こんな状況になってしまった真相を、あえてあかりの前で問い詰めようとするほど鬼ではない。
「……うん、ありがとう。本当にありがとう」
そしてあゆみはそんな俺のすご~く寛大な対応に対し、涙目を浮かべてそう感謝を述べる。
「ねぇ、どうしたの?一体あゆみさんは今までずっと何してたの?うちが来た時にはもうそこにいたってことは、少なくとももう一時間はそこにいたことになるんだけど!?」
しかし、この状況は俺たちだけが納得すればいい話でもなく、当然あかりもあゆみの行動に驚きを隠せていない。
「ねぇ…どうしようケンジ?なんて説明すればいいかな?」
そして、そんなあかりの質問に、あゆみはおろおろしながら俺の方をじっと見つめて小さくそうつぶやく。
まぁ、たしかにこの状況で、あゆみの方からあかりの家庭環境を聞くの嫌だから、先に俺がこの教室に来てあかりに聞くのをずっと待ってました~なんて言えるわけないことはさすがの俺でもわかる。
しかし、正直このままだと俺たち二人は、友達が欲しいからとわざわざみんなに懇願するような彼氏と、わざわざ放課後に一人でロッカーの中に隠れて一時間過ごすような彼女のとんでもカップルだという噂が流れてしまう。
流石にそれは俺としてもごめんである。
(はぁ、しょうがねぇなぁ)
そして、これはあゆみだけではどうしようもできないだろうと判断した俺は、あかりの方を振り向くと、
「あぁ、あかりさんごめん。これは俺のせいでもあるんだ」
そんな突拍子もないことをあかりにつぶやく。
そしてこの発言を皮切りに、これからの話の流れは俺の作り話に左右されることになっていく。
「え~っと、どういうこと?」
しかし、あかりはそんな俺の発言に対し、意味が分からず困惑の表情を浮かべる。
「………??」
そしてこれは当然、何の口裏を合わせていないあゆみも例外ではない。
「実はな、今日あかりさんに聞きたいことがあってさ、だからあゆみには今日この教室に来ないようお願いしてたんだ…」
「えっ、それだけなら別にあゆみさんがいなくっても……」
「いや、これは二人だけで真剣に聞きたかったことなんだ」
俺はとりあえず、あゆみのことは置いておいて、話をあかりの家庭環境の話題へと振り向かせようと試みる。
今だけでも話題をそちらへとずらせれば、あかりもあとからわざわざあゆみのことについて聞いては来ないだろう。
いわゆる、話の上書きである。
まぁこれは、俺から聞きたかったことではなかったのだが、あゆみの名誉にかかわることだ、こればかりはしょうがない。
「でも、あゆみもたぶん今回のことが心配になって、わざわざロッカーに隠れるなんてことをしてまでも、話を聞きたかったんだと思うだ」
そして俺はこのように、自分から見てもあゆみにとってとてつもなくいい流れを作り出すと、
「なぁそうだろ、あゆみ?」
という、パスの中では王道ともいえるような素晴らしいパスをあゆみに出す。
すると、あゆみもそんな俺のパスを理解したのか、
「あっ、うん、そうなんだ。ケンジには俺の方から聞いておくからって言ってたけど、やっぱり私もさ、心配になっちゃって」
今までの話を合わせるようにそんなことをあかりにつぶやく。
これであゆみがロッカーの中にいた言い訳も完璧だ。
そしてそんな俺たちのうまいコンビネーションにより、話題をあかりの方へと向けることに成功すると、
「え、えっと……とりあえず事情は分かったんだけど、結局うちに聞きたいことって何?うち、そんな心配されるようなことした覚えはないんだけど?」
今度はあかりの方から話題をこちらの方へと向けてくれる。
何度も言うが、この話は俺の方から聞きたくはない。
しかし、話がここまで来てしまった以上、俺はついにあかりに対し、今まで俺たちが持っていた疑問をあかりに直接ぶつけるのだった。
「あのさ、昨日俺があかりさんを送ったときに見ちゃったんだ。あかりさんが入っていった部屋に、電気が一切ついていないのをさ。えっと……家族とかってどうしてたのかな?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます