第44話 あかりへの疑問・・・①


俺があかりを家に送った次の日の朝、俺はいつも通りあゆみとともに学校に登校する。

今日は何とか急がなければいけないような時間にはならず、うまく起きることもでき、余裕をもって学校に到着することができた。

まぁ今日においては、寝る前も起きた後も目がさえてしまったというのもあっただろう。


「ガラガラッ……」


そして自分たちの教室に到着した俺たちはいつも通り教室の扉を開ける。

少し前まで友達と呼べるような人がろくにいなかった俺たちは、いつもなら俺が扉を開けたところで誰も反応はしてこないのが普通である。

その上、数日前にクラスの人たちの前で大げさに友達になってくれとお願いをしてしまった俺がいるのだ、反応しないどころか気味悪がる人がいてもおかしくないだろう。

しかし、


「あっ、ケンジ君あゆみさん、おっはよ~う!!」


今はあの頃とは違い、俺たちに朝の挨拶をしてくれる友達が一人存在している。


「お、おう…おはよう、あかりさん」


そう、それは今俺たちが一番話しかけにくい人物である、あかりであった。

そんな元気のよい挨拶をするあかりだったが、俺はそんなあかりの態度に対し、たどたどしくそう返してしまう。


「う、うん……おはよう、あかりさん…」


その上、あゆみでさえもあかりに対し、このように少し後ろめたいかのように返事をしてしまう。


「どうしたの二人とも、なんだか元気がないね?」


そしてあかりもそんな俺たちの気まずそうな雰囲気を感じ取ってしまったのか、不思議そうに首をかしげながら俺たちにそうつぶやく。


「い、いやっ、何でもないよ。昨日遅くまで起きちゃってたせいであまり寝れてないだけなんだよ。なっあゆみ?」

「そっ、そうなのよ。ちょっと昨日ケンジの家にあるマンガにはまっちゃって、帰るのが遅くなっちゃったのよね!」


そして俺たちはそんなあかりの反応に戸惑ってしまい、たどたどしくそんな変な言い訳を二人で示し合わせて答えてしまう。


「そうなの?まぁうちもそんなことしょっちゅうあるから、あまり人のことは言えないんだけど早く寝た方がいいよ。結局私はそんなときは授業中寝ちゃうんだけどね~」


すると、あかりは少し安心したような表情を浮かべ、そんな話を笑いながら俺たちにしてくれる。

今までそんな明るいあかりを見るのは普通だったのだが、昨日のあかりの様子を見てしまった俺は、自分の中では少し違和感を覚えてしまう。

まるで、家なんかより学校の方がよっぽど楽しいかのように…


「それじゃあまた、放課後にたくさん話そうね~」


そんなことはさておき、とりあえず俺たちの反応に納得したあかりは、そう言って先ほどまで一緒に話していた友達の方へと行ってしまう。

そして扉の前で、二人ポツンと残された俺たちはというと、


「なぁあゆみ、やっぱりとりあえず聞いてみた方がいいんじゃないか?やっぱりこのままモヤモヤしたままってのはまずいだろ。お互いにとって」

「そうね、私もそう思うわ。そうじゃないと私たち、あかりさんに対して変な想像しちゃったまま、関わらないといけなくなりそうだし」


あかりのことでそんなことをつぶやき合う。

そう、なぜ今日の俺たちはあかりに対し、先ほどのような変な対応を取ってしまったのか?

それは昨日の夜の出来事に起因する。



―――――昨日、あかりを家へと送った俺は自分の家に戻るとあゆみに対し、一つの疑問を口にした。


「あかりさんの家、こんな時間なのに部屋の窓に電気が一切ついてなかったんだけど……一人暮らしじゃなかったよな?」


俺がその一言をつぶやいた瞬間、あかりはというと一瞬固まったかのような表情を見せる。


「え、えっ、それってどういうこと?あかりさんって確か地元がここで、ずっと家族と暮らしてるんじゃなかったかしら?」


そのあとあかりは多少戸惑いながら、逆に俺にそう確認を取り始める。


「いや、そうだよな。俺もそうとしか聞いてなかったからどういうことかなって思ってたんだ。だからあゆみに確認を取ろうと思ったんだけど……」

「えっ、でもそれっておかしくない?だってもう九時半過ぎてるのよ。それなのに両親どっちも家にいないって。……ん~まぁ両親共働きだって言うんなら分からなくもないけど、それでもやっぱり遅い方よ」


そしてあゆみのそんな言葉をきっかけに、俺たちの中でさまざまな意見が飛び交い合った。

正直、本人に直接聞くのが一番なのは分かってはいるのだが、やはりそう言った話をしてしまうと止まらないもので、様々な説が浮上してしまった。


最初は両親の仕事の都合上、この時間になっても帰れないのではというものから始まり、途中から親が夜遊びにはまったのではという内容や両親が離婚してしまったのではというネガティブな内容へと路線変更してしまった。

そして最終的には両親が離婚してしまったうえに、ついて行った母親はお金を稼ぐために水商売をしているのではという、今までの流れもへったくれもない無茶苦茶な説まで浮上してしまう始末である。

その時が深夜テンションだったとしてもフォローしきれないような内容だろう。


それだけを切り取ってしまうと、その時の俺たちは噂好きの近所のおばさんと対して変わらない。

あかりからすればいい迷惑である。

しかし、俺たちとしても学校でいつも元気であるあかりが、昨日の夜は逆に暗そうな表情をしているところを見てしまってはそんな想像は多少はしてしまうのも許しは欲しいという思いもある。


「まぁ、でもやっぱりちょっと気まずいよな」

「うん、この学校に入って初めて友達になってくれた人に対してあんな想像しちゃったんだもの、正直あかりさんに合わせる顔がないわ」


まぁ、そうはいっても友達に対してあんな想像をしてしまった俺たちは、正直顔を合わせたくはなかった。

今日のあかりとの会話がたどたどしかったのもそれが理由である。


「そんなこと言っても仕方がないからさ、とりあえず放課後にでも聞いておいてくれよ、俺あえて少し遅れて空き教室に行くから」

「何言ってるのよ、この話はケンジが持ち掛けてきた話なんだからあなたが聞きなさいよ」

「なんでだよ。こういった話は女子同士の方がいいだろうよ」

「関係ないわよ!あなたこそ当事者なんだから責任取りなさいよ」


そして俺たちは本当の真相を知るために、あかりに直接聞くという行動をお互いが押し付け合う。

真相を知りたいという思いもあるのだが、やはり相手にそんな失礼なことを自分から聞きたくないという思いもあるのだ。


そして俺たちは、そんな変なモヤモヤを抱えながら、放課後になるのをただただ待つのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る