第42話 新たな学校生活・・・④
「ま、俺の部屋だけどゆっくりしてってよ。俺は廊下のキッチンで晩御飯を用意するからさ」
俺はあゆみとあかりを自分の部屋へと連れて行くと、そう言って俺自身は廊下にある冷蔵庫をあさりだす。
「え、ほんとに晩御飯ご馳走してくれるの?」
すると、そんな俺の発言にあかりがびっくりした顔をしながらそんなことをつぶやく。
「おう、もうこんな時間だしな。まっ、それにどうせあゆみはここで食っていくだろうし」
「ほんとに?でも、なんだか申し訳ないな…」
「こういう時は甘えちゃいなよ。それにお腹だってすいてるでしょ?食べてきなって!」
そしてあかりの隣にいたあゆみもそんなことを言い始める。
実を言うと、あゆみは初めて俺の部屋に来て以降、料理があまり得意ではないからという理由で、ほぼ毎日俺の部屋でご飯を食べるようになってしまったため、食費を一か月一括で払うようになった。
そのため、俺の部屋でご飯を食べるということが日常になってしまっているのは分かるが、それにしても当たり前になりすぎてはないだろうか。
「おいおい、お前が言うんじゃねぇよ!……ん~まぁ、そういうことだ。気にするなって」
「そ、そう?じゃあ、お言葉に甘えようかな」
そしてあかりはやっと俺らの提案を受けたため、俺はすぐに晩御飯の準備を始める。
まぁ準備と言っても、先週の休みに作ってそのまま冷蔵庫で保存しておいた肉じゃがをただ温め、ご飯も冷凍庫に保存しておいたものを解凍するくらい。
追加で味噌汁も入れようとは思うが、それもインスタントだ、準備は三十分とかからないだろう。
「は~いできたぞ~。テーブルに持って行ってくれ」
俺は温めた料理を食器にそれぞれ乗せていくと、あゆみとあかりに料理をテーブルへと持って行ってもらう。
「よーし、じゃあみんな、それぞれ食べ物はちゃんとあるか?」
そしてすべて準備を終え、三人テーブルを囲んで座ると、
「それじゃ、」
「「「いっただっきま~す」」」
さっそくみんなで手を合わせ、ご飯に箸をつけ始める。
「この肉じゃが、すごくおいしい。これほんとにケンジ君が作ったの?」
すると、さっそく肉じゃがを一口食べたあかりが顔を変えてそんなことをつぶやく。
「でしょ~、ケンジの作った肉じゃがは最高だからねぇ~。じゃんじゃん食べちゃって~」
「だからあゆみが言うんじゃねぇって。まぁ、気に入ってくれたなら何よりだ」
俺はあかりのそんな反応にそうやって返すが、あゆみ以外俺の料理をほめてくれるような人はいないため、やはり少し照れくさい。
「…すごいな~ケンジ君は。うち、こんな料理作れる自信ないや…」
すると、あかりはなぜか急に少し暗い表情をしながらうつむいてそんなことを言い始める。
なにか少し深刻そうな面持ちだ。
正直、学校でのあかりの表情とはすごい違いである。
「で、でも普通の高校生はこんな感じなんじゃないかな?俺はもともと一人暮らしするつもりだったから多少料理ができるだけで、あかりさんは実家暮らしなんだから気にすることないって」
「そうそう、それなら一人暮らしの私はどうなのって話だからね~」
「そんなこと、笑顔で言ってるんじゃね~よ」
そして俺はそんなあかりに対し、元気づけようとそうつぶやく。
それに今日の献立だって白ご飯に味噌汁(インスタント)、肉じゃがの三点。
そこまで料理ができるという人間の献立ではないだろう。
そのため正直俺としては、暗くなる理由が分からず困惑してしまう。
「ま、まぁ、普通はそうだよね…」
しかしあかりは今度、そんな含みのある言い方でそう返してくる。
何とも真意が分からないものである。
「ふぅ~ご馳走様~。やっぱりケンジのご飯はおいしいねぇ~」
そして俺たちはそうこうしているうちに三人の中で、あゆみが最初に晩御飯を終える。
「はいはいありがとよ。食べ終わった食器はキッチンの手洗い場に持って行っておけよ」
「はいは~い」
俺のそんな発言により、あゆみはさっさと食器をキッチンの方へと持っていく。
「あれ、もうこんな時間か」
そして俺はあゆみに一言言ったついでに、壁に掛けられた時計を見ると、針はもう八時半を過ぎていた。
どうせあゆみは寝る直前まで俺の部屋にいるとして、あかりはさすがにこれ以上いるのはまずいのではないだろうか。
このまま居続けると、親に迷惑をかけてしまうことはもちろん、帰る途中に警察などに声をかけられても、部活や塾などと言い訳ができなくなりそうな時間になってしまいそうである。
「あかりさん、食べ終わったらさすがに帰った方がいいんじゃない?これ以上はちょっとまずいと思うけど」
そのため、俺はあかりにそう提案してみるのだが、
「あ、うん。もうそんな時間か…」
またあかりは少し暗い顔をし始め、
「ケンジ君!!あの………うん、やっぱり、何でもない。そうだねもう夜遅いし、食べ終わったら、帰ろうかな」
急に勢いよく俺の方に顔を近づけたかと思ったら、また暗い顔をしてそんなことをつぶやいた。
今まであかりの行動を見てきたが、正直、あかりの反応は少々情緒不安定なのではないだろうか。
自分は多少鈍感であることは自覚しているが、これはさすがに俺でもそう思ってしまう。
そう思った俺は、勢いよく自分の茶碗を自分の口へとかきこむと、
「それじゃ、あかりさんの家に行きますか。夜も遅いし、ついて行くよ」
あかりにそう言って、外へ出る準備をするのだった。
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