第41話 新たな学校生活・・・③


「へぇ~ここがケンジ君の住んでるアパートなんだ、学校からとっても近いね」


俺たち三人は、あかりの提案を受け、現在俺の住むアパートの前にいる。

まぁ俺としては家に来る奴が一人だろうが二人だろうが別にかまわないわけなのだが、


「なぁ、あかりさん、本当にいいのか?もう七時半だぞ、さすがに家に帰った方が…」


俺は目の前のアパートを見てテンション上がっているあかりに向かって、そう確認を取る。

一人暮らしかつ部屋が隣のあゆみならともかく、さすがに俺としてはあかりをこんな時間になっても家に帰らせないというのはやはりすこし抵抗はある。


「だからさっきも言ったじゃん、大丈夫だよ。うちの家もここからそこまで遠いってわけじゃないしさ」


しかしあかりはそんな俺の不安を一切気にすることなく、そんなことを笑顔で言ってくる。


「いや、でもあかりさんが大丈夫って言ってもさ、やっぱり親とかが心配とかするんじゃないか?」


そして次に俺は親の存在を出して、もう一度確認を取ろうと試みる。

あかりが大丈夫でも、万が一あかりの親を怒らせたりなんかすれば、怒られるのは当然部屋の家主である俺だ。

そんなことになるのはごめんである。


「………」


しかし俺がそうつぶやいた瞬間、なぜか今まで笑顔だったあかりが急に一瞬真顔となってしまう。


「……あかりさん?」


俺としては、あかりにそんな反応を求めているわけではなかったため、少し動揺しながら、俺はあかりの名前を呼ぶ。


「…っ!!」


しかし、そんな状態はほんの一瞬であり、俺があかりに話しかけると、あかりはすぐに意識を取り戻したかのように俺の顔に視線を向け始め、


「…だから大丈夫だって言ってるじゃん、さぁさぁ早く中に入ろ~」


そんなことを言いながら俺の背中を押し、俺をアパートの中へと連れて行く。


(なんか話をはぐらかされている気がするが、本当に大丈夫か?)


しかし俺はそんなあかりの行動から、そんな不安が俺の脳裏に浮かぶ。



そして俺はあかりに背中を押される形でアパートの階段を上がっていくと、


「でもさ~ケンジ君は何度もうちにそう確認を取ってくるけどさ~、なんであゆみさんには何も言わないの?うちだけ不公平じゃん」


急にあかりはそんなことを聞いてくる。


「あぁ、そういえばあかりさんには言ってなかったか。実はあゆみもさ、一人暮らしなんだ。そして部屋は俺の隣」


そして俺は今まで俺たちの状況を話してなかってことを思い出し、今さらにはなるがそう告白する。


「えぇ!そうなの!?めっちゃいいじゃん。何?アパート借りるからそうしようって決めてたの?」

「そんなわけないだろ。ほんとたまたまこのあたりで学生でも住めそうなところっていうのがここくらいしかなかったってだけだよ」

「まぁ確かにここら辺は一軒家ばっかりだし、一人暮らしできそうなのはこのあたりだけだけど…それにしてもじゃない!?」


あかりはそんな俺たちの奇跡的な状況に驚きつつも、まだあまり信じられないでいるらしい。

しかし俺だって信じられない状況なのだ、俺の方こそそう言いたい。


「じゃ~ん!見て、ここが私の部屋で、そして隣がケンジの部屋なんだよ」

「ほ、ほんとに隣なんだね…。うっそ~」


しかし、あゆみが実際に自分の部屋と隣の俺の部屋を紹介することで、あかりはこの現状を信じざるを得なくなっている。


「さっ、とりあえず中に入れよ、もう飯時だし、晩飯食ってくだろ」

「うん、食べる~!」

「あゆみ、お前に言ったんじゃねぇ。お前はどうせ俺が言わなくたって食うだろ」

「あはは~、ばれちゃってるか」


そして俺たちはそんな茶番を繰り広げながら、俺の部屋へと入っていく。

俺から部屋へと入り、それぞれ自分の靴を脱いで中に入っていく中、


「ねぇ、あゆみさんはいつも放課後はケンジ君の家に行ってるの?」


あかりは靴箱で自分の靴を脱ぎながら、先に靴を脱いで中へと入っていく俺とあゆみに向かってそんなことを聞いてくる。


「まぁ、いつもってわけじゃないけど。勉強教えてもらう時は大体行ってるかな。それに聞いてよ~テスト前日とかにはさ、ケンジの部屋に泊めさせられたんだよ~、朝起きれないからってさ。その時はびっくりしちゃったよ~。部屋隣なのにさ」

「でも、結局俺たちどっちも寝坊したけどな~」

「あはは、それは言わないでよ~」


そしてそんなあかりの質問に俺たち二人でそう答えると、


「そんなことより、早く中に入りなよ。ケンジのご飯おいしいよ~。楽しみにしといて」

「お前が言うんじゃねぇよ」


今度はそんなことをご飯を作る俺ではなく、あゆみがあかりにつぶやいた。

そしてあゆみはそう言った後、俺に続いて部屋の中へと入っていく。

しかし、あかりはそんな俺たち二人を見ながら、静かに俺たちに聞こえるか聞こえないこの声で何かをつぶやくのだった。


「……羨ましいな~……」

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