第38話 空き教室の訪問者
「え~っと、あなたは?確か同じクラスだったわよね?」
そして、そんな彼女の訪問に最初に反応したのは俺ではなくあゆみの方だった。
今まで話したこともない人との会話。
そんな勇気のいること、まともに友達のいない俺にとってはすぐさま行動に移せるものではなかった。
「そう!うち、同じクラスの平家あかりって言います。よろしくね!」
そしてあゆみの質問を返すようにあかりと名乗る少女は自己紹介をおこなう。
彼女の容姿は、派手な金髪に髪型はロングツインテールをしており、身長は百五十五センチほど。
そして目はあゆみと同じくらいぱっちりしており、肌も二次元なのではないかと疑うほど白く美しい。
また、身長と髪型が相まってか、全体的に幼く見える。
「…それで?さっき俺の名前を呼んでたけど、あかりさんが俺に何の用?」
あゆみが第一声を発してくれたおかげか、そのあと何とか俺はあかりに話しかけることに成功する。
「いや~朝見てたよ。すごかったね~。入学してまだ2か月ほどし経ってないか経ってない私たちに、まさか君があんなこと言っちゃうなんて」
すると、あかりは今度俺に向かってくすくすしながらそう言ってくる。
俺はそんなあかりの反応に、思わず手をあゆみの肩にまわし、あゆみの体ごと回れ右をすると、
「なぁ、やっぱり俺のやったことって相当おかしかったのか?」
そう小声であゆみに尋ねる。
「はぁ?さっき言ったじゃない!?まだわかってなかったの?う~ん、そうね、たとえて言うならクラスの目の前で自分は赤点を取りましたって言ったようなものかしら」
「えっ、なにそれ。俺のやったことってそれと同類なの?」
そんなあゆみの返答により、俺はガクッとうなだれると、再び体をあかりの方へと向きなおし、
「え~っと、それで?そんな行動を起こした俺に何の御用ですかな?」
多少やけくそになりながらあかりにそう尋ねる。
「朝にケンジ君が言ってたでしょ、友達になってくれませんかってさ。私がそれを聞いてきたってことは用事は一つしかないじゃん」
すると、あかりは俺に用事を察してほしいのか、あえて明確なことは答えず中途半端な返答をする。
しかし俺としても、ここまで言われると察せないなんてことはないわけで…
「ま、まさか、俺と友達になってくれるのか?」
俺はあかりがそう言った瞬間に思ったことを、そのまま言葉にして返す。
しかし、この時点で確信はあったが、あまりに信じ切ることができなかったので多少震えながらそうつぶやいてしまう。
すると、俺の返事を聞いたあかりは少しニヤッとした表情を見せながら、
「せいか~い!ぜひケンジ君と友達になりたくてここに来たんだっ!」
そう俺に宣言してきた。
「はっ、えっ、マジで!?」
俺はあまりの予想外の出来事に、自分史上最大と言ってもいいニヤケ顔でそう聞き返してしまう。
うれしい反面、それが事実だとは思えない自分もいるのだ。
「うん、もちろん!」
しかし、あかりはそんな俺の疑いにも笑顔でそう返す。
こんなことがあってもいいのだろうか。
俺はその流れで即オッケーしてしまおうと、そのまま前のめりになるのだが、なぜか今朝と同じく、俺の首根っこをつかんで俺の行動を阻もうとする人が一人、俺の隣に存在していた。
「おいっ!!何すんだよ、放せよあゆみ!これ普通に痛いんだって」
そしてあゆみはそのまま俺ごと回れ右をすると、また二人の小声での会話が始まる。
「待ってよケンジ、さすがにおかしくない?ケンジとは何の縁もないようなこんなかわいい子が、あなたと友達になりたいなんて」
「おいおい、失礼だな。いいじゃね~かよ、俺に友達の一人や二人いたってさ。それともなんだ?お前、俺に女子の友達ができることに嫉妬でもしてんのか?」
「そんなわけないでしょ。でもあんなことがあったのにわざわざ相手の方から話しかけてくるなんてやっぱりおかしいわよ。何かの罰ゲームとかだったらどうするのよ」
「そんなわけないはおかしいんじゃない?一応お前って俺の彼女なんだよな?あと罰ゲームってなんだよ!俺ってそんな存在になっちゃったの?今朝の出来事だけで?」
俺たち二人がこのようにひそひそ言い合っていると、あかりはゆっくり俺たちに近づいてきて、
「二人で何こそこそ言い合ってるの?私もちゃんと混ぜてよ」
俺たちの後ろからそうつぶやいてくる。
俺たち二人はそれぞれあかりのつぶやきに、ビクッと反応すると、あゆみは自分の不安を取り除くためクルっとあゆみの方へと向きなおし、
「ね、ねぇ、なんであかりさんはケンジと友達になりたいって思ったの?」
という、俺からすれば失礼極まりない質問をあゆみが投げかける。
「えっ?」
そしてあかりも当然だが、そんな質問が来るなんて思っていなかったようで、少し戸惑いの表情を見せる。
しかし、すぐに元の表情に戻ったと思うと、あゆみの質問にはっきりとこう答えた。
「だってさ、ケンジ君が友達が欲しいって言ってくれてるってことは、私がケンジ君と友達になりたいっていったら受け入れてくれるってことでしょ。私って寂しがりやだからさ、快く友達になってくれたらうれしいなって」
そしてそんな返事を聞いたあゆみは、それが自分にとって予想外の返答だったのか、口を少し開けながらあかりの方を向いている。
また、よくよく見ると、あゆみの頬が若干赤らんでいるのも確認する。
おそらく恥ずかしくなったのだろう、そんなことを言ってくれるような人に対して、これは罰ゲームなのではないかと疑ったことに。
もし俺がその立場だったら、恥ずかしくて今頃トイレに駆け込んでいる。
そしてそのあと、あゆみはあかりの両手を自分の両手でぎゅっとつかむと、
「ぜひ、私とも友達になってくれない?」
先ほどの態度はどこへ行ったのやら、満面の笑みであかりにそうお願いし始めた。
「うん、もちろん!確か、あゆみさんだっけ?よろしくね」
「私の名前知ってたの?うれし~、こちらこそよろしくね」
そしていつの間にか、俺より先に二人の間で友情が芽生え始める。
なぜ俺は自分と友達になってくれる人が来たのにもかかわらず、その人が自分以外の人と友達になるところを見なければならんのだ。
そして俺は、うれしそうに笑いながらあかりと握手をするあゆみを見て、俺が言うのもなんだが思わずこうつぶやいてしまうのだった。
「なんだよ…あゆみもなんだかんだでめちゃめちゃちょろいじゃね~か」
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