第36話 ケンジ決死の行動・・・①
あゆみの案が採用になってしまった次の日の朝、
「はぁ、気が重いな~」
俺はため息をつきながらあゆみの横を歩いて登校する。
「何言ってんの、それくらいのことで緊張してたらこれからの人生やっていけないよ」
そして、一緒に登校しているあゆみは、そう言って俺の背中を叩いてくる。
「……いいかあゆみ、人にはな向き不向きというものがあんだよ。お前にとってはそれくらいのことかもしれないがな、俺にとっては重大イベントなんだ」
「じゃあ今日を機に当たり前のことだと思えるようになりなさいよ。さすがにこんなことでいちいち緊張しなきゃいけないような性格は、世間では受け入れがたいだろうから」
あゆみは俺の弱音さえも聞いたうえでそんなことを言ってくるが、そんなこと俺自身が重々承知している。
同級生一人と友達になるのにここまで緊張しなければならない人間を、世間が喜んで迎え入れてくれるわけがないのは誰の目から見ても明らかだろう。
最近世間が多様性を重視している傾向にあることが感じてはいるものの、もしコミュ力抜群の奴と俺みたいな性格の奴がいた場合、社会は前者を取るということはさすがの俺でもわかる。
逆に、俺の方を取るような社会は明らかにおかしいと言えるだろう。
「分かってる、分かってるから。だから今はそんなこと言わないでくれ。世間では普通といっても、俺にとっては初めてなんだ!」
しかし、現実を完全には受け入れなくはない俺は、今度はそう言って耳を両手でふさぐと、
「あー、あー、聞こえませーん!」
そう言ってあゆみの言うことを完全に無視しながら、そのまま登校するのだった。
教室に到着し、俺たちは各々の席に着席すると、ちょうどSHRが始まるチャイムが鳴り、先生が教室に入ってくる。
しかし今日は別に特別な日というわけでもないため、先生もとりわけ連絡事項があるということはなくいつも通りものの数分でSHR自体は終わることとなる。
「はい、では先生からの連絡はここまでですが、他に生徒会や委員会から連絡はありますか?」
そして最後に先生がその言葉を発した瞬間、
(いまだ!!)
俺は心の中でそう決意する。
昨日、あゆみが自分から友達になりたい人に積極的に話しかけろと言われた瞬間、俺はこの機会しかないとずっと踏んでいた。
あゆみは一人一人自分から話しかけて行けばいいと言ってはいたものの、俺としてはそんなことを何度も何度も繰り返せるほど、心に余裕はない。
俺はこれからすべて一気にやらせてもらおう。
この、クラス全員が着席している、この時に。
そして俺はこの機会を逃すまいと、すぐさま片手をピンと上げる。
「え、あ、じゃあ浅倉君」
しかし、俺は生徒会に所属してもなければ委員会にも所属していないため、先生自体は俺が今手を上げたことを一瞬戸惑いながら俺の名前を呼ぶ。
そして名前を呼ばれた俺は、席から立つと、そのまま先生の方まで歩いて行き、教壇の隣にまでやってくる。
しかしそんな中、席に座っているあゆみはというと、
「………?」
何をしているんだと言わんばかりの顔で、ずっと俺の方を見つめている。
(あゆみもまさか、この時だとは思ってないだろうな)
そして俺は、自分があゆみの予想外の行動を起こしているのだという事実にちょっとした優越感を覚える。
しかし教壇の隣に立った俺は、そのあと目の前にいるクラスのみんなの顔を見た瞬間、
(ヤバい、ヤバい、両手めっちゃ震えてる!!)
人生最大の緊張に襲われてしまう。
そして数秒の沈黙の後、
(これは一瞬、一瞬で終わるんだ!!)
俺は心の中でそう叫び、ついに最後の決意を固めると、これから俺史上最大の行動を起こすのだった。
「皆さん、俺は浅倉ケンジといいます。俺はこの付近の中学からこの高校に進学したわけではないため、この高校には友達の一人もいません。その上、私はこの高校に入ってからも一人も友達ができることはなく、ここまでやってきてしまっていました。しかし私は皆さんと仲良くなりたいし、友達になりたいです。なので、どうか、どうかお願いです……」
そして俺は、ここまで言った瞬間、背筋をピンと伸ばすと、
「誰か…俺の友達になってはください!!」
俺は頭を九十度ビシッと下げながら、そう叫んだのであった。
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