第35話 友達が欲しい・・・②


「え…え…は?ど、どういうことだ?」


全く予想もしていなかったあゆみの返答に、俺は思わずそう返事をしてしまう。

もしこの内容が事実なら、俺はあゆみに対するイメージを大幅に変えざるを得ない。


「あの、だから…私もこの高校では、友達一人もいないんだってば!」

「はぁ!!」


そしてこの言葉により、完全に自分の中のあゆみというイメージが一瞬で崩れ去ってしまった俺は、思わず大声を上げてしまう。


「何よ、別にそこまで驚かなくたっていいじゃない」

「これが驚かないでいられるか!なんだよお前も俺とおんなじ人種だったんじゃねぇか。お前も友達作りのできない陰キャかよ」

「何それ!ケンジと一緒にしないでくれる?私は中学時代にはちゃ~んと友達はいましたよ~だ」

「でも今は俺と一緒だな!友達出来ない同士、仲良くやろうや」

「うっさい!にやにやするな!」


そして俺はこの事実に対して、少し安心してしまっている自分がいることに気が付く。

この事実により、あゆみの力を借りることができないことが分かってしまったにもかかわらず、俺はあゆみも自分と同じ状況であるということによる安心感がとても強く出てしまったらしい。

今の俺の心はとても高揚していた。


「まぁでもどうするかな~。これだと友達がいない人が一人から二人に増えただけ…。あゆみ、何かいい案はないのかよ。言っておくが、俺は一つもないからな」

「そんなこと、自信満々に言わないでくれる?」


あゆみはそうツッコんでいるが、こればっかりは仕方がない。

もし初めからいい案が出ているのなら、すでに俺が実践している。

現在の状況が、俺に成す術がないということを如実に物語っているのだ。


「そんなこと言われたって、私にだって友達いないんだから。私に聞くのもお門違いなんじゃないの?」

「何言ってんだよ、お前は中学の時には友達いたんだから話は別だ。そん時はどうやって友達になったんだよ?」

「中学の友達はもともと幼稚園からの友達がほとんどだから、物心ついたときにはもう友達だったのよ」

「あ~なるほど、まったく参考になんね~」


俺はガクッと肩を落とし、分かりやすいようにうなだれる。

しかし、今度はあゆみがそれに反応するかのように急に顔を近づけたかと思うと、あゆみは俺にこう言い放ってきた。


「あぁ~もうじれったいわね!あんた友達が欲しいだけでしょ。ならそうやって案なんて考えてる暇があるのなら、さっさと行動を起こせばいいだけじゃない!!」

「そ、それはそうかもしれないけど、だからってじゃあどうすりゃいいんだよ?片っ端から人に話しかければいいとでもいうのか?」


俺はあゆみの発言によって、やけくそになり冗談交じりでそう聞いてみたのだが、あゆみは俺の予想を超えてこう返してきた。


「…そのとおりよ」

「は?マジで言ってんの?」

「正直ここまで友達がいないのなら、羞恥心なんてものは捨ててとりあえず行動を起こすべきよ。この人と友達になりたいな~って思った人に片っ端から話しかけて見なさい。別に相手だってケンジが嫌いって言うわけじゃないんだから素直に友達になってって言えばとりあえず休み時間に話すくらいの関係にはなれるわよ」

「そんな無茶苦茶な……」


あゆみはそんな直進的な提案をしてきたが、俺からすればそんなもの人間性を取り去って効率のみを追求した理想的な案に過ぎない。

確かに、そんなことができれば友達の一人や二人できそうなものだが、そんなことを軽々しくできれば俺は今まで友達のいない高校生活を送ってはいない。

俺自身、今の俺の態度ははただの受け身になってしまっているのは分かってはいるのだ。

しかし、これから能動的な行動へと自分を突き動かすには、今までの自分という足かせがどうにも邪魔になってしまう。


「お、お前こそどうなんだよ。あゆみだって友達がいないんならそれを実行すればいいじゃね~かよ。そんなことできるのか?」


俺は苦し紛れにそう言って話をあゆみの方へと持っていくが、結局それは悪手であった。


「ざんね~ん。私ならそれくらいはとうにやってるわよ。私に友達がいないって言ったのは、ケンジみたいに放課後に一緒に時間を過ごしたり、休日に遊ぶ人がいないってだけで、学校にいる間は休み時間に同級生の女子に積極的に話しかけに行ったりしてるわよ。そこまでケンジと一緒にしないでちょうだい」

「…マジかよ」


結局俺は現実というのを突きつけられる。

先ほどの話で、あゆみも俺と同類かと安心しきっていたが、結局根本的には大きな違いというものがあったらしい。

俺のような完全ぼっちというのはやはり珍しいのだ。


「はぁ~、やるしかねぇのか」

「そう、とりあえず何でもいいから行動あるのみ。そしたらきっと何かは変わるわよ」


結局それ以外の案は思いつかない上、あゆみの案もあながち間違ってもいないため、俺の中であゆみの案が採用となる。


“自分から積極的に友達になってほしいと話しかける”

その言葉のみが俺の頭の中でぐるぐると駆け回り、俺の理性がその行動を促してくる。

自分に合わない行動であるというのは分かっている。

しかし今の現状ある以上、俺にその行動をせざるを得ないということを、理性が俺に説得してくるのだ。

そして俺はその説得に抗うことができず、結局その行動を起こすことを自分自身の中で誓うしかないのだった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る