友達を作ろう!

第34話 友達が欲しい・・・①


あゆみとの彼女契約の続行が確約されてしまった次の日、現在の俺はあゆみと一緒にいつも通り放課後に隣の空き教室に集まっていた。

まぁこれからも勉強を教えると言っても、テストが終わってすぐに猛勉強ができるほど、俺たちは勉強大好き野郎ではないわけであり、空き教室に集まるといっても二人ともただ何となくぼけ~っとしながら時間を過ごしている。

つまりテストが終わったばかりの今、この教室はただ俺たちが駄弁るためだけの部屋へと置き換わってしまった。

お互い何かをするということはなく、教室には音楽室から流れてくる吹奏楽部の音楽のみが響きわたる中、俺は誰かにというわけではなく、ただぽつりとこうつぶやいた。


「やっぱり、俺はまず友達が必要だと思うんだよ」

「ん?どうしたの急に?」


そんな俺のつぶやきに、ただ座ってスマホをいじっていたあゆみがそう問いかける。

そして、あゆみが俺に耳を傾けたことにより、俺は自分が考えていることを吐露し始める。


「今更だけどさ、俺のこの状況って結構おかしくないか?この学校に誰一人友達がいないのに、関係のあるやつが彼女であるお前だけなんてさ」

「何言ってるの?もともと彼女もいなかったんだから。まだマシになっていいじゃない」

「そんな悲しくなるようなこと言わなくったっていいじゃないか…」


そしてあゆみは、何気なくそう言って俺の心をえぐってくる。


「でも本当にどうしたのよ急に、今まで友達が欲しいって明確に言うことなんてなかったのに…」

「まぁ、俺にも心情の変化っていうのがあったんだよ」

「あっそ、まぁ深くは聞かないけど…友達が欲しいなら作ればいいじゃない」

「だからそんな簡単に言うなよ!今までまともにいたことなかったんだぞ!いいか?俺が友達を作ることの難しさはお前がテストで一位を取ることと同じくらい難しいんだぞ!!」

「なんか…それ聞くと私の努力がすごくちっさいことのように感じるんだけど、気のせいかしら」


あゆみはそう言いながらため息をつき始める。

やはり、お互いの価値観の違いというものは理解が難しいものらしい。


「それにだ、俺が友達を作ろうと思ったのは、お前のせいでもあるんだぞ」

「えっ、私!?なんで?」


すると俺は急に立ち上がると、席に座っているあゆみを指さし、そう宣言する。


「いいか?このままだと俺は卒業するまでずっとお前に勉強を教えなくてはならなくなる」

「そうね。いいことじゃない」

「んなわけあるか!?何が悲しくて同級生一人に勉強を卒業するまで教えなきゃならんのだ。正直金でもとりたいくらいだ」

「あら、ご飯くらいはおごるわよ。週に一回くらい」

「それで俺が納得するわけねぇだろうが!!だがな、だからと言ってこのまま欲望に従って勉強を教えないというわけにもいかない」

「そうね、そう私が仕向けたんだもの。当然よ」

「怖っわ、あゆみさん怖っわ!!」


そう、昨日のあゆみの発言により、俺はそうやすやすとこの契約を打ち切るわけにもいかなくなってしまった。

俺が今すぐにでも契約を打ち切れば、あゆみがクラスに向けて根も葉もない俺の良くないうわさが流されてしまう。

まぁ、あってるっちゃ合ってるんだけど。

しかし、そうなれば今まで以上に友達作りは困難を極めるだろう。

それだと俺はこれからの高校生活が絶望的なものになってしまう。

始めはただ、勉強を教えたくないと思っていただけなのに、本当になんでこんなことになってしまったのやら…


「つまりだ、これからあゆみが俺の噂を流す前に、先に俺があゆみの噂なんて気にしないような友達を作る必要があるのだよ」

「…は、はぁ……」


俺のそんな発言に、あゆみは戸惑いながらそう答える。


「まぁ、私の彼氏が私以外誰も知り合いがいないってのもなんか恥ずかしいし、手伝ってあげなくもないんだけど、それって敵に塩を送るようなものだしねぇ」

「いいじゃないか手伝うくらい。どうせ俺だけじゃ誰も知り合いなんてできやしないんだから」

「それ、自分で言ってて悲しくならないの?」


俺はそんな会話により、悔しさからか自分の手をプルプルさせ始める。

俺だってそんなこと言いたくはない、言いたくはないのだが、今の現状を鑑みれば誰かの助言をもらうことが近道であることを、自分なりにも分かっていた。


「頼むよ、俺に対する恩返しと思ってさ。俺に友達という青春を教えてくれよ」

「ん~、でもそれって私にデメリットしかないじゃない。今の話って、もしケンジに友達ができれば、私がどんな噂をクラスに広めようと気にしなくなるから私に勉強を教えないってことでしょ?」

「まぁ、そうともとれるが…いいじゃないか一人くらい手伝ってくれたって。俺だって友達が一人いるくらいでそれ以外の人間関係はどうなってもいいってわけじゃないんだからさ」


俺は全力であゆみにそう頼み込んでみるのだが、なかなかあゆみは首を縦に振ってはくれそうもない。

やはり、自分一人で友達探しをするしかない、そう思った時だった。

そのあとの俺のとっさのお願いが、今までの流れを大幅に変えることになる。


「じゃあさ、お前の友達でいいから紹介してくれよ。お願いだよ、なっ?」

「っ……!」


俺がその言葉をつぶやいた後、なぜかあゆみは急に体をぶるっと振るわせ始めた。


「おいどうしたんだよ?そんなに嫌なのかよ。なぁ?」


そしてあゆみのそんな態度に、俺も戸惑い、怒っているのではと疑い始める。

しかしあゆみはついには下を向き始め、何か隠し事でもあるかのような態度を俺に見せ始める。

そして、最後にもじもじとした態度を見せ始めたと思うと、急に顔を俺の方へと向け始め、最後にあゆみは、俺も想像できなかったとんでもないことを、カミングアウトしてくるのだった。


「……あ、あの、実は私もこの学校には友達……一人もいないんだ」





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