第33話 これからの俺たち


成績発表があった日から数日後の放課後、現在の俺は、あゆみになぜか教室の隣にある、テスト前に勉強する場として使っていた空き教室に呼び出されていた。


「なんだよ、こんなところに呼び出して。もうテスト終わったんだから用はないだろ」


俺は教室の中に入ると、すでに教室にいたあゆみに向かって、開口一番そんなことをつぶやく。

俺からすれば、この場所には勉強漬けの記憶しか残っていないため、あまり行きたくはなかったのだが…


「あっ、やっときた」


すると、席に座っていたあゆみは俺の顔を見るなり席から立ち上がり、俺のもとへと駆け寄ってくると、


「今日はさ、ちょっとケンジに相談があって…」


俺の目の前でそんなことを言ってくる。


「はぁ~相談!?なんかいい予感はしねぇな」


今までの経験から、あゆみのいう相談というのが俺にとってはあまりいいことではないことを想像する。


「何よそれ失礼ね。まぁいいわ、とりあえず話は聞いてよ。実はね、お母さんにテストのことを報告したんだ」

「あぁ~その話か。それで、何か言ってたのか?十番以内どころか四番だったんだから、これでダメっていうことはないだろうし、逆に褒めてもらったりしたんじゃないか?」


正直、もうこれ以上勉強関連の話はしたくはなかったのだが、一応続きが気になってはいたため、話は聞いてみることにする。


「うん、一人暮らしの件については許してもらえたよ。まぁでも…褒めてもらえるとかはなかったけどね……」


そして俺はそこで、最後の一言が余計であったことを理解する。

そういうところがよくないんだよな、俺。


「そ、そうか、まぁよかったじゃね~か。これからもこの学校に通うんだろ?いつも通りってことで」

「まぁ、それもそうだね」


そんな俺のへたくそなフォローに、あゆみはそう言って小さく微笑む。

そして、このまま話が終わると思いきや、


「でねでね、これからが本題なんだけど」


ここからが問題だった。


「その時にお母さんが言ったんだ、“じゃあ、また期末も頑張りなさい”って……」


俺はここまで話を聞いた途端、自然と急に体がぶるっと震え上がる。

なぜならここで俺は、想像したくもない未来が見えたからだ。


「お、おい、まさか…相談ってのは…」

「そう、また期末も勉強教えてほしいな!」


そして、俺のおびえながらの質問に、あゆみはニコッと微笑みながらそんなことを言ってきた。


「うん、無理。じゃあまた明日。さようなら」

「待って待って待って!!帰らないで、お願いだから!!」

「バカ野郎!!またこれからも勉強教えろってか!ふざけるんじゃねぇ!ええい、抱きついてくるな!!」


俺が教室を出ようと扉に手をかけると、あゆみは後ろから抱きつき、全力で止めにかかってくる。

何でこういう時に限ってあゆみはここまで馬鹿力なのだろうか。

俺の腰に回されたあゆみの両手は、引きはがそうとしても、いっこうに離れようとはしてくれない。


「お願い!私が卒業するまでで良いからっ!!」

「それって最後までってことじゃねぇか!俺のことをバカにすんのも良い加減にしろ!!」


俺はそう言いながら力を込めてあゆみの手を振り解くと、


「はぁ、はぁ・・・とりあえず俺はこれ以上は無理だからな!これでお前との関係はこれまでだ。じゃあな」


俺はそう言って、今度こそは教室の扉を開ける。

しかし、先ほど言った言葉が今後の俺の人生に影響を与えるなんて思いもしなかった。


俺が教室を出ようとした瞬間、後ろから


「あれっ、ケンジって私と付き合いたいから勉強教えてくれたんじゃなかったの?関係はここまでって?」


そんな言葉が小さくぼそっと聞こえてくる。


「・・・はぇ?」


俺はそんな言葉が返ってくるとは思いもしなかったため、思わず変な声を発してしまう。


「あれぇ〜おかしいなぁ。私、ずっとケンジが私のこと好きだと思ってくれてたと思ってたのになぁ〜。違うんだ〜」

「お、おい。何が言いたいんだよ・・・?」

「いやぁ、別に〜。ただケンジは自分が好きじゃない人にでも告白しちゃう人なのかな〜って」


なぜかあゆみは、そう俺に言いながらとてもニヤニヤしている。

やばい、いっそこのまま逃げちゃいたいな〜。


「もし・・・そうだとしたら、どうだって言うんだよ?」


俺は不安の気持ちを漏れさせながら、そう尋ねると、次にあゆみはとんでもないことを言ってくるのだった。


「もし、これをクラスのみんなに言ったら、どうなるのかなぁ?ケンジは好きでもない人にでも付き合えるとおもったら告白してしまうような人です〜って」


デジャブである。

この前も俺はショッピングモールの帰りにそんなことを言われた気がするのだが・・・


「あゆみさん、それはやめましょうよ」


俺は下手にでながらそう勧めるのだが、あゆみの返答はそれを許さなかった。


「それじゃあケンジは、これからどうするのが良いと思う?」


あゆみは俺を搾り尽くす気なのかもしれない。

あゆみの返答はを聞くと、俺は小さくため息をし、


「喜んで勉強を教えさせていただきましょう!!」


満面の笑みでそう言うしかなかったのだった。

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