第32話 さぁて、テストの順位は?・・・②
「……」
あゆみがそんな一言を発した瞬間、俺たち二人はしばらくの間無言となる。
そんな中、俺はどうだと言わんばかりの、あゆみは驚愕と言わんばかりの表情をそれぞれ浮かべている。
そして、初めにそんな沈黙を破ったのは俺の方だった。
「さぁあゆみ、歯を食いしばるんだ」
「えっ、ちょっと待ってケンジ。それよりも私、理解の方が追い付いてなくて」
俺の発言にあゆみは両手を肩まで上げながら、焦った顔をしてそうつぶやくが、俺としてはそんなことはどうでもいい。
今までいい成績を取ったことがないからと、ある程度のことは許容はしてきたが、正直こんな順位を取っていたのにも関わらず、こんな態度を取っていたと思うと俺としては胸糞悪くて仕方がない。
状況が状況というのはちゃんとわかってはいるのだが、客観的に見れば今のあゆみは、“私テスト自信な~い”とか言っておきながらちゃっかりいい成績を取るという、俺の大嫌いな奴を見事に体現していた。
「そんなことは関係ねぇ。約束は約束だ。さぁいくぞ!!」
「いや、だから待ってって。私まだ…」
「しゃらくせぇー!」
俺はひとまずけじめを理由として、あゆみの頭を思いっきりひっぱたいてやった。
「いった~い!!」
―――――そしてとりあえず思いっきりひっぱたいたことで俺個人として胸がすいた俺は、ひとまず落ち着くことには成功する。
「もう〜、ちょっとは手加減くらいしてよ〜」
しかし、そんな中あゆみは、自分の頭をゆっくりと撫でてはいるものの、
「でも私・・・本当に入ったんだ、十番以内に・・・」
頭よりも、現在の自分の状況に全意識を向けている。
今は、痛みなんかより喜びの方が強いらしい。
「あぁそうだ、お前は十番以内に入れたんだよ、その上四番という結構な余裕を残してな。良いか?客観的に見ろよ。今のお前はめちゃくちゃ勉強したのに、自信ないと言っているただの痛いやつだ!」
「そっ、そんな、私そんなつもりは・・・」
あゆみはそう言って否定しているが、俺からすればそんな内面のことはどうでもいい。
俺は今まであゆみに思っていたことを言い放ってやった。
「そんなつもりなくても結果的にそうなってんだよ!だから良い加減自分に自信を持ちやがれ!お前はちゃんと勉強したし、自信持って良いんだ。分かったかバカやろう!!」
そして俺がそこまで言うと、あゆみはハッとした表情を俺に向けると、今度は小さく俯きだす。
「……」
そして数秒の沈黙の後、あゆみは小さくただ一言、
「……うん、分かった・・・」
それだけ呟いた。
俺としてはなんの反応も示さないあゆみが気味悪くてしょうがないのだが、今度は、自分の席の方へと歩いて行き、
「じゃあ、とりあえず今日は帰りましょ」
そう言って急に家に帰る準備を始める始末である。
「お、おぅ」
俺は急なあゆみの態度の変化に、思わず戸惑いの声をあげてしまう。
てっきりこのまま言い合いにでもなると思っていたのだが・・・なにか思うところでもあったのだろうか。
そして、あゆみにつられ俺も帰る準備を行うと、あゆみを先頭にこのまま静かな雰囲気のまま学校をあとにする。
しかし、外に出ても俺たちはお互い何か話すということはなく、ただ俺たちの横を走り抜けていく車の走行音のみが俺たちの耳に届いている。
今まで、俺たちは顔を合わせるとたいてい何かしらの言い合いを行っていたため、正直このような何も話さないという時間は珍しい。
(怒っているわけじゃあないんだよな……)
こんな珍しいこの状況に、俺は思わず以前ショッピングモールであゆみを怒らせた時のことを思い出してしまう。
しかし、今のあゆみの態度からするに、別に怒っているわけではないことは、なんとなく肌で感じていた。
いや、それより逆にうれしそうな……
「ねぇケンジ、」
俺がそんなことを考えていると、急に前を歩いていたあゆみが俺の方を振り返ってきて、俺の名前を呼んでくる。
振り返ってきたことで、俺はあゆみの顔をのぞいてみると、あゆみは今までの雰囲気とは対照的にうれしそうにニヤニヤとして表情を浮かべていた。
「どっ、どうした?」
あまりの雰囲気と表情のギャップに、俺は思わず戸惑いながらそう返事をすると、あゆみは次に、ニコッと俺に向けて微笑みかけ、
「ケンジって人のこと褒めるのめっちゃ下手だね」
言葉と表情が合っていないようなことをしてくるのだった。
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