第31話 さぁて、テストの順位は?・・・①
「ねぇ、いい?ケンジ、開けるわよ」
現在、俺の目の前にいるあゆみは、そんなことを言って俺の確認を求めてくる。
しかし俺としては、何をそんなに重苦しくなるような空気を漂わせているんだとしか思えない。
そしてそんなことを言ってくるあゆみの手元には、一枚の紙きれをが大事そうに握られている。
「あぁ、いいよいいよ。早くしろって」
「いいの?いいんだね?ほんとに開けるよ?」
しかしあゆみ自身がそれを拒みたいのか、なかなか行動には移そうとはしない。
あゆみは今までずっと一枚の紙きれを大事そうに持ちながら体をうずくまらせている。
そう、ずっとである。
「分かってるよ!もういい加減開けろってマジで!」
あゆみは覚悟を決めているような面持ちだが、俺はそんなあゆみのじれったさにいい加減嫌気がさし、思わずそう声を荒げる。
「そう急かすのはやめてよケンジ。なんか逆に開けにくくなるじゃない」
「お前こそ、そう言って今まで開けてねぇじゃねぇか!?」
俺がそんなことを言っているため、この場が目立ってしまいそうだが、幸いここは学校の廊下で時間は放課後になってすぐときたものだ。
まわりは下校や部活やらでバタバタしており、とりわけ俺たちが目立っているということはなかった。
それに……
「ねぇ、私今回のテストめっちゃ悪かったんだけど…」
「いや、ほんとそれ!私、成績表親に見せるの億劫だな~」
まわりもまわりで、教室や廊下などでざわざわしており、俺がここでトランペットでも鳴らさない限り、俺たちの声など誰も気にはしないだろう。
そう、現在まで行われていたのは成績の開示、つまりテスト順位の発表である。
俺たちは今までこの日のために勉強をしていたと言っても過言ではない重要なイベントであり、あゆみもすぐには自分の成績を見たくはないのは分かるのだが……
「でっ、でもさ~ケンジ~やっぱり私、心の準備が~」
流石に二、三十分この状況なのはな~。
もうクラスのみんなは、一通り今回の成績について周りと話し終わり、そろそろ部活の準備を急いでしたり、帰ろうかとしているのである。
俺だって、そろそろ帰りたいのに…
「いいよねいいよね、ケンジはお気楽で。やっぱり学年一位の人には私の気持ちなんて分からないんだ!」
すると、今度は俺の方へと話題が飛び火していく。
「なんだよ~、俺のことは別にいいだろ~」
俺はそう言って、わざと大げさにリアクションを行うと、あゆみは不機嫌そうに頬を膨らませながら、
「あ~いやだいやだ。高みの見物みたいでなんか気に食わない」
そう言って今度は俺のことを責め始める。
そう、実は今回の俺のテストの結果は学年一位という結果だった。
まぁそれこそ、前のテストで学年二位だった俺が、あそこまで勉強をさせられては、逆に一位にでもなってもらわなくては困るというもので…
俺自身、成績が返ってきた瞬間その順位を見たが、やはりそこまでうれしさというか、驚きというものはなかった。
最近よく聞いてはいたが、やはり自分が教える立場になるというのは、逆に自分の方が頭に内容が残るようだ。
そのため、今回のテスト勉強はいい機会だったと言えるだろう。
「じゃあ俺のことは気にすんなよ。早く自分の順位を見ろって。俺だって一応確認はしたいんだからさ」
「でもでも、やっぱりこの数字だけですべてが決まるって思うと、その、勇気が…」
あゆみはそう言って、かたくなに自分の手の中にある成績表を見ようとはしない。
「お前いい加減にしろよ。お前自分の点数見ただろ。八十、九十点ばっかだったじゃね~か!それで自分の順位を見たくない?ふざけるのも大概にしろ!」
そして俺もついに、堪忍袋の緒が切れ、あゆみにそう吐き捨てる。
まわりから見れば自分の順位見るの怖いんだな~で済むが、あゆみの点数を知っている俺からすれば、自分の順位高いから見て~って言っているようにしか見えない。
普通に腹が立つ。
「いいえ~私をあなたと一緒にしないで下さ~い。私はケンジと違って心が繊細なんです~」
「お前もしもこれで五番以内にでも入ってたら、思いっきりひっぱたくからな?」
「えぇいいわよ~。でも逆に私が五番以内じゃなかったら、クラスの前で土下座してもらうから」
「おぉ良いぜ。思いっきりひっぱたいてやるからとりあえず早く開けろ!」
そして、俺とあゆみの言い争いにより、なぜかそんな約束を交わしてしまった俺たちは、さすがにどうしようもないと感じたのか、あゆみはやっと折りたたんでいた自分の成績表を自分の目の前に持ち、ゆっくりと開き始める。
「う、うぅ~」
そんな中でもあゆみは多少苦しそうな表情を浮かべてはいるが、俺としてはそんなことはどうでもよく、早く成績表を開けてほしい。
そして、やっと成績表を全開にしたあゆみは、自分の学年順位を確認すると、たった一言だけ、俺に向かってこうつぶやいた。
「あっ、四番だ……」
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