第30話 運命のテスト返却!!・・・②


「う、うそ。私、こんな点数取ったの小学校以来かも…」


あゆみは自分の点数のあまりの高さに、はたから見ても驚愕というような表情を浮かべている。


「おぉ、なんだよいいじゃね~か。よかったな」


自分自身、あゆみの点数が高いだろうということは分かってはいたものの、とりあえず予想通りで俺は多少の安堵の表情を浮かべる。

しかしあゆみの方はそんなリアクションは期待してなかったようで…


「何よケンジ、なんかリアクションが薄いわね。いい?私よ、あなたじゃないの、私が九十点を取ったのよ、入学したばかりの時に受けた数学の実力テスト三十点だった私が!!」

「お、おう、分かってる分かってる」


あゆみは自分と俺の感情とのギャップに驚いているようだが、俺の方が驚きたいくらいだ。

なんであんなに勉強したのにこれくらいの点数取れないと思ったのか。

それに、自分の点数に驚いているのは分かるが、前のテストが三十点だったことはあまり言わない方がいいのではないだろうか、一応ここ、教室だし…


「じゃあなんで驚いてないのよ?」

「いや、一応驚いているよ。ある意味だけど」

「はぁ、どういうこと?」

「……はぁ、お前ほんとに分かってないのか?」


俺はあゆみの反応に思わずため息をつくと、自分の席を立ち、あゆみと目線を合わせると、自分の意見をぶちまけてやった。


「いいか?お前はこの二週間、ほとんど勉強しかしてこなかったんだぞ。正直俺の方が休もうって言いたくてしょうがなかったくらいにはな!実際数学だけでも二、三十時間は勉強してる。そんな奴が逆に五、六十点でも取ってみろ。今頃俺がひっぱたいてるわ!」

「え、えぇ」

「……いいか?お前はそれだけ努力したんだ。少しは自信を持ってくれ」


そしてあゆみはそんな俺の反応に、口を開けて呆然としてしまっている。

しかし、俺としても言いたかったのだ。

はたから見れば、今までのあゆみの反応は全然勉強してないように見せかけて、本当はめちゃくちゃ勉強してて、結局点数取れちゃったって言っている奴にしか見えないのだ。

事情を知っている俺でさえ多少腹が立ってくる。

そしてあゆみは数秒後、やっと我に返ると、自分の立ち位置を客観的に理解し始める。


「そ、そうなんだ。私こんな点数が取れるくらいに勉強してたんだね。私、必死で全く気付いてなかった」

「そうだそうだ、いい加減今までのが普通じゃないことに気づけ。正直あんな長時間の勉強、もうこりごりだ」


俺は今までの勉強に対する愚痴もついでにこぼすと、その時ちょうどチャイムが鳴り、二時間目の授業を知らせる。


「はいはい、席に戻った戻った。次のテスト返しもどうせこんな感じだ。もういちいち俺に驚きの報告するのはやめろよ。逆に俺の方が腹が立ってくる」

「う、うん。わかった」


俺はそう言ってあゆみを自分の席へと返すと、それから今日だけでもあと二回ほど、テスト返しを行って、今日の学校をを終えることになるのだった。




「―――――ごめん、やっぱりこれ私信じられないわ」


学校を終え、放課後となった現在、みんなが下校したり部活をしている中、俺たち二人も自分の家へと帰宅しているのだが、そんな中あゆみは自分のテストの答案をじっと見つめながら俺の隣を歩いている。


「ねぇ、もうそれやめてくんない?事情分かっててもなんか腹立つんだよ」


俺は先ほど同様、あゆみの隣でそんなことをつぶやくが、あゆみはもう、俺の言うことは気にしない。


「でもさ、やっぱり経験の無い私からしたら、こんな点数は奇跡の点数にしか見えないんだよね。取ろうと思って取ったって分かってても」


そしてあゆみはそう言うと、今日帰ってきたテストをすべて両手に持って俺に見せる。

今日帰ってきたテストは数学I、現代文、コミ英の三つ。

そして点数は、数学が九十点、現代文が八十五点、コミ英が九十二点だ。

確かに高い点数というのは間違いなく、俺としてもうれしいはうれしいのだが、やはりあんなに勉強したのだから、このくらいの点数は取ってもらわないとという思いのほうが強いため、結局なんとも言えない気持ちになる。


「なぁ、もういいだろ、ただお前が二週間、死に物狂いで勉強したからこの点数が取れた、それでいいじゃねぇか」


最終的に、この話自体に飽きてきてしまった俺は、遊びの話にでも話題を変えようとするのだが、


「いいえ、だめよ。それじゃ」


あゆみ自身がそれを阻んでくる。


「確かに私がとった点数なら、ここまで喜ばないかもしれないけど……」


するとあゆみは急にそんなことを言いだすと、俺より前を歩き出し、


「はぁ?それはお前のテストだろう。お前以外のだれがとるんだよ?」


俺がそう言った次の瞬間、俺の方を振り向き、


「いいえ、これは私だけじゃなく、ケンジと一緒だったから取れた点数、だから人一倍より喜ぶのも当然でしょ」


そんなことを言ってくるのだった。








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