第28話 正真正銘のデート・・・⑤
フードコートを出た俺たちは、先ほどとは異なる雰囲気の中、ショッピングモールの通路を歩いている。
両者ともに、この雰囲気が好ましく感じていないことは、理解していることだろう。
そして俺は分かっているのだ、この雰囲気を打破するとしたら、自分の方であるということを。
「っ・・・!」
しかし、俺の口からはあゆみにたった一言すら容易に放つことはできない。
(こういうところがダメなんだよな〜、俺って・・・)
俺はこの機会を通し、自分の勇気のなさというのを改めて実感する。
中学の時点で、そんな自分がいることは分かっているつもりだったのだが、やはり人というのはそんな簡単には変われないわけで・・・
俺たち無言のままただただまっすぐ歩いているのみ。
そしてこのまま歩き続けてそのまま外へ出てしまうか、そう思われた時、
「あれっ・・・」
俺ではなく、あゆみの方が行動を起こし、何かを発見したかのようにとある店へと歩いて行った。
「お、おいっ」
そして俺は、そんなあゆみの行動にただただ後ろをついていくのみ。
「うわ〜懐かしい〜」
するとあゆみは先に店の前にある商品を見つけると、そう言って急に目を輝かせ始めた。
まるで、今までのことがなかったかのように…
「おぉ〜駄菓子か、確かに懐かしいなぁ」
俺もあゆみに追いつくと、その店の前に数多くの駄菓子が並べられているのを確認する。
そして店の内装は、昔ながらの駄菓子屋を感じさせるよう、棚などは木で作られ、光も暖かい色であたりを照らしている。
まぁ俺は昔ながらの駄菓子屋というのを経験したことはないのだが・・・
「そういえば、私たちの地元にも駄菓子屋ってあったわよね」
「あぁ〜、あったな〜。大久保商店だったか。なっつかし〜」
「小学生の頃、みんな遠足の時はいっつもあそこで買ってたものね」
「ん〜、でも遠足の時だけだったぜ。人がいっぱいだったの」
アニメとかの駄菓子屋といえば、近所の子供のたまり場というイメージがあるが、地元の駄菓子屋ではそういう記憶は残っていない。
やはりこれも、時代というものなのだろう。
「あそこの駄菓子屋って今もやってるんだっけ?」
「いや、もうとっくにやめてるよ。数年前に行った時は、何かは売ってたような気もするけど、少なくとも駄菓子は一切売ってなかったはずだ」
「そう、残念ね~」
「まぁな~」
こんな何気のない会話であるにもかかわらず、先ほどまで重く暗かった空気が圧倒的に良くなっているのを、俺は肌で実感する。
あゆみの表情は、昼飯前とまではいかないが、現在多少生き生きしたものとなっているのは、先ほどまであゆみの顔を凝視していた俺が断言しよう。
(そうだよな、こんなことでもいいんだよな)
そしてともに俺は、自分ができることなどたかが知れているのだというのも実感する。
俺が何かをすれば、あゆみとあゆみの母親との関係がよくなるわけではない。
俺がすべきことなど、ただあゆみと何気ない話でもして、あゆみの気を紛らわせるくらいで十分だったのだ。
「あっ、そうだあゆみ」
「ん~何?」
そしてあゆみのそんな呑気な返事を聞いた俺は、今まで悩んでいたことがばかばかしく感じてしまい、俺はあゆみにある提案を行った。
「今からさ、ゲーセン行かない?ゲーセン」
「―――――へぇ~、久しぶりに来たわねゲームセンターなんて」
現在俺たちは俺の提案に従い、ショッピングモールに併設されている大きなゲームセンターに入っている。
ゲームセンターに入ってすぐには、見渡す限りたくさんのクレーンゲームが設置されている。
「俺もこんな大きなゲーセンは久しぶりだな~」
「ねぇねぇとりあえずクレーンゲームの周り一周しましょうよ!」
「おっ、おい!待てって!!」
ゲーセンに入ったことにより、先ほど以上に元気を取り戻したあゆみは午前の時以上のテンションであたりを見回っている。
(はぁ~、ほんとにさっきの雰囲気何だったんだよ…)
ここまでのあゆみの変わりように、先ほどの自分自身に腹が立ってきてしまった俺は、小さくため息をつきながらあゆみの後ろをついて行く。
そして俺たちはそれから色々なことをした。
クレーンゲームはもちろん、メダルゲームやプリクラまで。
現在のあゆみは、本当に先ほどの雰囲気はどうしたというような気の変わりようであり、気がよくなったのか勉強のお礼だからと言って、メダルゲームのメダルやプリクラのお金は全部あゆみが払ってくれた。
この時のあまりのあゆみのテンションの上がりように、俺はついて行くのがやっとであり、はたから見れば俺は、先輩の息抜きに付き合わされている後輩のような姿だっだろう。
「ねぇケンジ見て見て、メダルがこんなにたくさん出てる!!」
そして、メダルゲームの最中でも、巨大メダルゲーム機のメダル出口に大量のメダルが出てきたことに、あゆみはこのようにテンションが上がってしまっている。
「はいはい、見てるよ……はぁ~マジで体力もたねぇ」
そんなあゆみのテンションに付き合わされ、体力を使いに使って、へとへとになってしまった俺だったのだが、
(ま、別にいっか……)
ふと同じ長椅子に座っているあゆみの顔をちらっと見ると、俺のそんな疲れは吹き飛んでしまった。
先ほどとは違う、あゆみのその、俺にまでドキッとさせてしまうような、元気でかわいい笑顔を見てしまっては。
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