第27話 正真正銘のデート・・・④


(さて、いつ出るべきか……)


公の場でのちょっとした親子喧嘩を見てしまった俺は、この後どのようにあゆみに接すればいいのか分からなくなってしまい、あゆみの座る席の真後ろの通路で、ただただ突っ立ったままの状態を保っている。

しかし、流石にこのままじっとしているわけにはいかないのは、俺も重々承知して

いるわけで……


(ええい、ままよ!)


そして俺は心の中でそう叫びながら、勇気を振り絞りあゆみの方を振り向いた、その瞬間、


「ピピピピッ!!ピピピピッ!!」

「おぉっ!!やっべ!!」


俺の口より先に、俺の手にずっと握られていたブザーの方が先に行動を起こしてしまう。

そしてあゆみも自分のすぐ真後ろで鳴り響く音に反応しないわけがなく、ブザーが鳴った瞬間、すぐに俺の方を振り向いた。


「あれっ、ケンジ!!……えっと、いつからそこに?」


あゆみはすぐ近くにいた俺にびっくりしつつも、先ほどのことに後ろめたさを感じたのか、すぐ俺にそう聞いてくる。


「えっと~……そうだ!ブザーが鳴ってるから料理取ってくる!!」


そんなあゆみの質問に戸惑いはしたものの、手元にあるブザーに希望を見出した俺は、少し早口でそうつぶやきながらスタスタとさっきの店へと戻っていく。


「あっ、ちょっと、ケンジ!」


あゆみは戸惑ったようにそう叫ぶものの、俺の歩みは止まらない。


「すまん、あゆみよ。俺は傷ついた心をすぐに癒すことができるほどの人間ではないのだ!」


俺はそう言い訳をしながら、あゆみのいる方向とは真反対を向き、歩いていくのだった。



そして5分後、


「ふぅ~、料理が来ましたよ~っと」


俺はやっと、料理ののったおぼんを両手に持ちながら、あゆみのいる席へと戻ってきた。

俺はあゆみが心を落ち着ける時間を取ろうと、わざとお水をくむ場所に遠回りで行ってみたり、箸を忘れたと言い訳をしてもう一度店に戻ったりをして何とか5分、時間を稼いだ。

先ほどのこともあり、俺はすぐにあゆみのもとへは行けなかったのだ。

そして俺は、何事もなかったかのように振る舞いながら、


「よし、俺は冷めないうちに食べておくから、あゆみも早く何か買って来いよ」

「い、いや、待ってケンジその前に……」

「何だよ早く行けって、俺だけ先に食べ終わっちゃうだろ」

「そうだけど……うん、わかった」


あゆみに何かを言わせる隙も与えることなく、とりあえずあゆみに何かを買わせに向かわせる。


「ふぅ、まぁとりあえず時間さえ稼げればあゆみも気にしなくなるだろう」


先ほどの話を一切したくないと感じた俺は、そうつぶやきながらのんびり食事をとる。

しかし、そう気楽に考えているのも束の間、


「ダンッ!!」


俺の目の前で音を立てて、料理の入ったおぼんを置いてくる人が一人。

その人は少し急いだ様子で俺の目の前に座る。

しかし俺は、こんな状況を信じられず、思わずこうつぶやく。


「おいおい、注文早くないか?」

「いやいや、こんなもんでしょ!」


あゆみはそう言っているが、明らかに急いだ様子が見られる。

そしてお盆の上には、ブザー必要なしで注文すればすぐに出てくるであろう、うどんが乗っている。

そして次のあゆみの一言。


「それでね、ケンジ!があるんだけど」


そんな言葉を聞いた俺はついに、


(うん、逃げられないや。俺……)


そう心の中で確信し、先ほどの件へと話題が向いていくのだった。




「―――――で?どこから見てたの?」


あゆみは空気を変え、いったん落ち着いた様子を見せると、自分の目の前にあるうどんを勢いよくすすりながら、俺にそう聞いてくる。


「たぶん、最初から…」

「……あちゃ~、…全部見られちゃったか~」


あゆみは場の雰囲気を悪くしないように、空元気にそう言って場の雰囲気を取り繕うが、俺自身が発している雰囲気と、時刻も14時に差し掛かりお客さんが減ってきたことによる人気のなさが原因となり、やはり雰囲気は冷たい。


「…久しぶりに見たよ、お前のお母さん。あんな感じだったっけ?」


そして、そんな俺の発言により結局あゆみは素の表情に戻り、小さくこうつぶやく。


「…びっくりでしょ。小学校のころケンジと一緒に遊んでた時はあんな感じじゃなかったから…」


そのあと、俺はこの発言にどう返せばいいのか分からず、そして場の雰囲気も相まってしばらく沈黙の時間が続く。


「ごめんね。見苦しい所見せちゃって」

「いや、別にそれは気にしてないって言うか、その…」


現在、俺の頭の中はどうすればあゆみの心を晴れやかにしたり、雰囲気を明るくできるのかを全力で考えている。

しかし、いい言葉は見つからず、結局あゆみの方からそんなことを言わせてしまっている。

おそらく、あゆみ自身もこの話題を振ってしまったことを後悔していることだろう。

すると、次にあゆみは両手を“パンッ”と大きくたたき、


「はい、じゃあこの話はおしまい。それじゃあここ出よっか!」


俺より先に、あゆみの方からそう話題を変えてきた。

やはりあゆみも、この雰囲気には耐えられなかったのだろう。

あゆみはまた、空元気にそう言うと、食べ終わった食器を元のうどんの店に返しに行く。

あゆみの振る舞い方からするに、本人としても昼飯前のあの楽しい雰囲気に戻りたいのだろう。


しかし、その時のあゆみの顔には、先ほどまでは見ることができた結局俺でもドキッとしてしまうような、いつもの素敵な笑顔を見ることは出来なかった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る