第25話 正真正銘のデート・・・②
「はい、とうちゃ~く」
数十分電車に揺られた俺たちは、やっと目的のショッピングモールに到着する。
俺たちはそのまま慣れた感じで中へと入ると、そこには前回入ったときに見た景色とは異なる景色が広がっていた。
「あれ、こんな場所だったっけ?」
「いえ、完全に入り口を間違えたわね…」
「あぁ、そういうこと!?」
俺たちはまだショッピングデートに慣れていないようだ。
結局、ショッピングモールの中を覚えきれていなかった俺たちは、壁に貼っている地図を見てようやく自分の位置を把握する。
「で、まず最初にどこ行く感じ?」
「いや、別にどこに行きたいっていうのはないんだけど、っていうかケンジはどこか行きたいところとかないの?お礼だってしたいんだから、何かおごらせてよ」
「いや~正直、俺みたいな男はショッピングモール自体あんまり興味はないぞ?まぁ、しいていうなら、あるあるみたいなショッピングデートでもできれば楽しいとは思うが…」
お礼と言われて悪い気はしていないのだが、やはりショッピングモールに来て、男である俺がしたいことというのはあまりない。
周りを見てみても、服や靴といったファッション系のショップばかりが存在しているだけで、男心をくすぐるような店というのはあまり見られない。
しいていうなら本屋といったところだが、別に今日わざわざ行くようなところでもないだろう。
前回だって、あゆみと二人きりでデートっぽいことをしてみたかったという理由だけでいろいろなところを誘ってみただけであり、俺一人で来ていたら行こうとも考えていなかった。
そんな俺のそんな発言により、あゆみは若干悩んだ顔を見せ始める。
しかし、結局あっさりと決断したのか、あゆみは俺にこうつぶやいた。
「なるほどね、じゃあ私の買い物付き合ってよ。私、服とか見ていきたい」
「おぉ、全然いいぞ。俺はついて行くからいろいろ見ていけよ」
あゆみのこんな提案により、俺たちはそのまま周りにある店を、ぶらりと見て回るのだった。
「―――――めっちゃ疲れた~!!」
俺はそう言いながら、通路にある長椅子に大きく腰掛ける。
そしてあゆみはというと、俺と異なり疲れた顔一つせず、静かに腰掛けこうつぶやく。
「ごめんごめん、ちょっと買い物に夢中になりすぎちゃった」
俺は隣に座るあゆみとの疲れの違いに、驚きを隠せない。
なぜ一緒にいたあゆみと、ここまで疲れに違いが出るのだろうか。
まぁ今、俺の両手にはあゆみが買った服などが入っている紙袋を持っているため、違うと言えば違うのだが、それを言ったら俺も男である。
流石にあゆみより体力はあるは思うのだが…
「ごめんね、荷物持ってもらっちゃって」
「何言ってんだよ、俺も男だ。それくらいさせてくれよ」
「でも大丈夫?疲れてるように見えるけど。やっぱり私もちょっと持とうか?」
「いや、いい。どうせ疲れてるのは荷物のせいじゃないから」
しかし、自分でもわかっている。
この疲れが荷物によるものではなく、女子との買い物という存在自体によるものであるということを。
実際俺は、元気よく買い物をするあゆみの背中を追いかけるのに精いっぱいであった。
あまりの疲れに、あゆみから世間でよくある“これどっちが似合う?”という質問に、どっちでもいいわ!!と言ってしまいそうだった。
結局うまく返しはしたものの、俺の体力はゴリゴリと削れていった。
「とりあえず飯にしようぜ、もう午後はとっくに過ぎてるし」
「あれっ、もうそんな時間!?」
話を変え、現在俺の腕時計を見ると、時計がさす時刻は午後一時。
そして俺たちがショッピングモールに着いたのが午前十一時であることから、俺はあゆみの元気いっぱいの買い物に二時間ほど付き合わされたことになる。
「あちゃ~買い物に夢中になりすぎちゃった。じゃあフードコートに行こうか」
俺の発言に、あゆみはそう反応し、元気よく立ち上がる。
どこからそんな元気が出てきているのだろうか。
そんなことを思っていると、あゆみは急に俺の方に向いて、
「喜びなさい!今日はお礼も兼ねてるから、今日のご飯は私がおごりましょう!!」
「おぉ、マジか!!」
そんなうれしいことを言ってくる。
「まぁ、今日できるお礼ってこれくらいしかなさそうだしね。たくさん食べていいわよ」
「よっしゃ、じゃあお言葉に甘えるとしますか」
あゆみの申し出を快く受け入れた俺はすっかり元気を取り戻し、あゆみとともに気分良くして、フードコートへと向かうのだった。
「―――――こりゃまたいっぱいですな」
午後一時過ぎ、そうだろうとは思ってはいたものの、やはりフードコートにはたくさんの人でいっぱいだった。
「そりゃそうよね昼ご飯時だもの、予想はしてたわ。早く席を探しましょ。ちゃんと探さないと、お昼が過ぎちゃう」
俺はあゆみの背中を追うようにし、あたりを見回しながら席を探す。
当たり前のように一周、二周とするが、なかなか席は空いてくれない。
席が空いても、すぐ近くにいたやつにとられてしまうというは、もうあるあるになってしまっていた。
「なんだよ、全然空いてくれないじゃねぇか」
あまりの席の見つからなさに、そう文句を言いながら探す俺だが、そのあとついに俺の前から希望の声が聞こえる。
「あっ、あそこ空いてるわよ。早く行きましょ!」
「あった?よっしゃ、急げ急げ!!」
あゆみの発言により、俺たちは早歩きで空いた席へと向かい、何とか席を確保することに成功する。
「はぁ~やっと座れた~」
「私荷物見ておくから、とりあえずケンジが先に注文してきなさいよ。はい、これ私の財布だから好きに使ってくれてかまわないわよ」
「お、マジで?好きに使ってくれていいと…?」
「……言っておくけど…ご飯とかデザートだけよ。フードコート抜け出して何か買ってこないでよね?」
「何言ってるんだよ~。俺がそんな人に見えます~?」
「うん、見える」
「そんなはっきり言わなくても……。まぁいいや、行ってくる」
あゆみに一言言われたものの、荷物を置けて楽になった俺は、多少は気分を良くして食べ物を注文しに行く。
「今日の気分はやっぱりラーメンかな。いや、でもたこ焼きや焼きそばも捨てがたい……」
席を立った後、俺はそんなことをつぶやきながら、様々な店を見て回る。
流石はフードコートといったところか、まわりには麺類、肉、ハンバーガーなど、様々な料理の店が立ち並んでいる。
「まぁ、ラーメンかな」
しかし、結局もともとの気持ちを優先した俺は、たった数秒で店を決定し、注文を行う。
「出来上がり次第このブザーでお呼びしますので、席で少々お待ちください」
そして注文を終えると店員に、フードコートでよく言われるであろうセリフを言われた俺は、言葉に従いあゆみのもとへと帰っていく。
「ん、あれ?」
そしてそのまま席へと戻っていった俺だが、席を見ると俺が座っていた席に、なぜか見知らぬ人が座っているのを目撃する。
「ん?場所を間違えたか?」
目撃した時は、まだ席まで数メートルあったため、確信は持てなかったのだが、だんだん近づくにつれてそこが俺の席であることを確信する。
「あれ、あゆみはいるんだな」
その上、その向かい側にいるのがあゆみであることに、俺はさらに違和感を覚えてしまう。
俺の席に座っているのは、黒髪ショートで眼鏡の女性。
年齢はおそらく四、五十といったところだろうか、あまり若くは見えない。
この状況を不審に思った俺は、ゆっくり席へと近づき、あゆみの席の後ろで背中を見せながら、静かに聞き耳を立てることにした。
すると、そこではとある会話が聞こえてくる。
「どうしてあなたがこんなところにいるの?あゆみ」
おそらくあゆみの知り合いなのだろうが、そのあとあゆみの口からその女性の正体が打ち明けられるのだった。
「どうだっていいでしょ。それにお母さんだってどうしてここにいるのよ……」
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