第24話 正真正銘のデート・・・①


テストを終えた三日後の朝、現在の俺はというと前回約束した通り、あゆみとデートをするため自分のアパートの入り口であゆみが来るのを待っていた。

一度、あゆみの部屋に迎えに行ってはみたのだが、準備がまだだからと言われてしまった。


テストが終わってもあと学校はまだ二日あったわけだが、テストという地獄を乗り越えた俺にとって、残りの二日間は本当にあっという間であった。

テストが終わったという気楽さから来ているものもあるとは思うが、やはり一番はまだテストが一つも返ってきていないということが大きいのだろう、本当に緊張感のない二日間であった。

当然ながら、そんな気持ちになっているのは俺だけではなく…


「お~い、ケンジ~」


すると、俺から見てほぼ真上の方から、この二日間俺以上にお気楽に生活していたあゆみが、アパートの階段を駆け下りてくる。


「ごめんごめん、遅くなって」

「いいよいいよ。どうせここは俺も住んでるんだから、待つもくそもないさ」


俺はそう言いながら、階段から降りてきたあゆみ見ると、そのあと一瞬、俺は真顔になる。


「ん?どうかしたの?」


あゆみはそう言いながらゆっくりと首をかしげるが、俺はその表情を見てさらに真顔になる。


「ん、あぁいや何でもない」


俺は数秒後、すぐに真顔を解いてそう言いながら何もなかったかのように接するが、理由は明白だった。

俺が真顔になってしまった理由、それはただただ見惚れていたからだった。


もともと顔がかわいいというのは今までずっと思ってはいるのだが、この2週間ほとんど制服姿しか見ていなかった俺にとって、久々のあゆみの私服姿は見惚れても当然だったと言える。


そして今日のあゆみの姿はというと、上は白の上にデニムジャケットを着こみ、下はピンクのロングスカートというファッションであり、俺が見惚れるには十分であった。


「それで、今日はどこ行くんだ?お前から誘ってきたってことは、行くところは決まってるんだろ?」


俺は先ほどのことはなかったかのようにするために、さっさと自分の方から話を変えてみる。


「あぁ、そうだそうだ。今日はね、前回行ったショッピングモールにもう一回行きたいなって」

「お、気持ちでも変わったのか?前一緒に行った時は、俺があの店に行こうとか言っても全然聞いてくれなかったのに」

「あの時はテストのことで頭いっぱいだったの、分かるでしょ!でも今はテストも終わったし、今日は完全に遊びのために行くのよ」


あゆみはそう言うと、楽しむ気満々の顔をしながら、俺を置いてさっさと駅の方へと向かっていく。

しかし、そこで俺はあゆみの後ろで一つ疑問を持つ。


「まぁ理由は分かったけど、お前の女友達とは行かないのか?」


本当ににちょっとした疑問だ。

正直、女の子とデートができるのだ、こんなにうれしいことはないため、断る理由もなく、逆に俺の方から誘いたいくらいであるため、俺としてはありがたいくらいなのだが、あゆみの方はいいなのだろうか。

ショッピングモールなんて、女友達と行った方が楽しいだろうに。


「べ、別にそれはいいのよ。そ、それに今日はケンジにお礼するためにって誘ったんだから、それは…その、気にしないで」


すると、あゆみはなぜか俺のという言葉を聞いた途端、明らかに動揺している様子を見せ始めた。


「おぉ、まぁお前がそれでいいならいいんだけどさ……」


動揺しているあゆみを見た俺は、多少驚きながらもなんでもないかを装って適当に返事をする。


「あっ見てっ、路面電車が来てる、急いで急いで!!」


すると、俺たちの目の前にある路面電車の駅前に、電車が到着しているのを見た俺たちは、逃すまいとして全力で走り出す。

俺たちはこれから、家のすぐ近くにある路面電車に乗り、前回待ち合わせをした駅へと向かい、ショッピングモールに向かう電車へと乗り換える。


「そういえばケンジ、ICカードは?」


そのため、あゆみは前回俺たちが揉める羽目になったICカードについて聞いてくるが、


「ふっ、あれからちゃんと買ったさ」


俺は手元に、あゆみと揉めた次の日すぐに買ったICカードを取り出すと、あゆみに堂々と見せびらかす。


「そんなことでドヤ顔されてもね……じゃあさっさと行くわよ」


全力で走って、何とか電車に間に合った俺は、人生で初めて読み取り部にICカードをタッチする。


「おぉ、すげぇ“ピッ”って鳴ったぞ!“ピッ”って!!」


そんな初めての経験に、俺は入口付近で立ち止まって、すこしテンションを上げてしまう。

すると俺の反応に、周りの人たちは俺の方へと目をやりだすわけで……


「……ちょっと、恥ずかしいから黙ってて…」


そんな俺と周りの反応により顔を赤くしたあゆみは、さっさと俺を奥の方へと連れて行き、一番奥の席へと座らせる。


「ねぇ、これ電車に乗り換えるときの改札でも同じことしないでよ、恥ずかしいったらありゃしないわ」

「う、うん…分かった…」


あゆみによる注意を受けた俺は、今さらになってやっと羞恥心を覚え、両者ともに顔を赤くしながら、ゆっくり路面電車に揺られ、そのまま駅へと向かうのだった。


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