第23話 テスト終了!!


―――――とある日の昼頃



その時間、高校の校門付近にはいつもにもまして、たくさんの生徒がたむろっていた。

そして俺たち二人はというと、


「……」


校門の前で顔を見合わせながら、今までずっとため込んでいるものを我慢しているかのように、ずっと無言を貫いている。

そして人が多くなり、ここなら騒いでも目立たないだろうと判断した瞬間、俺たちはほぼ同時に、顔を空に向けながら、両手を突き上げこう叫んだ。


「「終わったーーーー!!!」」


そう、今日はテストが始まった日から二日後、つまり今はテスト最終日の昼である。

よって今は、テストが終わってたった数十分しか経っていないという状況。

現在の俺たちは、テストからの解放感により非常に気持ちが高ぶっていた。


「やっとだ、やっとだよ。俺たちは今、解放された!!」

「テスト終わりがここまで気持ちいいと感じたのは今回が初めてよ!今日は最高に気持ちがいいわ」

「そりゃあ俺だってそうさ。俺だってここまで勉強をしたのも、人に教えたのも今回が初めてだ」


俺たちは向かい合いながら、声を大きくしてそう言い合っているが、今だけは目立つことはない。

俺たちの周りを見れば、俺たちとまではいかないがどんな奴らもすがすがしいような表情を見せながら、カラオケに行こうだの、ゲーセンに行こうだの言い合ってる。

テンションが高いのは俺たちだけではないのだ。


「みんな大体これから遊びに行くようね」

「そりゃそうだ、今日ほど自分の欲に正直であることが気持ちいいと感じるときはないからな。さぁ俺たちも朝、約束したことをやるとしようじゃないか」


そして俺たちも、周りに負けじと今の俺たちの欲望を解放する。


「よし、これから俺たちは……っ」


俺たち二人は、今朝学校に行く前に俺の家で約束したことを実行しようと、同時にこう宣言した。


「「寝よう!!!」」





「―――――ただいま~」


俺とあゆみは、下校中にカラオケやカフェへと寄り道していく同級生たちを完全スルーし、まっすぐ俺の家へと帰っていた。


「ただいま~、って私も言っちゃった」


そしてなぜか、あゆみも俺の部屋へと入っている。


「おいおい、もうテストは終わったろ。今日は自分の部屋に帰れよ」

「いいじゃない、テスト終わりなのに一人って寂しいし。どうせ寝るだけでしょ、だったら変わらないじゃない」

「まぁ、それもそうか…」


俺の部屋にもかかわらず、なぜかあゆみを先頭に奥の部屋に入ると、そこには敷きっぱなしの布団が二枚並べられている。


「なんか、戦いの跡って感じがするわね…」

「かっこつけんじゃねぇよ。今日も朝六時くらいまで勉強してたから、ギリギリまで寝ててバタバタしてただけじゃねぇか」

「まぁいいじゃない、結局寝不足だからこれから寝るわけだし。結果オーライ、結果オーライ」


あゆみはそうつぶやくと、自分の持っている荷物を部屋の端っこに適当に投げ置く。

残念ながら、もうあゆみにはこの部屋が自分の部屋ではないということを認識していないらしい。


「おいおい、勝手の人の家の冷蔵庫開けるなよ」

「いいじゃない別に。いつも私も料理手伝ってるんだし。気にしちゃったらおしまいよ」


あゆみはそう言いながら冷蔵庫からジュースを、食器棚からコップを取り出すと、当たり前かのようにジュースをコップに注ぎ始める。

この部屋ではもう、遠慮というものは存在しない。

あゆみにとってこの部屋は、第二の家なのだ。


「はぁ~、それにしてもやっとテスト終わったわね。長かった~」


あゆみはコップをテーブルの上に置くと、いままでの話題を変えようとそうつぶやき始める。


「はいはい、」


すると、あゆみは急に真面目な顔をすると、ゆっくりこう話を切り出した。


「あのさ、ありがとね。ほんとに……今まで勉強教えてくれて……」

「なんだよ急に気持ち悪い、なんかおかしなものでも食ったのか?俺の冷蔵庫にはそんなものないはずだが…?」

「わ、私だって、きちんと感謝するときくらいあるんです~。さすがにここまでしてもらって感謝の意を持てないほど、私は落ちぶれていませ~ん」


珍しいあゆみの言動に、思わず俺はそうツッコむと、あゆみは恥ずかしそうに顔を赤くしながらそうつぶやく。


「それでさ、全部返せるとは思ってないだけどね、お礼がしたいから今週末にでもデートに行かない?」

「あ~、そういえば俺たちって付き合ってるって状況なんだっけ?」

「……ねぇ、付き合ってって言ってきたのはケンジの方なんだけど、おかしくない?」

「そりゃあな~、今までの俺たちのやってることを考えたら、さすがに初々しい若いカップルには見えねぇんだもん」


自分から付き合ってと言っておいてなんだが、さすがに俺自身でもこの関係が若々しいカップルには到底思えない。

良いのか悪いのかは何とも言えないが、俺たちの関係はもはや遠慮というものは存在していない。

もはや俺にとってはときめきやドキドキなど存在していた時期を通り越し、熟年夫婦になったような感覚なのだ。


「はいはいそれで、どうなの?行くの、行かないの?」


あゆみは俺の反応から急に顔を近づけると、不機嫌そうにそう問い詰める。

しかしそのあと、あゆみは急に微笑みだし、


「あれ~?それとも、週末はどっちも誰かとの約束でもあるのかしら?」


と、顔を近づけたままそんな皮肉めいたことを言ってくる。


「ふっふっふ……それは俺に週末に遊ぶような友達がいないことを知ったうえで言っているのか?」

「了解!暇ってことね!じゃあ今週の土曜日ということで、楽しみにしてるわ」


そして俺のそんな発言により、自動的に俺の貴重な休みの予定が埋まってしまう。


「あ~はいはい、分かりましたよ~っと」


まぁ俺としては、別に否定することもないのでそのまま受け入れると、


「さぁさぁ私たち寝不足なんだし、さっさと寝ちゃいましょう。明日休みじゃないんだし」


なぜかあゆみは急ご機嫌になり、さっさと寝る準備を始めてしまう。


「どうしたよ、急に。まっ、別にいいんだけどさ」


俺としても、テストが終わったこんな日に、わざわざ何かしなければならないことするほど余裕はないため、今回はあゆみに従い、今日はただただ休むことだけに徹するのだった。

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