第20話 あゆみの真実
俺は、今まで不思議に思い続けていたものの、聞かないでいた疑問を口にした。
「何よ急に……それ前に言わなかった?」
「一人暮らししたかったってのは聞いたが、正直なんで一人暮らししたいのかが分からん。別に大学生になってからでもいいだろうに」
この質問はこの前したにはしたが、芯のあるような回答は得られなかった。
別に3年後、大学生にでもなればほとんどの確率で一人暮らしは可能であるにもかかわらず、わざわざ高校生で一人暮らしをしたいという理由はイマイチ分からない。
その上、女子高生なのだから一人暮らしは危ないだろうに。
「それはケンジだって同じでしょ?」
「俺が一人暮らししている理由は、この前話さなかったか?」
俺は静かに怒りの感情を込めながらそうつぶやくと、
「あ~、確か中学の同級生のいない学校で高校デビューしたかったからっていうしょうもない理由があったわね~あなたには」
「うるせー!うるせー!俺はこれでも真剣だったんです~」
あゆみはそれに対し、少しあざ笑うかの口調でそうつぶやいてきた。
「だから私も……ケンジにとってはしょうもなくても、結構真剣だったりするのよ」
「へいへい、じゃあ俺はこれ以上何も聞きませんよ~」
これ以上問い詰めると、それと同等の威力でカウンターをくらうと確信した俺は、この話はさっさと切ろうと、俺の顔を掛け布団で覆い隠して寝る体制に入る。
「ねぇ…ケンジ」
「……なんだよ」
しかし今度はあゆみの方から話を始めた。
「私のお母さんとお姉ちゃんって覚えてる?」
あゆみはなぜか急に自分の家族に話の焦点を当て始める。
なんで俺にそんな話ができるのかというと、実を言うとあゆみとは小学校のころ、一時期交流があったからだ。
親同士が仲良くなったからという、まぁよくある理由からきたものなのだが、高校生になってあゆみが俺に話しかけてきたとき、俺が何気なく接せたのもそれが理由だ。
「はぁ?なんだ急に……ん~最後に会ったの小学校低学年のときだからな~、顔をうっすら覚えてるか覚えてないかレベルだよ」
なんであゆみが急にそんな話を持ち掛けてきたのかは不明だが、別にごまかす理由もないので俺は素直にそう答える。
しかしあゆみはこれから思いもよらないことをつぶやいた。
「実はね、私……お母さんから逃げたくてここに来たんだ……」
「……おぉ」
おっと、また急にシリアスな展開になったものだ。
それにこんな深夜でこの暗闇だとそのシリアスさは最高点へと上がってしまう。
俺も反応に困ってしまい、思わず変な返事をしてしまった。
「えっと……ど、どういうことだ?」
俺はなんて返事をすればいいのか分からず、引き続き話の主導権をあゆみに持ってもらおうと、俺はそんな返事をしてあゆみに続きを話させる。
「ケンジが私の家に遊びに来てた頃は違ったんだけどさ…お母さん、お姉ちゃんが小学校六年生になるころから教育ママ?っていうのになっちゃって」
「あぁ、子供に勉強をさせて、いい中学や高校に進学させようとするあれか」
「そう、だからお姉ちゃん塾に通うようになって、中学受験もやったんだ。それでお姉ちゃん、中高一貫の私立中学に合格したの」
「おぉ~、普通にすげぇな。なんだよ、全然いい話じゃね~か」
てっきりお姉さんが受験に失敗して、お姉さんか母親がおかしくなったみたいなことかと思ったが、どうやら違うらしい。
あゆみはそのまま話を続ける。
「そこまではいいの…でも、今度は私の番だって、お姉ちゃんの中学進学と同時に私も塾に入らされたの。でも今度の私の中学受験の結果が—―」
「失敗に終わった、と」
「う、うん……」
俺はあゆみが言う前にそう答えた。
俺とあゆみは同じ中学だ。
俺が中学受験をしていない時点で結果は予想がつく。
「それでお母さん、高校受験は失敗しないようにって、今度は私を二つの塾に入れ始めたの。でもそんな強制的な勉強、私はしたくなくってずっと苦しかった」
「だろうな、そんなの俺だってごめんだ。俺だったらバックレてるね」
その話を聞いて俺はぞっとする。
俺も中学の時塾に通わされていたが、嫌すぎて高校になったら通わせないでくれと必死にお願いしたものである。
「うん、ありがとう。そして当然そんな気持ちで勉強してても成績なんて伸びなくて、高校受験も失敗しちゃったんだ」
「なんだ?俺たちの高校、滑り止めだったのか?」
「う、うん、滑り止めは勝手に決めていいって言うから、お母さんと離れたこの高校を選んだの」
「なるほどそういうことか。でもよく母親も志望校落ちたからってこの高校に行かせてもらえたな」
俺は、話の節々に感じた疑問をいちいち口に出しながら話を聞いていく。
「だから言ったじゃない、この高校に行かせてもらう代わりに定期テストで十番以内に入らないといけないって。そうじゃないと私、地元の高校に転校させられちゃうのよ。そしたらまた塾通い生活のやり直し…。でもその条件でも一人暮らしするために私、何度も何度もお母さんにお願いしたんだから」
「うげっ、マジかよ。でもここだと塾には行かなくていいんだな」
「そりゃそうよ、お姉ちゃんが私立の高校に通っている上、私も一人暮らしだもの。私の親も別にお金持ちってわけじゃないから、そんなにお金出せないわよ」
「なるほどね…」
俺はあゆみの話を聞き終えると、両手を頭の後ろに組んでただそうつぶやく。
まさかあゆみがそんな状況だとは気が付かなかった。
小学校どころか中学三年間、ほとんど接点がなかったため、あゆみが勉強しているというイメージすらなかった。
だが、これであゆみが勉強する理由も、はじめから勉強習慣がついていた理由も分かった。
「あ~あ、これじゃほんとに俺がここに来た理由がしょうもなくなってきたな」
「そうよ、私に比べたらあなたの理由なんて豆粒みたいなもんなんだから」
「はいはい、今回だけは否定しないでおいてやる。ありがとな、話してくれて、とりあえずもう今日は寝るぞ」
「分かってるわよ、あなたが最初に話しかけてきたくせに」
俺がそう言って布団にうずくまると、またお互い静かになり、寝る体制へと入っていく。
しかし、
「ありがとね、ケンジ勉強教えてくれて」
今度もまたあゆみは俺に話しかける。
「なんだよ、急に。お前らしくない」
「お礼して私らしくないって言われるのは癪だけど……でも、本当にありがと。ケンジのおかげで、初めて勉強が面白いって思えた」
「へいへい、そりゃようございました」
「何それ、適当に返さないでよ。まぁいいわ、それじゃ今度こそ本当におやすみ」
あゆみはそうつぶやくと、今度こそお互い寝る体制へと入っていく。
流石に早く寝ないといけまい。
結局今までゆとりのある感じで話していたが、なんせ今の時間は、
もう朝五時なのだから……
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