第16話 一夜を共に・・・②
「「いっただっきまーす!!」」
俺たちはローテーブルを囲うと、両手を合わせてそう言う。
俺たちの目の前には、先ほど炊いたばかりの白ご飯、インスタントの味噌汁、しょうゆや塩コショウ、オイスターソースなどで味付けした野菜炒めが並ぶ。
「おいしそうね~、ケンジはいっつもこんな料理を食べてるの?」
「まぁ~こんなもんかな。でもいつもだと平日に料理するのめんどいから休みの日に一気に作り置きをするんだが、先週本当久しぶりにお出かけをしたもんだから料理するの忘れちゃっててさ。平日に料理をするってのは久しぶりだよ」
俺たちはさっそく目の前の料理を食べ、先ほどの空腹を満たし始める。
こんな状況での晩御飯は、ぼっちで一人暮らしの俺にとって、とても珍しいことであった。
いつもひとり寂しく食べるご飯と比べ、今日の場の雰囲気は非常に明るい。
「ねぇ見てよこれ、私が切ったキャベツ切り切れてなくてつながっちゃってるよ」
「おうおう、これでお前の料理下手が明るみに出たな」
「べっ、別にいいもん。私まだ高校生だし~、将来大人になったら誰もが驚くような料理上手になるんだからね」
「はいはい、そうでございますか、これは将来が楽しみでございますな~」
一人暮らしである現時点で料理ができてないのだから無理じゃね、とは思ったのだが、それを言うとまた何か言ってきそうなので、言わないでおく。
そしてご飯はというと、俺の料理はあゆみの口にあったらしく、結構おいしそうに食べてくれ、作った側としては非常にうれしい。
これならば焼肉のたれをぶっかける奴でも喜んでくれるではあるまいか。
そして俺たちはそれといった会話をするというわけでもなく、そのままご飯を食べ進めていると、
「ねぇ……今さらなんだけどさ、なんであんたってぼっちなの?」
「急になんだお前、俺の心をえぐりに来やがって」
おいしくご飯を食べているにもかかわらず、なぜか急にあゆみがこんなことを尋ねてきた。
せっかく明るい雰囲気でおいしくご飯を食べていたというのに……
「いや、別にいじりたいとかそういうことをしたいんじゃなくてね、中学時代からずっと思ってたんだけど、別にケンジってぼっちになるような要素ってあまり感じられなくてさ、何があったらこんなことになったのかな~って」
コイツは俺のことをほめたいのか、けなしたいのかどっちなのだろうか?
どちらにしろ、結果俺のことをけなしているのには変わらないというのに。
「…ねぇ、ケンジってさ、まさか中学時代いじめとかにあったってことは……」
するとあゆみは、触れたらダメな話かな~っというような、非常に慎重な表情をしてそんなことを聞いてくる。
しかし、俺はというと、
「ない」
「えっ?」
「ねぇよそんなこと、中学の奴らは普通にいい奴だったし、俺はあいつらのことが苦手だったとか、そういうことは断じてない」
そんなあゆみの疑惑をさっぱり消し去るために、きっぱりとそう言ってやった。
そう、中学の奴らは普通にいい奴ばっかで、無視とかされていたとかではなく、必要最低限のことは話しかけてくれたし、別に人間関係でトラブルがあったとかそんなことをない。
つまり、俺たちがこんな話をすればするほど俺がただただぼっちだったっていう事実が明るみに出るだけであり、俺の心がえぐられるだけなのである。
あゆみは本当に何がしたいのやら……
「いやいや、そんなわけ、それだとまるでケンジのこんな性格がクラスのみんなに受け入れられなかったってことに……いや、でもやっぱり別にコミュ障ってわけじゃないんだから普通に考えてぼっちになるなんて……」
「もうこれ以上何も言うなよ!受け入れられなかったってことでいいじゃね~かよ。もう俺の黒歴史をほじくり返さないでくれっ!!」
「だってさ~中学のころから不思議だったんだもん。私は3年間ケンジと違うクラスだったけど、ケンジのクラスにいる友達に休み時間遊びに行っても、いつ見てもケンジはぼっちだったんだもん。まるで周りに謎のフィールドでも貼っているんじゃないかってくらい」
あゆみは自分の納得するような答えが出るまで話を変えてはくれなさそうだ。
俺からすればいい迷惑である。
「まぁ、なんだ……しいて言うなら、俺の方から避けてたんだよ。あまり人間関係を築かないようにしてたんだよ」
そしてついに俺は諦め、自分自身の黒歴史の片鱗を話すことにした。
「えっ?どういうこと?」
「だ~か~ら~、俺の方からぼっちになるように仕向けてたんだよ、中学の頃はな」
「はぁ?はぁ?どういうこと?なんでそんなことしてたの?意味わからないんだけど!?」
あゆみはよほどの驚きだったのか、今まで持っていた茶碗をテーブルに置き、俺の方に顔を近づけてきた。
「意味は分かれよ。さっ、これで中学時代ぼっちだったかってのが分かっただろ。はいはいこの話は終了~」
「いやいやちょっと待って、これだけだと話の真相が…」
「はいはい、ごちそうさーん。使った茶碗は水につけときましょ~う」
俺はこのタイミングでご飯を終えると、さっさと食器をキッチンに持っていき、話を強制的に終わらせる。
「え~、もうちょっと聞きたかったのに~」
あゆみはというと、さすがにもうこれ以上聞けないとあきらめたのか、自分の茶碗に残っていた米を口にかきこむと、一緒に食器をキッチンへと運び始めた。
これ以上は踏み込まないでいただきたい、ただただ俺の黒歴史が浮き彫りになるだけだからっ!
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