第15話 一夜を共に・・・①


「まっ、とりあえず上がれよ」

「お、お邪魔します…」


先ほどひと悶着あった俺たちは、ひとまず落ち着いて、とりあえず俺のアパートの部屋へと入る。


「まさか、俺の隣がお前だったとはな…まぁ隣の部屋に引っ越しのあいさつに行ってなかったから、誰かな~とは思ってはいたが……」

「同じく……女性が一人暮らしっていうのがばれるのはどうかと思って、私もあいさつはしてなかったから」


お互い、今回のことは予想外だったようで、喜びとか悲しみとかそういう感情という以前に、今の状況が信じられないでいるというのが正しいだろう。

部屋に入るまで、お互い行動がたどたどしくなっていた。


俺の部屋は1Kであり、玄関入ってすぐのキッチンの付いた通路を通ると、7畳ほどの部屋があるのみ。

俺たちはアパートの中に入ると、さっそくその7畳の部屋に入り、真ん中に設置しているローテーブルを囲むようにお互いが座る。


「………」


そして数秒間、お互い沈黙の状態が続いてしまう。


「まぁ、考えたら当然なのかもな」

「えっ?」


そして、その沈黙を破ったのは俺の方だった。


「だって考えてみろよ、ここら辺は住宅街と言っても何人かの家族で住むような広そうな物件ばっかだし、その上ここは学校から徒歩5分だぞ。そんな物件、ぜひ住みたいと不満なく思うような奴なんて、俺らみたいな高校生で1人暮らししているような奴くらいだ」

「ま、まぁ確かに……私も不動産屋の人に私たちの高校に一人暮らしで通うならここが一番だって言ってたし……」


俺の話の切り出しをきっかけに、やっと俺たちは現実を受け入れるようになった。


「たぶん、俺の行った不動産屋もお前と一緒なんだろうな。同じ不動産屋に同じようなタイプの顧客がいたら同じ物件を勧めるのは当然か…」


こんな偶然にしてもびっくりするような事実も、よくよく考えてみれば必然だったのかもと冷静に考えられるようになった。

普通に考えて、わざわざ高校で実家から近い高校をあえて選ばずに、一人暮らしをしようとするやつなんて、そうそういるわけがない。

そんなもの好き、俺らだけで十分だ。


「さっ、そんなことはさっさと受け入れて、早く勉強の続きを始めるぞ。ただでさえ時間がないんだから」

「はいはい、分かったわよ、始めればいいんでしょう、始めれば」


あゆみはまだしこりが残っていそうだが、とりあえず俺たちはそんな事実は気にすることは止め、さっそく勉強の続きを開始する。




―――――そして約2時間後の午後9時ごろ……


「ねぇねぇ、もう今日はいいでしょ!!今日のところは勉強終了!!お疲れさまでしたっ!!」


あゆみはついに限界なのか、上に向かってそう言うと、両手を後ろの地べたにつきながら、反身の姿勢を取り始める。


「何言ってんだ!!お前が隣の部屋に住んでいる以上、帰宅の心配をする必要がなくなったんだから、ギリギリまでやるぞギリギリまでっ!!」


そして俺はというと、テストまでの残り時間を考えると、限界などとは言ってられないため、そのまま続行しようと試みる。

しかし、


「何言ってるの!?私たちまだ晩御飯を食べてないのよ。これ以上集中できるわけないじゃない!!」


あゆみはそう言って対抗してきた。


「あ~、そうだったな、完全に忘れてたわ。すまんすまん」


そしてその発言により、俺はまだ晩御飯を食べてないことに気づく。


「あなた正気?私だけじゃなくケンジも晩御飯を食べてないのよ!なんで私が言うまで気づかないのよ?」

「ごめんって。俺も今まで集中しすぎてて考えてすらいなかったんだよ」

「あなた、もしかして自己管理できないタイプだったりする?」

「う~ん、まぁ確かに知らない間に朝だったってこともたまにあるしなぁ」

「はぁ、ちょっとこれから嫌な予感しかしなくなってきたわ…」


あゆみが何を考えているのかは分からないが、とりあえずあゆみの言う通り晩御飯にするとしよう。


「じゃあ今日のところは晩御飯にして、勉強はまた明日ってことにしますか!あゆみ、今日は晩御飯食ってけよ」

「え、いいの?ラッキー、ありがとう」


あゆみは俺の提案を快く受け入れてくれたので、俺はさっそくキッチンのついた通路へと向かう。


「そういえばケンジって料理ってできるの?」

「まぁな、俺が一人暮らしする際に、お母さんに一通り教えてもらったよ」

「へぇ~、すごいじゃない」

「なんだ?お前はお母さんに教えてもらわなかったのか?」


俺があゆみにそう聞いた途端、なぜかあゆみは顔の表情を暗くした。


「私のお母さんはそんなことしてくれないし、私から頼もうともしなかったから…」


俺は変なことでも聞いたのだろうか?

別にそこまで大した話をしたつもりはないのだが……


俺はさっそく冷蔵庫の中身を確認すると、中にはキャベツやにんじんといったちょっとした野菜と、豚の細切れくらい。


「今日は肉野菜炒めにでもするかな」


俺は作るものを決めると、さっそく具材を冷蔵庫の中から取り出し、調理に取り掛かる。

いつもの野菜炒めはただただ野菜を炒めてそのあと焼肉のたれをぶっかけるだけの簡単調理なのだが、今回は女の子もいることだし、しょうゆや塩コショウを使ったちょっとさっさりめにでもすることにする。


「そうだあゆみ、ご飯ないからお米炊いてくれよ」

「はいは~い」


俺の呼びかけで、部屋で勉強道具の片づけをしていたあゆみもキッチンへとやってくる。


「米はそこ開けたら入ってるから、とりあえず一気に3合炊いてくれ。余ったら冷凍するから」

「オッケ~」


あゆみは俺の指示に従い炊飯器の中から釜を取り出すと、さっそく米を入れて米を研ぎ始める。


「なんかこれ新婚夫婦みたいだな~」

「はいはい、そんなバカなこと言ってないでさっさと私のためにご飯作りなさい」

「了解~!」



俺たちの夜はこのままこんなことをしながら過ごしていく……





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