第14話 とりあえず、現実を見ようか・・・②


あゆみはそう大声を上げ、俺を止めようとしてくるが、俺は止まらない。


「い~や、やめないね。先週の休みをつぶした俺が言うのもなんだが、テストまであと二週間しかないんだぞ!このままだと絶対に百番以上確定だね!」

「なんなの!一体ケンジは私をどうしたいのよ!」


あゆみはというとそう言いながら、もうすでに涙目となってしまっている。

しかし、俺は続けてあゆみにこう言った。


「だからだ!……これからは俺の言う通りに勉強してもらうぞ、異論は認めん」

「…はい?」


そしてそんな俺の発言にあゆみは一瞬固める。


「いいか?これから二週間、お前の時間は全て俺に渡せ。それくらいじゃないとたぶん十番以内は厳しい、分かったな?」

「……あ~…そういうこと?」


そして続けてそう発言すると、あゆみは俺の意図を理解したのか、ほっとした表情を見せ始めた。


「な~んだ、よかった。てっきりケンジが続けて私を罵倒し続けて、そのまま私との約束を放棄する気なのかと思ったわよ」

「さすがの俺でもそこまではしねーよ。だけどさすがにお前の考えが甘すぎだからちょっとそれに気づいてもらおうと思っただけだよ」

「はいはい、そういうことね。それなら私は大歓迎よ。二週間くらい、あなたの言うことに従ってあげるわよ」


あゆみは安心そうにそんなことをつぶやいているが、本当に大丈夫なのだろうか。

あゆみが初めから逃げ出さないようにあえて言っていないが、これからは先ほどまでとはまるで違う、勉強漬けの毎日になるのは言うまでもない。


まぁ、本人がそう言うのだから、お言葉に甘えて徹底的にやらせてもらおう。


「ならそうと決まれば、さっそく勉強を始めるぞ。この空き教室は学校全体が閉まるまで開いてるから、とりあえず最終下校時間の19時まではぶっ通しで勉強を行うからな」

「いいけど、また急ね。確か今が16時くらいだから……3時間か。ちょっと長いけど、しょうがないわね。さっそく始めましょう」


あゆみは張り切った顔をしながら、そうつぶやく。


さぁ、あゆみは果たしてどこまで持つかな……






「―――――疲れたー!!」


勉強を始めて約3時間後、あゆみはついに弱音を吐き始めた。


「おぉ、やっとかお前、よくここまで持ったもんだなぁ。大したもんだ」

「何その発言?なんか私のことを低く見られてたみたいで癪なんですけど~」


あゆみは俺の発言にすかさずそう反応するが、実際、俺は正直驚いている。


なぜかあゆみは勉強する癖はついているらしく、俺の提示する勉強に対し、すかさず対応していった。


俺自身、うまくいきすぎて少し気味悪く感じたほどである。


「はいはい、よく頑張ったよお前は。正直10番以内はさすがに無理かな~って感じで、やれるだけやってみるかって感じだったけど、案外不可能じゃないのかもな」

「えっ、ほんとに!!嘘じゃないよね?」


あゆみは俺のちょっとした発言に、目をキラキラ輝かせる。


「まっ、この状態が続けば、だけどな」

「やったぁ、うれしいな~!」


俺としてはちょっとした褒め言葉のつもりでそう言ったのだが、あゆみは予想以上に嬉しそうにそうつぶやく。


たしか、あゆみが今回のテストで10番以内になれなかったら一人暮らしできなくなるって言ってたし、この喜びようはしょうがないのかもしれない。

だが、そんな条件を突きつけられてもこの高校に来るなんて……そんなに一人暮らしがしたかったのだろうか……それとも家族と暮らすのが嫌だったとか…


まぁ今それを考えても仕方がないため、俺はさっそくあゆみに提案をすることにした。


「よしっ、じゃあ次だ次、今から俺ん家に行くぞ。そこで勉強の続きだ」

「……は??」





「―――――な~んでよ~!!」


現在夜19時、俺はあゆみの文句を聞きながら学校の廊下を歩く。


「いい加減あきらめろって。それに当たり前だろ、もうテストまであと二週間だぞ。この後も勉強するに決まってるだろうが。それともなんだ?お前ん家の方がよかったか?」


正直、この行動はさすがの俺でもすごく迷った。

流石に夜、俺の家で二人きりって、どんな陽キャだよとは思ったのだが、勉強がうまくいっているとはいえ、毎日3時間しか勉強を見れないのは正直不安でしかない。


この行動は、あゆみのためなのだ。



とは言い訳をしてみたものの、俺の動機には寂しさも存在していた。


だって夜に部屋に一人きりってすごく寂しんだもん。

ぶっちゃけ一人暮らし舐めてたわ。

家でもぼっちってどんな地獄だよ、と入学してからずっと考えてしまっている。


まぁ学校で勉強だけでは間に合わないのも事実であるため、そこは許してほしい。

どうせ俺たちはお互い一人暮らしなんだ、誰も止めるやつはいまい。


「はいはい分かったわよ、分かりましたよ。やりますよ、やればいいんでしょ。別にケンジの家でいいわよ」

「おいおい何拗ねてんだよ、やる気があるって言ったのはそっちだろ?なら、ぎりぎりまで勉強だ」

「分かってるわよ、うるさいわね!」


俺の煽る顔を見たあゆみは、不機嫌そうな顔をしながら俺の前を歩いている。


「それで、ケンジの家はどこなのよ?」


そして、そのまま俺たちは学校の校門を出ると、あゆみが少し不機嫌な態度を残しながらそう聞いてくる。


「あぁ、俺の家はここから相当近いところにあるぞ。なんせ学校に近いところっていう条件で選んだからな」

「そう、それならいいわ。私も学校から近いところを借りてるし」


俺の返答を聞いたあゆみは少し安心した表情を見せ、そのまま数分の間、一緒に俺の家へと向かう。


「へぇ~ケンジもここら辺に住んでるんだ」

「ケンジもってことは、お前もこのあたりに住んでるのか」

「えぇ、不動産屋さんにこの高校に住むのならこのあたりが安心だって…」

「そうそう、俺も言われたよ、このあたりって住宅街だもんな」


俺たちはそんなことを話しながら、学校から少し離れたマンションやアパート、スーパーなどが立ち並ぶ道を並んで歩く。


「ここまでくればもう少しだな」

「あれっ、ちょっと待って、私もこのあたりなんだけど…」

「おぉ、奇遇だな。ここまで家が近所なら遅くまで俺の家で勉強してても大丈夫そうだ」

「いやっ、これって近所というより…」


あゆみが少し疑念を抱いているかのような表情を浮かべながら、そのまま歩いていると、


「着いた、ここだここだ。ここの二〇五号室に住んでるんだよ」


俺がそう言いながらあゆみの方を見ると、


「……」


あゆみは口をあけながらしばらくの間ポカーンとしている。


「どうしたんだよあゆみ、このアパートが何か変なのか?」


あゆみがそんな表情をする理由が全く分からない俺はとりあえずそんなことを言っていると、


「…なのよ」


あゆみはうつむきながら小さく何かをつぶやいている。


「えっ、何?」

「私も……なのよ」

「えっ、ごめん聞こえない」


周りは住宅街で静かなのにもかかわらず、あゆみの声が小さく、よく聞き取れなかった俺は何度もあゆみにそう聞き返す。

するとあゆみは急にはっきり声を出しながら、


「だから、私もこのアパートに住んでるって言ってるの!ここの二〇四号室にっ!」

「はぁぁぁぁぁぁ!?」


なんともまぁ、予想外なことを、俺に言ってきたのだった。




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