第13話 とりあえず、現実を見ようか・・・①
あゆみとあんなことがあってしまった次の週の月曜日、俺は少し憂鬱な表情をしながら学校に登校する。
「ガラガラ…」
俺はいつも通り、自分の教室に入ると、そのままそそくさと自分の席へと座る。
そう、いつも通り、誰にもあいさつされることなく……
しかし、今日はいつもと違い、俺が席に座ると、それに反応するかのように一人のクラスメイトが俺に話しかけてきた。
「おっはよ、ケンジ」
「はいはい、おはよう」
俺の席の前に立ったあゆみは、ウキウキ顔でそう俺に挨拶をしてきた。
そして、そんなあゆみの両手には、俺からすれば嫌な予感しか感じない、すごく分厚い参考書を抱えている。
「ねぇねぇ見てよこれ、昨日自分で本屋に行って買ってきたんだ!これを読めばテスト10番以内なんて余裕だよ!」
そしてあゆみは目を輝かせながら、俺に向かってそんな馬鹿なことを言い出す始末。
「はいはい、それはようございましたな~」
しかし俺はというと、すこしあきれ顔で投げやりにそう返す。
「ねぇ~、さっきから何その反応。一昨日の約束忘れちゃったの~?」
流石に俺のやる気のない返事に不満を持ったのか、あゆみは俺にそう問いただしてきた。
しかし俺は、そんなあゆみの発言を聞いた瞬間、
「バンッ」
と、軽く自分の机をたたくと、
「確か教室の隣、空き教室だったよな?今日の放課後そこに集合だ」
と、静かにそうつぶやいた。
「べ、別にいいけど、どうしたの急に?まぁやる気になってくれたのならいいんだけど……じゃ、また放課後にね」
あゆみ俺の反応に少し戸惑いはしたものの、自分の机に座ると、先ほど大事そうに抱えていた分厚い参考書を開いて勉強を始めだした。
「あいつ、勉強のやり方を分かってねぇな…」
俺はそんなあゆみの姿を見てそうつぶやく。
流石の俺も、今回のことはもう受け入れることにした。
まぁそもそも最初、自分からいいよと言ってしまったのだから、勉強を教えるのは当たり前と言えば当たり前なのだが、やはり高校生活友達ゼロは大きかった。
流石に、高校生活友達ゼロになるくらいなら、あゆみの頼みくらいは聞く。
それにあゆみの性格のことだから、本当に10番以内にしてあげないと、結局クラスのみんなに変な噂を流されそうだから、手を抜くわけにもいかない。
これは、俺があゆみを定期テストで10番以内に入れないと、高校生活ぼっちが確定してしまうというミッションが本当に発動してしまったと言える。
「はぁ~、マジできつい未来しか見えねぇ」
そして俺はこれからのことを考えてしまい大きくため息をつくと、放課後までいつも通りぼっち学生生活を送るのだった。
「―――――あれ、もう来てたんだ、早いね」
その日の放課後、俺は自分の教室の隣であり、誰もおらず空き教室となっているこの場所で、俺はしばらくあゆみが来るのを待っていると、のんきな顔をしたあゆみが、ゆっくりと教室に入ってきた。
「普通に遅ぇよ、今まで何やってたんだよ?」
待つのに飽きて、少しイライラしてしまっていた俺は、怒り口調でそうあゆみに尋ねる。
「あはは、ちょっと昨日買った参考書の内容が分かんなくって、ずっと参考書とにらめっこしてたんだ~」
「何やってんだよ!お前は俺に勉強を教えてほしいのか、自分で勉強したいのかどっちなんだよ!」
「ごめんごめん、でもさ、やっぱり人に教えてもらうだけだとなんだか心もとなくってさ」
やはり、あゆみは勉強意欲だけはあるらしい。
いつまでもつか、というところはともかく最初に行動に起こせるだけでもいい方だろう。
まぁ、それだとなぜ勉強はできないのか、という疑問は残ってしまうのだが……
しかし、俺も高校生活が懸かっているため、意地でもあゆみには結果を出してもらわなければならない。
試しに俺はあゆみにこう切り出した。
「おい、あゆみとりあえず昨日買ったっていう参考書、出せ」
「えっ、別にいいけど、今日の勉強に使うの?」
するとあゆみはちょっと不思議そうに、自分の買ったあの分厚い参考書を俺に差し出してきた。
そして俺はというと、その参考書を持ち上げると、あゆみにこう言ってやった。
「はーい!この参考書は没収しまーす!」
「はぁ!何それ!?」
あゆみは何言ってるんだというような反応だが、俺の方が何言ってんだと言ってやりたい。
実を言うと、あゆみが昨日買ったらしい参考書は、難関大学を目指す人たちが使うような超ハイレベルな参考書であり、現在高校一年生、学力も全然高レベルでもないあゆみが理解できるのなら、俺に声をかけてくるような状況にはなっていない。
正直、もしこの本を理解できるのなら、この高校くらいなら1番2番取れてもおかしくないだろう。
コイツは本当に勉強の仕方というものを分かっていないらしい。
「いいかあゆみ?お前はこれから俺の言う通りに勉強してもらう」
「え~なにそれ?なんか自由を感じられなくて少し不安なんですけど~」
あゆみは俺の行動に少し不満を持ってしまったのか、少し反発気味にそう答える。
しかし俺とて、これで終わるわけにはいかない。
「いいかあゆみ、お前はまず現実を知ることから始めろ」
「はぁ何言ってんの?現実を知ってるから勉強してるんじゃない?」
そして今度は、コイツは何をしたいんだという懐疑的な表情を向けてくるが、俺は何倍もの迫力でこう言う。
「お前、馬鹿か?今のお前の状況は分かってんのかお前!この前の実力テスト何番だったか言ってみろ?」
「うっ……百四番です……」
あゆみは少し口ごもりながらそう答えるが、俺はもっと現実を教えてやろうと、もっとはっきり、何度もそんな確認をする。
「そうだな、百番台だな。そしてこの学校の一学年の人数は何人だ?」
「百六十人です…」
「そうだな、百六十人だな。そしてこの学校は県有数の学力を持つ人たちが集まるような学校では~」
「ないです……」
「そうだな、そんな進学校じゃないな?それじゃあ」
「もうやめて!もうわかったから、もうその“そうだな”って言うのやめてぇ!!」
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