第12話 買い物という名のデート・・・⑤


急なあゆみのそんな発言。


それを聞いた俺は一瞬戸惑いはしたものの、このまま機嫌を損なわせたままではいけないと感じた俺は、


「お、おう、ちゃんと教えるよ…」


すこし口ごもりながらも、そう答える。


「じゃあじゃあ、これからはちゃんと私に勉強に教えて絶対に私をテストで10番以内にしてくれる?」


こんな状況だが、俺にはNOという権利はあるのだろうか?


コイツ、こんな状況をいいことに、しっかりと俺が勉強を教えてあゆみをテストで10番以内にするという約束を確認して、確固たるものにしようとしているな。


あゆみもあゆみで、そんなことを言いながら得意げな表情をしており、俺がこの状況で断れないことを分かっているらしい。


「あ、あぁ…任せとけ」


そして俺は当然この問いかけにNOと言う勇気はなく、従順にあゆみの誘導に従うことになる。


「じゃあ決まりね!これからケンジはテストの日まで私のために行動すること。わかったわね?」


すると、俺の言葉を聞いたあゆみは、急に機嫌を取り戻し、俺にこんなことを言ってくる。


まるで、今までの態度が演技であったかのように……


「お、おい、ちょっと待てよ。なんだその急な機嫌の直りようは!さっきの俺の態度がバカみたいじゃね~かよ!無効だ無効!この約束は無効だ!!」


流石に今までの俺の気持ちを返してほしいと思った俺は、すかさずそう文句を言って対抗する。


しかし、


「あれ~、そんなこと言っちゃっていいのかな~。私との約束が守れないって言うのなら、来週学校でケンジっていう人は女の子の心を傷つけた挙句、約束も守れない人ですよって言っちゃおうっかな~」


あゆみは俺に対して、とんでもない核爆弾を用意していたらしい。


「おまっ、ちょ、それはないだろう……」


友達ゼロの俺に対して何たる仕打ちか…


現時点で友達のいない俺に対して、人間関係のほどはよくわからないが容姿端麗な女子であるあゆみがそんな噂を流してしまっては、俺に弁解の余地はほとんどなくそのまま高校生活ぼっち確定の未来が容易に想像できてしまう。

今、俺の命運は、目の前にいるあゆみの手に委ねられてしまっている。

なんという恐ろしい子!


あと、話の内容が地味に間違っていないのもなんか悔しい。


「さぁさぁケンジ、どうするの~?」


コイツ!にやにやしやがって!楽しそうだな、おい!!

あ~あ、今日結構楽しかったから、そのまま楽しめるだけ楽しんでうまくバックレようと思ってたのにな~


結局、あゆみの発言を聞いた俺は、一瞬戸惑いはしたものの、次に俺がどうすべきなのかはもう決まっていた、というか決めざるを得なかった。


「はいはい、分かりましたよ。これからは全身全霊あなたのために勉強教えさせていただきます」

「ハイ、よろしい」


俺の発言を聞いたあゆみは、満面の笑みでそう答える。


「あなたこのままだと自分だけいい思いして、そのまま何かと理由をつけて逃げそうだったから、うまく釘を刺せてよかったわ~」


そしてそれに付随して、そう一言も添える。


あら、はじめからばれちゃってたのか……


結局、俺は初めからあゆみの手のひらで踊らされていたらしい。


「じゃあまた来週ね、ケンジ。来週からはそう簡単にはデートなんかに付き合ってあげないからね」

「はいはい、分かりましたよ~っと」


そしてあゆみはそう俺に言い残すと、俺に背を向けながら、そそくさと歩いていってしまう。


「あ~あ、ただでさえ面倒だったのに、余計ひどくなっちまったな~」


そして俺はというと、あゆみの背中を見ながら呆然と突っ立っているのみ。


しかし、俺はふと、あゆみのさっきの発言に多少違和感を覚えたので、歩いていくあゆみに対して最後に後ろからこう聞いてみた。


「そういえばあゆみって今日のこと、って思ってくれてたんだな」


あゆみから見れば今日のことはちょっとした買い物程度にしか思ってくれていなったのかと思っていたのだが、多少はデートと認識してくれたみたいで少し意外だった。


そしてその上、そのあとのあゆみの反応も少し意外で、


「別にそこはどうでもいいでしょ!!じゃ、またね!!」

「お、おう…」


少し戸惑った顔をしながら、声を張りながらそう俺に言い、急いだ様子で走って行ってしまった。


容姿端麗なあゆみのことだから、恋愛経験豊富だと思っていたのだが、こんな初心そうな反応を見せるなんて少し意外だった。


ま、一応俺はあゆみの彼氏なわけだし、ちょっとくらい自身を持ってもいいのかも、とあゆみの反応に付け込んで多少俺自身を鼓舞してみる。


ま、ただの契約なんですけどね……


結果今日は、あゆみの手によって俺があゆみを定期テストで10番以内に入れる、少なくとも入れるよう誠意を見せないと、高校生活ぼっちが確定してしまうという、とんでもないミッションを突きつけられてしまった俺は、憂鬱という感情だけを残し、一日を終えることになった。



あ~あ、これからうまくやっていける気がしね~
















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