第11話 買い物という名のデート・・・④


「ん?なになに?」


俺の言葉にあゆみはそう反応し、俺の差し出す本に目をやる。


「………」


するとあゆみは俺の持つ本をじっと見ながらしばらく黙りこくっている。


「ねぇ、ケンジ、あなた私をバカにしてるの?」


そして、次にあゆみが発したのはそんな言葉。


「何言ってるんだよ~俺は本当にお前にこの本を読んでほしいと思って言っているのにな~」


そんなあゆみの発言に、俺は少しふざけた感じを醸し出しながら、手に持っている本をもっと前へと差し出す。


「……だったら、どんな世界に学校のテストで高い点数を取りたいって言った人にを勧めてくる人がいるのよ!!」


そう、ずっとあゆみに差し出していたのは一冊のマンガであった。

その上、勉強に関するマンガなどではなく、大人気バトルマンガである。


「な~に言ってるんだ。このマンガはな、人生の教科書ともいえる名作なんだぞ。お前がこのマンガを読み切ったときには、さぞかし素晴らしい道徳心を得ることができるだろう」

「ばっかじゃないの!!私に道徳心が必要ないとは言わないけど、今私に必要なのは国数理社英の五教科なの!マンガを見てる暇なんてあるわけないじゃない!」


そしてあゆみは俺の反論に対して倍の勢いで返してくる。


なんか俺たち、こんなことしてばっかだな~。


今日だけでも何回したのか分からない俺たちの言い争いに、俺も流石に慣れてきてしまうそうだ。


「ねぇ、今までずっともしかしてとは思ってたんだけど……あなた、私に勉強の話をさせないようにしてるでしょ?」


そしてあゆみは、ついに俺の今までの行動を察してか、俺に核心をつくような問いかけをしてきた。


このままだと、俺がただあゆみとデートをしたかっただけだということがばれしまう。

うまく言い訳をしなければ・・・


「………さぁ~、何のことやら……」


うん、言い訳下手だな~、俺。


残念ながら、俺の思惑とは反対に、俺の性格上うまく言い訳をしてこの場を逃れることは不可能であったらしい。


俺の下手な言い訳を聞いたあゆみは、しばらく沈黙をした後、


「帰る!」


そう俺に吐き捨て、回れ右をして本屋を出て行ってしまった。


「ヤバい、ヤバい…怒らせちゃったよ~」


女性経験どころか対人経験もほとんどない俺は、このままだと人生初めてのデートで女の子を怒らせて終了という残念な結果を招いてしまう。


「ちょっと待ってよ、あゆみ~」


そしてそれはさすがにまずいと感じた俺はすかさずあゆみを追いかけ、


「機嫌直して~や。お願いだからさ、これからも仲良くやりましょ~ぜ~」


このようなよくわからない下手の出方で、あゆみの機嫌を直そうと試みる。


「だ~め~で~す~」


しかし、あゆみもあゆみで今の流れでへそを曲げてしまったらしい。


「そんなこと言わずにさ~、ねぇ?」


そして、俺たちのこの許して許さないの言い合いは、このままあゆみを先頭に、ショッピングモールを出て、そのまま駅に到着するまで、続くのだった。





「ねぇねぇあゆみさん、さすがにもう機嫌を直してくれてもいいんじゃない?」


俺は行きと同じように、駅の券売機で切符を買うと、先にホームで待っているあゆみのとなりに立って、そう問いかけた。


「………ヤダ」


しかしあゆみはというと、相変わらず不機嫌な顔でそっぽを向いている。


そして、そんなあゆみの態度を見た俺はというと、まぁ今思うべきではないのだろうが、


「かわいいな…」

「はぁ!?」


そんな不純なことを考えてしまっていた。


「いえ……何でもないです……」


しかし、そこまですごく怒っているわけではないということなのか、今のあゆみの怒った表情は、男の俺からしてすこしかわいらしさを覚えるものだった。



普段かわいい上に、怒った顔もかわいいなんて……なんか、世の中って不平等だな…



まぁ、そんなことはさておき、今回の件は10:0で俺が悪いので、何とか機嫌を直してもらわなければなるまい。

もし、このまま家に帰らせてしまい、来週学校であゆみに今日のことを周りに話されでもしたら、たまったものじゃない。

ただでさえ低い俺に友達ができる可能性が、限りなくゼロに近しくなってしまう。


しかし、そんな俺の願望とは裏腹に、次の電車に乗った俺たちはそのまま一言も話すことなく、待ち合わせに使った駅に到着してしまう。


「あの、あゆみさん、最初の場所に着いちゃったんだけど…」


そしてそのまま俺たちは、待ち合わせの場所に戻ってくると、あゆみは急に俺の方にむき直すと、


「じゃあ、これからは、ちゃ~んと私に勉強教えてくれる?」


そう俺に問いかけてきた。


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