第10話 買い物という名のデート・・・③


「ぷはー、食った食った」


俺たちは食事を終えると、食器を注文したお店に返し、フードコートを後にする。


「同級生と一緒に食事、こんなに珍しいことはありませんよ」

「ケンジにとってこんなことさえも珍しいことなのね、なんかかわいそうになってきたわ…」


俺たちはそんなことを言い合いながら、ショッピングモ―ルを歩いていると、


「おっ、カフェがあんじゃん、ちょっと休憩しようぜ」


目の前にあったのは某有名喫茶店チェーン。


俺はもともと行こうと思っていたところを、さぞ偶然発見しましたかのように言って中に入ろうと提案する。

一回もやったことはないのだが、こういうのがデートというものではないのだろうか。


「ちょっと待ちなさいよ、本屋はどうしたのよ本屋は!」


しかし、あゆみはそんな俺の思惑に反し、そう言って俺の行動を阻止しようとしてくる。


「別にいいじゃんか、あとちょっとで閉まるわけでもあるまいし。ちょっとだけ、ちょっとだけだから」

「だめだっての!」


しかし、今までの流れからして、このままの流れに任せれば、おそらく寄り道できると確信した俺は、結構強気に誘ってみる。

すると、


「あれっ」


あゆみが何かを発見したような表情をしたので、俺もあゆみの見る方に目をやると、そこには季節限定のドリンクの立て看板が。


「すっ、少しの間だけだからね!」


するとなぜかあゆみはその看板を見た瞬間目の色を変え、結構前向きに俺の誘いに乗っかってくれ、逆に俺より先に店の中へと入っていく。


まぁ、俺としては誰かと一緒にカフェに行ってみたかったからそれでいいのだが、あゆみのやつ、あれだな。

あのドリンク、飲みたかったんだな。


店に入り、俺たちはさっそくレジへと向かうと、あゆみは何気ない顔をして定員さんに注文をし始める。

そして誘った張本人である俺はというと、ただあゆみの後ろに立っているのみ。

まぁ俺はそんな状況なので、


「じゃ、あゆみ、後は頼んだ。俺のは別に何でもいいから」


俺はあゆみに俺の注文まで任せることにした。


「は?何言ってるの。ここに行きたいって言ったのはケンジじゃん!」


あゆみの言い分はもっともなのだが、俺はあゆみにとある事実を告げる。


「いや俺実は、この店に来るの初めてでさ…」

「じゃあなんでここに行こうって言ったのよ!」

「まぁ、社会経験の一環として」

「私、あなたのお母さんじゃないんだけど…」


とりあえず俺たちはこんな言い合いをしつつも、後ろのお客に迷惑をかけるわけにはいかないため、とりあえず俺はあゆみと同じものを注文し、ドリンクを受け取る。


「おいおい、ドリンクの上にクリームついてるぞ、なんじゃこりゃ」

「ケンジ本当に行ったことないのね…どうせ注文の仕方とかも分からないんでしょ」

「あぁ、お前と店員がよくわからん単語を発してて全然理解できなかった」

「でしょうね…よく一緒に行こうって言ったものだわ」


あゆみは少しあきれながらドリンクのストローに口を当てる。

そして俺もあゆみに合わせるようにストローに口を当ててみる。


おっ、これうまいな。


カフェの時間を楽しんだ俺たちは、店を出て数分経った後にはあゆみの目的であった本屋に到着していた。


しかし、俺たちは本屋の前でも言い合いをしてしまっている。


「ほらほら、本屋に着いたわ、早く行くわよ~」


現在、あゆみは俺の腕を強く引っ張りながら俺を本屋の中に連れて行こうとしてくる。


「もうちょっと、もうちょっとその辺ぶらぶらしようぜ、寄り道も結構いいもんだから!」


しかし、本屋に入って買うものを買ってしまえば、ショッピングモールデートが終わってしまうと考えた俺は、そう言って全力で抵抗してみる。


「寄り道ならもうしたでしょうが!早く中に入るわよ~」


カフェを出た後、俺はもう少し粘ろうとショッピングモールの中にある映画館で映画でも見ないかと誘ってみたのだが、さすがにあゆみにふざけるなと横蹴りをされてしまった。


結局俺の努力虚しく、あゆみの手により無理やり本屋へと引きずりこまれることになる。


俺としてはもう少しショッピングモールデートというものを楽しみたかったのだが、まぁこのくらいで満足しておくことにする。


まぁ本屋デートに変更ということにしておきましょう。


そして本屋に入った流れで俺たちはそのまま参考書コーナーへと向かう。


「ねぇ、この本はどう?なんか読み切れば頭よくなりそう」


参考書コーナーに到着すると、あゆみがめっちゃ分厚い本を手に持ちながら、そんな馬鹿なことを言ってくる。


「おまえ何言ってんの?こんな分厚い本読み切れるわけねぇだろ。それにこれ、上級者用じゃねぇか」


コイツは本当に十番以内に入る気はあるのだろうか。

いくら俺らの通う高校が進学校ではないとはいえ、間違った勉強法のまま勉強しててもいい成績をとれるような学校ではないぞ。


「えぇ~、じゃあやっぱりケンジが選んでよ。そのためにケンジと来たんだからさ」


その上、あゆみはそういって俺に完全に丸投げをしてくる。

大丈夫なのだろうか、それで。


「ん~、そうだな~」


まぁ俺のやりたいようにできるというのなら、勉強の話なんてやめて別の話に持っていきたい、そう思った俺は、


「じゃあこれなんかどうだ?」


とある本棚からとある本をあゆみに差し出してみた。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る