第9話 買い物という名のデート・・・②


電車に乗るだけでてんやわんやしてしまった俺たちだが、何とかショッピングモールから徒歩数分の駅までたどり着き電車を降りると、さっそくショッピングモールに向かって歩いていく。


「本当に久しぶりだな、ショッピングモールに行くのも…」

「えっ、ケンジは中学の頃とかに友達と行かなかったの?」

「お前、中学の頃俺に友達がいなかったことを知ってて言ってるのか?」

「知ってるに決まってるじゃん。だから言ってみたのよ。あんたいつもぼっちだったもんね」

「…………」

「ねぇ、なにか返してよ。私突っ込むの期待して言ったんだからさ。ケンジ、ごめん悪かったから、ちょっと無視しないでよ!」


あゆみの発言により、何か心に来るものがあった俺は、目的地に到着するまで何も話せなかった。



そしてショッピングモールに到着すると、建物の構造を知らない俺たちはひとまず目の前にある自動ドアを通って中に入る。


「とりあえず中に入れたな。あゆみはこのショッピングモールに来たことはあるのか?俺初めてだからどこに何があるのか分からなくてさ」

「私もここには一度も来た事はないわよ。だからとりあえずフロアマップで位置を確認しないと…」


どちらもフロアの内容を知らない俺たちはとりあえず近くに設置してあるフロアマップを見て現在の位置と目的の場所の確認を行う。


「え~っとどこかしら…あっ、ここよここよ」

「おう、あったあった、ここだ」


どちらも目的の場所を発見した俺たちは、同時に声を出してその目的地の場所を指さす。


「本屋!」

「フードコート!」

「「えっ?」」


しかし、発言が異なってしまった俺たちは思わず声を上げて反応する。


「ちょっと待ちなさいよ、あなた私に本屋で参考書を買わせるためにここに連れてきたんでしょ」

「お前こそ待てよ、今何時だと思ってるんだよ。もう十二時回ってるんだからとりあえず腹ごしらえだろ」


お互いの意見が食い違ってしまった俺たちは、そのまま少しばかり口論となってしまう。


「ケンジって昔からそうだったけど、もっと人の意見に耳を傾けなさいよ。だから友達が一人もいないのよ」

「それとこれとは関係ないだろうが!俺の心をえぐってくるようなこと言ってくるんじゃねぇよ!」

「そういえば、なんでここに連れてきたあなたがここのフロアマップが頭に入ってないのよ!本屋さんの場所くらいわかるはずでしょ」


そのまま言い合いになったことで論点がずれてしまい、あゆみは突然核心を突く質問をしてくる。


「そ、それは…あれだよ、前の時はお母さんにここで参考書を買ってきてもらったんだよ」


ただただあゆみとデートがしたかったなんて言えない俺は、とりあえず苦し紛れの言い訳をすると、あゆみは小さくボソッとこうつぶやく。


「マザコン…」

「おいっ、ちょっと待て、聞き捨てならない単語を聞いたぞ!こんなことでマザコンなんて言われたら俺もう逃げ場なくなっちゃうよ!」


結局、このまま話していても埒が明かないので、俺はとりあえず妥協案を提示してみる。


「これだと話にならないから、ひとまず昼飯にさせて。そのあとに本屋にはちゃんと行くから」

「う~ん、そうね、時間も時間だし…分かったわよ、とりあえず昼ごはんにしましょ」

「よっしゃ、サンキューあゆみ!」


とりあえずあゆみの方が折れてくれたので、俺たちはそのままフードコートへ向かうことにする。


この流れは俺的には非常にいい状況だ。

このまま適当にあゆみと一緒にショッピングモールをぶらぶらできないかな~。


デート願望を持つ俺の誘導により、フードコートに到着すると俺は周りを見回しながら思わずこうつぶやいた。


「混んでるな~」

「それはそうでしょ、昼時なんだから」


土曜日の昼間、この言葉だけでフードコートが混んでいるというのは容易に想像できるらしい。

この時間帯は席が埋まり、たくさんの人が空いた席を取ろうと、血眼になって周りを見渡している。

家族、カップル、友達同士など、様々な人がこのフードコートに集まっていた。


「こんなに混んでるなんて俺知らないよ~」

「そうよね~知らないわよね~あなたボッチだし。人混みの多そうなフードコートなんて行ったことないわよね~」

「あ、なんか言ったか?」

「別に~」


ここで揉めても仕方がないため、とりあえずあゆみの発言は流すことにし、俺は開いた席を探そうとフードコート中を歩き回る。


「くそっ、空いてねぇな」


俺も周りと同じように、血眼になって開いた席を探していると、


「ケンジ~こっち空いたわよ~」


あゆみが一足先に開いた席を見つける。


「お前見つけるの早いな」


俺はあゆみのいるところまでそう言って駆け寄ると、


「とりあえず席は取れたから、ケンジ先にご飯買ってきなさいよ」


あゆみは俺に向かってそう言ってきた。


「えっ」


しかし、俺は少し戸惑ったような表情をしてしまう。


そう、あゆみの発言は一見当たり前かのようではある、あるのだが、にとっては多少驚きのある発言であったのだ。


「あぁ、そうか今俺一人じゃないから席を取ってもらうこともできるのか」


ほとんど出かけたこともなく、出かけたとしてもいつも一人であった俺にとって、ということは非常に新鮮なものであった。


「あゆみ、誰かと一緒に出掛けるていいもんだな!じゃ、俺飯買ってくるよ」


感動を覚えてしまった俺はそう言ってウキウキ気分で飯を買いに行く。


しかし、あゆみはそんな俺の後ろ姿をじっと見ながら、小さくボソッとこうつぶやいた。


「あんたある意味幸せ者よね…」


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