第8話 買い物という名のデート・・・①
あゆみと変な契約を交わしてしまった次の日の午前十一時ごろ、俺はこの町で一番大きな駅の前にあるベンチに座って、人を待っていた。
俺がいるこの駅は比較的大きく、結構な人がこの駅で待ち合わせをしており、今回は俺もそれらの一員というわけだ。
世間一般から見れば、駅前で人も待つという行為は普通なことであり、別に何とも思わないのだろうが、俺の場合は少し、いや大きく異なる。
現在、俺の心はとても高ぶっていた。
「うわ~、待ち合わせなんて初めてだよ。すこしテンション上がってしまうな」
友達と待ち合わせ、それはぼっちである俺にとって非常に夢のある行為。
そんな夢が、今叶い、俺は感慨にふけっている。
まぁそう思う反面、なんでこんなことで感動しなきゃならないんだと、あきれてしまう自分もいるのだが…
「おはよう~」
そして俺がそんなことを考えていると、座っている俺の上からそんなきれいな声が聞こえてくる。
「あ、あぁ、おは…」
俺はそう言いながら頭を上げ、目の前にいるその人を一目見る。
すると、
「は?」
俺は目の前に映るその光景に一瞬目を疑った。
「ん、どうかしたの?」
俺の変な反応に彼女はそんな返事をすると、俺は一瞬戸惑いの反応を見せる。
まぁ今まで学校でしか会ったことがなかったため、免疫がないのは当然なのだが、それにしても彼女の姿は、あまりにいつもと違いすぎた。
目が合って数秒経った後、俺は思わず彼女に向かって、こうつぶやく。
「やっぱり見た目はいいんだな、お前」
「は?」
待ち合わせというだけでテンションが上がってしまった俺だが、今回はただの待ち合わせではない。
俺の人生で初めての待ち合わせの相手は、ただの男子友達などではなく、同い年の女子であるあゆみなのだ。
嫌でもテンションが上がってくる。
そしてその上、今日のあゆみはいつも以上にかわいかった。
今日のあゆみの服装は当然学校の制服などではなく、上から白と黒のボーダーにクリーム色のミリタリーコート、そして白のロングスカートというファッション。
今の彼女は学校でかわいいと言われる姿の何倍もかわいかった。
「ねぇ見た目はってどういう意味?私、中身の方もとってもかわいいと思うんだけど!」
「中身がかわいい奴は前みたいなことにはならないんだよ。俺もお前もどちらも頭がおかしい存在なのさ」
「なにそれ、一緒にしないでくれる」
とりあえず俺たちはそんなしょうもないことを話し終えると、
「さぁさぁ、そんな話は置いといて、私たちの用事はここじゃないんだし、はやく電車に乗って移動しましょ」
「おいおい、ちょっと待てって」
あゆみはそう言って駅の改札へ行くよう話を進め、せかせかと歩き出したため、俺もそれについて行く。
正直、今まで駅どころかまともに出かけたりしてこなかった俺にとって、あゆみが先導してくれるのは、悲しい話だがありがたい。
そして俺たちは改札の前に到着すると、
「次の電車まであと数分らしいから、早く向かいましょ」
あゆみそう言ってすぐさま改札へと向かいながら、自分のカバンの中からなにやらカードのようなものを取りだした。
ましてやそれが、さぞ当たり前かのように…
「ちょっと待ったー!!」
そして俺はそんなあゆみのてきぱきした行動を差し置いて、あゆみを大声で呼び止める。
しかし癖のように歩いていたあゆみは、急な俺の呼び止めに思わずビクッとし、慌てて俺の方を振り向く。
「なによ、急いでるんだから早く行きましょうよ」
ここまでの流れは、当たり前のように感じているからなのか、あゆみは俺の行動に困惑してしまっているらしい。
しかし、俺にとってあゆみのそのテキパキした行動は当たり前ではないのだ。
俺は今持っている感情をしっかりとあゆみに伝えてやった。
「あの、俺、電車の乗り方知らないんだけど…」
「は…?」
俺の予想外の発言により、俺たちは券売機の方までUターンすることになった。
「なんであんたICカード持ってないのよ!」
「知らねーよそんなもん。そもそもいままで電車なんて乗ったことねーんだから!」
そして俺たちは俺の電車の経験のなさにより、券売機の前で多少揉める羽目になっている。
「いいから早く切符買いなさいよ!」
「だから突き放すなよ、だから俺は切符も買ったことなーんだから、どれをどう買えばいいのかなんて分かんねーんだよ」
「何よそれめんどくさいわね!え~っと、たしかショッピングモールがある駅が古泉駅だったはずだから、このボタンを押せばいいの!」
俺はあゆみに急かされながら誘導された通りにお金を入れ、ボタンを押す。
「はい、買ったら改札にいる駅員さんに切符を渡して!」
そして買った切符を持って改札に向かうと、あゆみの言う通り、改札にいる駅員にその切符を渡すと、駅員は改札鋏を取り出し切符に穴をあけて俺に手渡す。
「はい、あとは電車に乗るだけよ、分かった?」
「…はい」
改札を通った俺は、あまりの俺の経験の無さに恥ずかしくなってしまう。
「あ~あ、電車行っちゃったじゃないの。次のを待たなきゃ」
俺という存在による時間のロスにより、あゆみはゆっくりとため息をつく。
しかし俺は、残念ながら何も言うことは出来ない。
「なぁあゆみ」
「なによ?」
新しい経験をした俺は、思わずあゆみに気持ちを込めてこうつぶやいた。
「ICカードって便利だなぁ…」
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