第7話 契約成立・・・④
「やった!ありがとう」
俺の全く迷いのない、すがすがしい返事を聞いたあゆみは、嬉しそうにそう言いながら、
「じゃあさじゃあさ、たしかこの近くに本屋があったはずだから今からそこに行こうよ」
すぐさま俺にそんな提案をしてくる。
しかし俺はというと、あゆみのそんな提案を遮り、
「待ったあゆみ、俺に一つ提案がある、俺のお勧めする参考書がショッピングモールにあるからそこに行かないか?」
そんな提案を持ちかけてみた。
これにはもちろん俺の思惑が大きくかかわっている。
「へぇ~そうなんだ。ケンジのおすすめする参考書ならぜひ使ってみたいんだけど、ここからだと少し遠いから、今から行くとなると遅くなっちゃうな」
俺の提案から、あゆみはそんな返事を返すと、俺は待ってましたと言わんばかりに
「そ、そうだよな!じゃあさ、今週の土曜日にでも一緒に行かないか?」
前のめりになりながらそう言った。
実を言うと、ショッピングモールに俺のおすすめする参考書なんてものはない。
というか俺の使ってる参考書なんて、近くの本屋に行けば売っている。
実際俺の頭の中では、ただあゆみとデートをしてみたい、そんな欲望でいっぱいであった。
「あぁ、土曜なら私は予定ないし、全然いいよ」
あゆみはというと、俺の勢いに少しびっくりしながらも、俺の提案を快諾する。
この時点で俺はさりげなく二人で出かける用事を取り付けることに成功したのである。
正直、今の俺の頭の中には勉強というものは一切存在していない。
かわいい女の子とデートができるという煩悩でいっぱいであった。
そして俺は続けて、
「よーし、決定だ。それじゃあこれから連絡手段ないと困るから、連絡先教えてくれる?」
そう言って、ちゃっかり連絡先までも手に入れようと試みる。
自分から見ても、さっきまで勉強を教えることを拒んでいた奴が急に手のひらを返してあゆみにかかわりを持とうとするのは、さすがに若干の違和感でも抱いてもおかしくないのだが、
「そうだね、ちょっと待っててて……はい、これが私の連絡先」
あゆみはというと何の疑惑を持つことなく俺に連絡先のQRコードを見せてくる。
よ~し、同級生の連絡先初ゲット!
言うまでもないが、この時点で俺のテンションはマックスであった。
今まで彼女どころか友達もいなかった俺に一緒に出掛ける約束ができ、その上今まで親以外連絡先が入っていなかった俺のスマホに、男友達より先に女子の連絡先が新しく入ったのだ、テンションが上がらない方がおかしい。
自分からすると、あまりにうまくいきすぎてドッキリなのではないかと疑ってしまいそうだ。
「よし、じゃあ俺は今日のところは帰るから、また明日な。場所と時間はあとで連絡するよ」
やることをやった俺は、そう言って満足げに席を立つと、
「じゃあ私はここでちょっと勉強してから帰るわ」
あゆみはそう言って、カバンの中から勉強道具を取り出してきたため、俺たちはここで別れることになる。
ちなみに、あゆみのその言動から、おそらく勉強する習慣は身についているらしい。
それなのに、なぜテストでは点数がとれないのだろうか。
ある程度勉強すればまぁまぁな順位くらいは取れるだろうに。
俺はそんなことを思いながらファミレスを後にする。
ファミレスを出た俺は、大きく背伸びをし、これからの期待と不安の気持ちがどっとのしかかる。
今までぼっちのまま学校生活を送ってきた俺にとって、今日はいろいろありすぎた。
なんてったって今日、友達すらいなかった俺に彼女ができたのである。
何も感じない方がおかしいくらいだ。
まぁ、今のあゆみとの関係はいささか契約みたいなものなのだが…
「あ~あ、これから先どんなことになるのやら…」
今日は自分の欲望に走ってしまったが、今のあゆみとの関係上、これから面倒なことになるのは間違いないと確信した俺は、変な気持ちの中、帰路に就くことになるのだった。
あっ、あと俺、ドリンクバーの料金払ってないけど、まぁファミレスに連れてきたのはあゆみのほうだし、別におごりでいいよね!
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