第5話 契約成立・・・②


「ん?どういうことだ」


さすがに今の言葉だけでは理解できなかった俺は聞き返すようにそうつぶやく。


「ケンジは一回でも疑問に思わなかったの?なんで私が実家から通えないほどの距離にある、この高校を選んだのかって?」


まぁ確かに、俺と同じ中学の奴らと同じ高校に行きたくないからって理由で選んだこの高校に同級生のあゆみがいたのだ。

俺だって今まで一回も不思議に思わなかったわけではない。


「それは……俺と同じく、友達のいない同級生の奴らと同じ高校に通いたくなかったってことじゃ…」

「は?そんなわけないじゃない。ってか、ケンジがこの高校に来た理由ってそんなことだったの?」


あゆみがそう言った瞬間、俺の心に何か見えない鋭いものが突き刺さったかのような感じがした。


「おうおう、悪かったな。そんな理由でお前と同じ学校に行っちまって。俺にとっては重大な問題だったんですよ~だ!」


あゆみの言葉ですっかり不機嫌になってしまった俺は、もうどうでもいいかのようにそう言い返す。


「そんなことより早くお前がこの高校に来た理由を言えって。話が全然進まねぇじゃねぇかよ」


そして、このままだと話が終わらないような気がした俺は、もったいぶらずに早くわけを話すように急かす。

するとあゆみはゆっくり口を開くと、この高校に来た理由を簡潔に述べ始める。


「私がこの高校に来たのは、ここなら一人暮らしできるかなって思ったからよ」

「は?」


しかし、彼女の口から出てきた言葉は、ただ一人暮らしをしてみたかったからというシンプルかつ単純な理由のみ。

もっと深刻な理由があると踏んでいた俺は、思わずあっけにとられてしまう。



「はぁ、そんな理由かよ。それなら俺の理由の方がよっぽど深刻だよ」

「そんなじゃないわよ、そんなじゃ。それにお互いどっちもどっちよ」


なんかこう…中学の頃にいじめがあっただとか、親の転勤が重なって仕方なくだとかを予想していたのに…なんだそれは!

ちょっとでもあゆみのことを心配した俺がバカみたいだ。


「で、なんでその理由が勉強を教えてほしいっていうのにつながるんだよ」


まぁとりあえずそれはそれとして、結局それだけでは中間テストで十番以内に入らないといけない理由にはなっていない。

するとあゆみは、今まで黙っていた直接的な理由についても述べ始める。


「実は、私がお母さんに一人暮らしをするって言った時に、一人暮らしするなら高校の定期テストで十番以内の成績をとることが条件だって言われちゃって…」

「なるほど……」


今のあゆみの言葉で、少しだが納得してしまった俺は、ゆっくりと相槌をとって反応する。

しかし、完全に納得したわけではない。


「でもやっぱりお前の行動はおかしいぞ。彼女になってもいいって言うにはまだ理由が弱すぎる。それともなんだ?どうせ無理だと思えるくらい、お前が十番以内になることが絶望的だとでもいうのか?」


すると俺は、ちょっとした冗談のつもりでそう聞いてみるのだが、


「……う、うん……」


しばらくの沈黙の後にあゆみが出した返事は、俺としてはとても意外なものだった。


「……入学の時の実力テスト、何位だったんだ?」


試しに俺は、前回俺が二番を取った、実力テストの順位を聞いてみると、


「百番ちょい……」


と、あまりのにも予想外の答えが返ってくる。


「よっし、この話はおしまいっ!じゃあ、あゆみまた明日!」


あゆみの順位を聞いた俺は何かが吹っ切れてしまい、今回の話はなかったことにして、そのまま帰ろうと席を立つ。


「待って待って待って!お願い見捨てないでよ!」


するとあゆみは席を立とうとする俺の服を力強くつかみ始める。


「なんだよ離せって!結局最初から俺となんか付き合う気なんてなかったってことじゃねぇかよ。どうせ何やったってあと三週間でお前の順位を百番も上げることなんてできるわけねぇだろうが!」


俺はあゆみの手を振り払おうと全力で席を離れようとするのだが、あゆみの手は一向に俺の服から離れようとはしない。


「コイツ、思った以上の抵抗をしやがって!」

「ねぇ、お願い!ケンジから見たら軽い気持ちに見えるかもしれないけど、私、結構真剣なの!」

「分かった、分かったから、一回手を放せ!服が傷むからっ!」









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