第4話 契約成立・・・①
「えっ、マジで言ってるの?」
あゆみの発言に思わず大声を出してしまった俺は、とりあえずあゆみの真意を知ろうと、本当にそれでいいのかというニュアンスを込めながらそうつぶやく。
「いいわよ、別に付き合っても」
しかし、何度聞いてもあゆみの答えは変わらない。
「……なるほど」
気持ちを曲げないというのはいいことだと思うのだが、今回においては俺はこの後になんて返せばいいのか分からなくなってしまう。
自分で条件を突きつけておいてなんだが、俺としてはこんな返事は期待していない。
そんなの無理に決まってるじゃない!と、一発ビンタでもかまして、もう二度と俺に関わってこなければそれでいいのだ。
なんでこんなことになるのやら…
そして、結果俺は何も言い返せず、数十秒が経過したその時、
ガラガラッ…
俺たち以外一人もいない教室に、一人の男性が入ってくる。
「うるさいぞ、用事がないならさっさと帰れよ」
その声の持ち主は、たまたま通りかかったであろう社会の先生。
そう言って入ってきた先生は、俺の出した大声がうるさかったからなのか、少々不機嫌そうである。
「あっ、はいすいません…すぐ帰ります」
そして、そんな不機嫌な先生の発言に敏感に反応した俺たちは、とりあえず帰る準備をし、
「さ、さようなら~」
先生にそう言いながら、さっさと教室を出ることにする。
そして、ひとまず教室を出た俺たちは、そのまま廊下を二人で一緒に歩いていると、
「じゃあ…俺はこれで…」
これを逃げるチャンスだと感じた俺は、流れるようにそう言って、そそくさと帰ろうとする。
こういった場合は逃げるが勝ちなのだ。
しかし、
「何言ってるの~?まだ話は終わってないでしょ~」
「あはは、ですよね~」
あゆみはそんな逃げる俺の襟元をつかみ、ニッコリ笑顔でそんなことを言ってくる。
あゆみとしては、ここまできたからには話をなかったことにというわけにはいかないらしい。
「一人の女の子にあんなことを言わせたんだもの、もちろん最後まで付き合ってくれるわよね?」
「……はい」
もうこの時にはすでに、二人の立場は逆転していた。
「さぁ~、近くのファミレスで話の続きをしましょ~」
「ちょっと、あゆみさん、引っ張らないで。首が痛い、離して。ちゃんとついて行くからっ!」
そして、されるがままになってしまった俺は、そのままあゆみの言う通り、近くのファミレスに連れていかれるのだった。
「―――――いらっしゃいませ~、お好きな席へどうぞ~」
あゆみに襟元を掴まれた俺は、そのままの状態でファミレスへと連れてこられ、空いていたテーブル席に向かい合って座らされる。
「あの、ドリンクバー二つで」
そして、あゆみが慣れた感じでそう注文し、店員さんが席を離れると、俺たちの間に少々緊張感のある雰囲気が流れ込む。
「で、何が目的ですか?」
そんな空気の中、最初に発言したのは俺の方だった。
「言ったじゃない。ケンジには私がただ中間テストで十番以内になれるように自分に勉強を教えてほしいだけ」
先ほどと変わらず、そんなことをぬかすあゆみは俺にとって、ただの戸惑いの存在でしかない。
「えっ、本当にただそれだけの理由で俺と付き合ってくれるってこと?」
「だからそうだって言ってるじゃない」
その上、俺が提示した条件を当たり前のように受け入れる始末である。
俺が言うのもなんだが、この人は頭がおかしいのだろうか。
こんな条件、誰も受けるわけがないと思って提示したのに…
しかし、私はそこまで気にしないかのようにそう言ってくる彼女には、俺が直々に、彼女自身のためにも一言言ってやりたい。
そのため俺は力を込めて、こう彼女に言ってやった。
「あなたもっと自分を大切にしなさい!」
「あんたには言われたくないわよ!」
おっと、カウンターだ。
まぁ確かに、俺が言ったところで、説得力は皆無なのは間違いない。
というか、俺が一番そんなことを言ってはいけない存在だろう。
「まぁ、それはそうだが…でもたかが勉強のためにこんな自分を売るようなこと、普通しないぞ」
客観的に見たら、今までの俺とあゆみの行動はどちらもまともだといえるものではない。
さすがに日本だって勉強を教えてもらうためなら彼女になってもいいと思えるほどの学歴社会ではないはずだ。
「私だって自分で言っていることがおかしいって言うのは分かっているわよ。まぁ簡単に言うと、あなたの言っているたかが勉強っていうのが、私にとってはたかがじゃないってだけよ」
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