57.私のスキルが弱過ぎる
「馬鹿な!? スキルだと!? あり得ない! スキルは全て無効化されているハズだ!!」
しかし、コスモのスキルは【身体能力1.1倍(弱)】。
(弱)という記述があるのはその通りで、かなり弱い。
効果は1分間使用者の身体能力を1.1倍にし、その後1時間行動不能になるのが効果だ。
1時間行動不能になるまでが効果な為、いくら鍛えても副作用を消すことはできない。
そんなスキルだが、弱過ぎるあまり、魔族の技術力を持ってしても、検出が不可能だったようだ。
その為、無効にはできないという訳だ。
「まさか、俺達の力を跳ねのける程の力を持ったスキルだとでも言うのか!?」
その逆だろう。
あまりにも弱過ぎたのだ。
だが、今はこの弱さに感謝している。
「いっけえええええええええええええええええええ!!」
そしてこのスキルのまだ救いのある点は、現在の身体能力から1.1倍されるという所だろう。
そのおかげで、【剣聖】で上乗せされている身体能力から更に1.1倍ということだ。
問題はこれで決められなければ、死ぬということだろう。
「ぐぐ……ぐぐぐぐ……どうして……どうしてそこまで他人の為に必死になれる!」
「なにか勘違いしてるみたいだけど……私はただ、死にたくないだけだよ!!」
そうだ。
勝ち確定のようなものだからこそ、ここに来たのだ。
実際は違ったのだが。
そして、今こうして必死になっているのも、死ぬのが怖いからである。
「そうか……皆の為じゃなくて、自分の為……こんな奴に……こんな奴に……くっそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
魔王はコスモの力に押し負ける。
剣は吹っ飛ばされ、魔王自身は一直線に壁に吹っ飛ばされ体を強打。
その場に倒れ込むのであった。
「や、やった……!」
これで勝ちだ。
コスモはそう思ったが。
「ぐっ……」
コスモもその場に倒れてしまう。
これで1時間は行動が不能になってしまった。
魔王も動けないのが幸いではあったが、魔王が動けるようになったらいつ殺されてもおかしくはない状況である。
「お互い、動けないようだな」
「うん……」
「安心しろ、俺はもう自力では動けん」
本当かどうかは分からないが、魔王はその場に倒れ込んだままであった。
「魔王様」
「なんだ?」
「魔王様は戦いの前、私になんの為に生きているのか、訊きましたよね」
「訊いたな」
「私は、死ぬのが怖いから生きています。
楽しく生きたい、強大な力を持ち、皆の中心でいたい……他にも夢とは言えませんが、ちょっとした願望は持っています。
けど、結局、私は死ぬのが怖いんです。
死ぬのが怖いから、死というものを忘れたい、だから私は楽しく生きたいんです」
「死ぬのが怖いから、死を忘れる為に生きるか……はっはっはっは! 随分と変なことを言うね!」
「私の正直な気持ちです!」
「そうか」
「魔王様は死ぬのが怖くないんですか?」
「今死ぬのは怖い。死んだ後、死後の世界で一族になにを言われるか分からないからな」
「そうですか……」
「なんだその反応は? まさか、また死後の世界は存在しないとか言うんじゃないだろうな?」
「言っちゃ駄目ですか?」
「当たり前だ! そんなのつまらないではないか!
死んだら終わりだなんて、つまらないではないか!
私はもっと技術が発達するのを見届けたい!
だから死んだ後も死後の世界から、それを見届けるのだ!」
コスモは思わず軽く笑う。
「なにが可笑しい?」
「いや、魔王様の本当の夢を聞けて、なんだか嬉しく思っちゃいました」
「本当の夢だと?」
「技術が発達した世界を見てみたい。それが魔王様の夢なんですよね?
一族から受け継いだ計画の結果、技術が発達した世界が生まれれば、それは確かに魔王様の夢と一致するかもしれません。
けど、それは魔王様が生きている間には叶わない」
「だから……死後の世界から見届けてだな……」
「だったら! 魔王様が生きている間に実現しましょうよ!」
「は? 無理に決まっているだろう」
「どうしてそう言い切れるんですか?」
「恐竜を絶滅させてから、種をまき、その惑星で魔族が成長するまで、果てしない年月が掛かる。だから……」
「もし、未来のその惑星から来た人がいたとしたら?」
「……いる訳ないだろう」
「いるんですよ!」
魔王の計画を阻止しても、消えていなければだが……。
「ご存じの通り、ここに来るまで、スキル未使用で空間に穴を空けてやって来ました!
そして、それを行った人自身も未来から来たんです!
ですから、その人と魔王様が協力すれば、きっと今よりもずっとずっと! 技術が進化するハズです!」
「それでも限度があるだろう……」
「だったら! 不老不死になる方法を研究すればいいんです!
そうすれば、ずっとそれを見届けられます!
難しいとは思うけど、死後の世界よりはずっと現実的です!」
「はは……おかしなことを言うな。確かにそれは面白い。
だが、私はおそらくこれから殺されるのだろう?」
「殺しませんし、殺させませんよ!」
「大量絶滅計画を中止すれば……か?」
「もしやめないっていうなら、また勝ちますよ!
今度はもっと強い装備で来るんですからね!」
今度は魔王が軽く笑う。
「他力本願なんだな」
「どんな方法を使って強くなっても、私が強いことには変わりありません!」
「そうか……そうか! 分かった。計画は中止だ」
「え?」
「中止だと言ったのだ」
「私の説得が通じたの!?」
「最後の一押しは……あれだよ」
魔王が指を指すと、多くの魔族……ではなく人間、エルフ、ドワーフが集まっている。
一体どういうことだ。
「ってここ、地上!?」
と、驚いていると。
「成功だよん♪ いやぁ、向こうでスキルが発動できないんだったら、その地形ごと、こっち側に持って来られたらって思ってたんだけど……もう勝負は着いたみたいだねん♪」
「闘技場ごとワープさせるとはな……とんでもない奴がいたものだ」
魔王は呆れたように、だが、どこか嬉しそうに笑うのであった。
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