55.最終決戦日前日
その日、ヨシムラはコスモの家に泊まった。
それはそうだ、今の時点で外に出たら大変なことになる。
そして翌日、コスモ達は王都へ向かおうと、支度をしていた。
「準備できたん?」
ヨシムラが2人に確認する。
なんでも、今回はヨシムラがこちらに来たように空間に穴を空け、王都へと移動するとのことであった。
「本当に大丈夫なんですか……?」
「うん♪ 楽勝だよん♪ えっと、出口はここをこーしてっと!」
ヨシムラがなにやらすると、空間が裂けた。
「ささっ! 遠慮しないでねん♪」
「う……」
ヨシムラが手で、お先にどうぞの合図をしている。
「わ、私が先に行きます!」
ユリが異空間内に入っていった。
コスモも怖かったが、それに続いた。
「本当にこれ、大丈夫かなぁ……」
そう言いながら、後ろからヨシムラも続く。
「うわっ!」
気が付いたら、3人は異空間の出口に放り出された。
「無事到着だねん♪ 実験成功!」
「実験……?」
「いやいやいや! なんでもないよん♪」
(本当にこの人なんなんだ)
と、コスモが内心不審がっていると、目の前の国王が咳払いをした。
「これはどういうことかな?」
なんと、国王の部屋へと出てしまったようだ。
確かに、王都内だと騒ぎになってしまうが、これでは完全に不審人物だ。
「あのですね……」
コスモとユリは、事情を説明した。
すると、国王は納得したようで……。
「君がヨシムラ殿か」
「はい♪ ヨシムラです♪ 地球人でーす!」
「?」
ヨシムラの素性についてはあえて言わなかったコスモであったが、本人の口から語られる。
ただ、自分が消えるかについては話さなかった。
「な、なんと……信じられん」
「事実ですよん♪」
国王は信じられないと言うような顔をしていたが、先程空間に穴を空けた件などを話すと、納得したようだった。
「ということでん♪ 事情はコスモちゃん達から聞いてるからねん♪ 魔王の計画を阻止しに行くんでしょん♪」
そうだ。
魔王の計画を阻止する為に、魔王の元へと行くのだ。
「私も行く!」
突然部屋に入って来たのは、剣聖メアであった。
国王からは救世主と呼ばれていることもある。
血のつながりはないが、国王の次期後継者だ。
「メアちゃん!?」
「あっ! 君が噂の剣聖の真の持ち主ねん♪ ほうほう、可愛いのん♪」
ヨシムラはなめ回すように、メアを観察した。
「うんうん♪ いいね、やる気たっぷりで! でも……皆の話を聞く限りでは、あっちではスキルが発動できなかったんでしょ? 本当に大丈夫?」
ヨシムラの言う通り、壁の向こうでは、なぜだかスキルが発動できない。
つまり、最強スキル【剣聖】も意味をなさない。
「うっ……それは」
メアはヨシムラから目線を逸らした。
そんなメアの肩を、ヨシムラがポンと叩く。
「君はここに残っていて欲しいのん♪ そうすれば、スキルデザリングの効果で向こうでもスキルが発動できると思うからねん♪」
「なるほど」
コスモは頷いた。
確かに、直接スキルが発動できなくとも、ヨシムラのアイテム経由でならば発動が可能かもしれない。
「メアちゃん、そんなに心配しなくても、大丈夫だよん♪ コスモちゃんが1人でしっかりと、魔王を説得しに行ってくれるからねん♪」
「え!?」
1人……?
それも説得……?
倒すのではなく、説得……?
「私1人で行くんですか!?」
「そうだよん♪ 説得するには大勢で行くのは、まずいからねん♪」
「それに説得って……倒すんじゃ駄目なんですか!?」
「倒すって……殺すことでしょん? 駄目駄目♪ そんなことしたら、死に際になにしてくるか分からないよん? それに、命は大事にねん♪」
「そ、そんな……私1人で説得だなんて……」
コスモは、コミュニケーション能力も高くない。
その為、かなり不安なのだ。
「そこは安心してねん♪ 電話似たアイテム……うーんと、離れていても声が伝わるようなアイテムを開発したからねん♪ 説得は国王様がしてくれるよん♪」
「私がか!?」
確かに、説得という意味では、国王が適任だろう。
「というか、ヨシムラ殿……一応この場を指揮するのは私だと思うのだが……」
「あっ、ごめんねん♪ でも、これが一番いいでしょ?」
「うむ……」
実際、ヨシムラは自分達にない技術を持っている。
これがベストなのかもしれない。
「仕方がない……これを」
すると、メアがコスモに聖剣を渡そうとする。
「後でちゃんと返せよ」
「メアちゃん……ありがとう!」
自分が行けないので、コスモに想いを託そうという考えなのだろう。
コスモはありがたく、それを受取ろうと、聖剣に触れる。
バチッ!
「あいたっ!」
聖剣を持とうとした瞬間、コスモの手が弾かれた。
「どうした、英雄」
「いや、なんか持てないんだけど」
もう1度持とうとしたが、弾かれた。
それを見た国王が驚きながら、口を開く。
「聖剣が、コスモ殿を拒んだのだ……!」
「拒んだ?」
「うむ! 聖剣は本来であれば誰にでも装備が可能な、王族に伝わる武器だ。
だが、稀に適正が低過ぎる者や、又は聖剣が悪人だと判断した者に関しては、装備すること自体が不可能なのだ」
どちらに当てはまったのかは分からないが、なんとなく気まずい雰囲気が流れた。
「だったらこれを付けてみてよん♪」
ヨシムラが腕輪を渡して来た。
「これは?」
「いいからいいから♪ それ着けて聖剣を持ってみてよん♪」
コスモはその腕輪を付け、聖剣を握る。
「おお!」
なんと、弾かれなかった。
「なんと、これは……!」
国王も驚いていた。
しかし、なぜ弾かれなくなったのだろうか?
「驚いた? その装備は私の新作でねん♪ 適正がない武器を強引に装備できるようになる効果があるよん♪」
要するに、聖剣が拒んでいるのに、ヨシムラ製装備で強引に装備している状態のようだ。
「私から渡しておいてなんだけど、それなんかズルい……」
メアがムッとした表情で、ヨシムラを見てそう呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます