50.それぞれの生殖方法
☆
人間、エルフ、ドワーフ。
3つの種族は、耳の形や寿命以外、非常に似通った外見をしている種族である。
しかし、人間の場合は生殖方法に、他の2種族と大きな違いがある。
エルフ、ドワーフの生殖方法は女性の体内に、男性の遺伝子情報を与え、一定の確率と時間経過から出産へと辿り着く。
対して性別が1種類しかない為、人間の生殖は、全く違うもののとなる。
人間の場合は2組になるのは同じだが、体内から胃とは異なる器官を吐き出し、片方の人間がもう片方の人間を、それを用いて体内に納める。
その後、一定の期間を経ると、エルフやドワーフと同様の出産工程へと向かう。
そう、体内に納めたもう片方の肉体を再構築し、新たな赤子の人間を生み出す。
これが人間の生殖方法である。
なお、人間はエルフやドワーフの女性に酷似している為、3つの種族が共存している社会においては、女性として扱われている。
☆
コスモは正直に、ユリと死ぬまでいたいと、告白した。
それは即ち、子供は一生作らないという宣言でもあった。
「コスモさん……」
ユリは神妙な表情を浮かべると、すぐに優しく微笑んだ。
「そんなの……私も同じですよ。
確かにコスモさんとの子供も欲しいですが、それ以上に、私はコスモさんが好きなんです。
他の人間にはおかしいと思われるかもしれませんが、まだ生まれてもいない子供よりも、私が好きなのは、今目の前にいるコスモさんなんです。
好きな人とずっと一緒にいることが、私にとっての一番の幸せなんです!」
てっきり、失望されるかとも思っていた。
だが、ユリが返した答えは、コスモの考えを肯定するものであった。
「本当に、いいの?」
この選択は人間という種族にとって、悪い選択なのかもしれない。
コスモはそれでもいいが、ユリは後々後悔するかもしれない。
それが心配であった。
「いいに決まっているじゃないですか!
それに、メアさんも言っていたじゃないですか、死んだらそれで終わりだから、皆精一杯生きているんだって!
私もそう思います。
死後の世界……転生……色々な説がありますけど、結局は死んでしまったらそれで終わりだと思うんです。
生きている間になにかを生み出し、なにかを残せるって考えもあるかもしれません。
ですが、例えなにかを残したとしても、死後私達にそれを確認する術なんてありません」
ユリは、「ですから!」と続ける。
「私は、私にとっての幸せを死ぬまで味わいます! コスモさんと一緒に!」
ニコリと元気いっぱいに笑うユリ。
それに対し、肩の力を抜き、コスモも笑う。
「ありがとう……ユリ」
コスモとユリは抱きしめ合った。
ユリはコスモの頬にキスをした。
コスモもなんとなく、恥ずかしくなってしまった。
そしてその後……。
「ねぇ、ユリ」
「なんですか?」
現在は夕食後、コスモはユリと話をしている。
そこで1つ思ったことがあった。
「親の話で思い出したんだけど……ユリは仲直りする気はないの?」
「誰とですか?」
ユリを産む母体となった親……要するに母親にである。
「お母さんと」
「お母さんとですか……」
ユリは下を向いてしまった。
「仲直りって、どうやるんですか?」
「え? えーと……挨拶をするとか?」
「そう上手くいきますかね……」
「いやだって、こんなに賢くてかわいいユリを産んだんだよ? 話し合えばきっと仲直りできるよ!」
「いえ……」
「え?」
「私……拾われたんです」
コスモは、「しまった」と目を逸らした。
完全にユリとその母親を本当の親子だと、思っていた。
だが、違ったようだ。
「ごめんなさい」
「いいんです。私が言わなかったのが悪いんですし、それにコスモさんは私の為を想って言ってくれたんですよね? 分かっていますよ」
「それでも、ごめん」
コスモは下を向き、落ち込んでしまった。
それを見たユリは……。
「分かりました。明日仲直りしに行きます!
ただ、コスモさんも付いてきてください」
「いや、私が無理言ってごめん。ユリの気持ちを考えられなかった……。そもそも本当の親だとしても違う人間なのに……」
「無理じゃないですよ! むしろ私も仲直りしたいと思っていました!」
ユリは両手をグッとして、元気アピールをした。
仲直りしたいというのが本心かは分からないが、本当にいい子だ。
「分かったよ。明日行こうか! なんだか、魔王の所に行くより緊張しそう……」
「そうかもしれませんね。でも、私はコスモさんがいるから平気です!」
コスモは顔を上げた。
そう言われると、頑張るしかないだろう。
いや、そもそもここはコスモが持ち掛けたのだ。
責任を持って、フォローしようと思った。
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