50.それぞれの生殖方法



 人間、エルフ、ドワーフ。

 3つの種族は、耳の形や寿命以外、非常に似通った外見をしている種族である。



 しかし、人間の場合は生殖方法に、他の2種族と大きな違いがある。



 エルフ、ドワーフの生殖方法は女性の体内に、男性の遺伝子情報を与え、一定の確率と時間経過から出産へと辿り着く。



 対して性別が1種類しかない為、人間の生殖は、全く違うもののとなる。



 人間の場合は2組になるのは同じだが、体内から胃とは異なる器官を吐き出し、片方の人間がもう片方の人間を、それを用いて体内に納める。

 その後、一定の期間を経ると、エルフやドワーフと同様の出産工程へと向かう。



 そう、体内に納めたもう片方の肉体を再構築し、新たな赤子の人間を生み出す。

 これが人間の生殖方法である。



 なお、人間はエルフやドワーフの女性に酷似している為、3つの種族が共存している社会においては、女性として扱われている。




 コスモは正直に、ユリと死ぬまでいたいと、告白した。

 それは即ち、子供は一生作らないという宣言でもあった。


「コスモさん……」


 ユリは神妙な表情を浮かべると、すぐに優しく微笑んだ。


「そんなの……私も同じですよ。

確かにコスモさんとの子供も欲しいですが、それ以上に、私はコスモさんが好きなんです。

他の人間にはおかしいと思われるかもしれませんが、まだ生まれてもいない子供よりも、私が好きなのは、今目の前にいるコスモさんなんです。

好きな人とずっと一緒にいることが、私にとっての一番の幸せなんです!」


 てっきり、失望されるかとも思っていた。

 だが、ユリが返した答えは、コスモの考えを肯定するものであった。


「本当に、いいの?」


 この選択は人間という種族にとって、悪い選択なのかもしれない。

 コスモはそれでもいいが、ユリは後々後悔するかもしれない。


 それが心配であった。


「いいに決まっているじゃないですか!

それに、メアさんも言っていたじゃないですか、死んだらそれで終わりだから、皆精一杯生きているんだって!

私もそう思います。

死後の世界……転生……色々な説がありますけど、結局は死んでしまったらそれで終わりだと思うんです。

生きている間になにかを生み出し、なにかを残せるって考えもあるかもしれません。

ですが、例えなにかを残したとしても、死後私達にそれを確認する術なんてありません」


 ユリは、「ですから!」と続ける。


「私は、私にとっての幸せを死ぬまで味わいます! コスモさんと一緒に!」


 ニコリと元気いっぱいに笑うユリ。

 それに対し、肩の力を抜き、コスモも笑う。


「ありがとう……ユリ」


 コスモとユリは抱きしめ合った。


 ユリはコスモの頬にキスをした。

 コスモもなんとなく、恥ずかしくなってしまった。





 そしてその後……。


「ねぇ、ユリ」

「なんですか?」


 現在は夕食後、コスモはユリと話をしている。

 そこで1つ思ったことがあった。


「親の話で思い出したんだけど……ユリは仲直りする気はないの?」

「誰とですか?」


 ユリを産む母体となった親……要するに母親にである。


「お母さんと」

「お母さんとですか……」


 ユリは下を向いてしまった。


「仲直りって、どうやるんですか?」

「え? えーと……挨拶をするとか?」

「そう上手くいきますかね……」

「いやだって、こんなに賢くてかわいいユリを産んだんだよ? 話し合えばきっと仲直りできるよ!」

「いえ……」

「え?」

「私……拾われたんです」


 コスモは、「しまった」と目を逸らした。

 完全にユリとその母親を本当の親子だと、思っていた。


 だが、違ったようだ。


「ごめんなさい」

「いいんです。私が言わなかったのが悪いんですし、それにコスモさんは私の為を想って言ってくれたんですよね? 分かっていますよ」

「それでも、ごめん」


 コスモは下を向き、落ち込んでしまった。

 それを見たユリは……。


「分かりました。明日仲直りしに行きます!

ただ、コスモさんも付いてきてください」


「いや、私が無理言ってごめん。ユリの気持ちを考えられなかった……。そもそも本当の親だとしても違う人間なのに……」


「無理じゃないですよ! むしろ私も仲直りしたいと思っていました!」


 ユリは両手をグッとして、元気アピールをした。

 仲直りしたいというのが本心かは分からないが、本当にいい子だ。


「分かったよ。明日行こうか! なんだか、魔王の所に行くより緊張しそう……」

「そうかもしれませんね。でも、私はコスモさんがいるから平気です!」


 コスモは顔を上げた。

 そう言われると、頑張るしかないだろう。


 いや、そもそもここはコスモが持ち掛けたのだ。

 責任を持って、フォローしようと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る