51.ユリの育ての親
次の日、ユリの育ての親の元へと、2人は向かった。
ユリがスキル取得できなかったあの日、ユリは実家から追放された。
ユリは全く悪くない。
だが、コスモの提案とユリの決意から、仲直りをしよう、ということになったのだ。
「や、やっぱり緊張します……」
「国王様にはあんなにビシバシ言っていたのに、自分のこととなると緊張しちゃうんだね」
「だ、だってぇ……」
ユリの歩くスピードもいつもより遅い。
それ程までに緊張しているということだろう。
そして……。
「ここがユリの育った家か」
「そうです……緊張します」
ユリがノックをしようかと、手を上げるが、すぐに元に戻す。
そして、それを数回繰り返し、覚悟が決まったのかノックをする。
「はい……ってユリ!?」
「ひ、久しぶり」
驚くユリの親、そして、気まずそうにするユリ。
「なんで来たの? あなたのことは追い出したハズよ」
「うぅ……」
ユリは後ずさりした。
無理もない、あの時はコスモが止めなければ、ビンタされる所だったのだ。
「はぁ……とりあえず上がりなさい」
「え?」
ユリは困惑の表情を浮かべていた。
「剣聖さんも、上がりなさい」
(剣聖さん、か)
そう呼んでくれるのは、力を取り戻したことを知っているからなのかは分からないが、馬鹿にしているという感じでは無さそうだ。
「紅茶でいい?」
「あっ、はい」
ユリに代わり、コスモが答えた。
紅茶を人数分机に置くと、向かい側にユリの親が座る。
「で? なんで来たの?」
「……お母さんと、仲直りしに来た!」
「はぁ? 仲直り? なに言ってるの? 戻って来たいの?」
「いや! そう言う訳じゃないんだけど……」
「だったらどうして仲直りなんて?
そこの剣聖さんと仲良くしていた方が楽しいんじゃないの?」
「た、確かにコスモさんといるのは楽しいよ!
けど、私はお母さんと仲直りしたいの!
私をここまで育ててくれたんだもん……これからずっと仲直りできないだなんて……辛すぎるよ……」
ユリが泣きながら、言った。
すると、ユリの親も一瞬だけ驚き、言う。
「ごめんなさい」
「え……?」
「ごめんなさいって言ってるの。あの時、ユリを叩こうとして悪かったわね」
「あ、いいんだよそれは……あの時はまさかの事態でお母さんも精神的に不安定だったと思うし……こっちこそ、期待に応えられなくてごめん」
ユリとその親が、互いに頭を下げている。
「でも、それだけよ。追放を取り消すつもりはないわ。
1度追放しておいて、戻って来てとか、かっこ悪すぎるからね。
ユリも私の性格は知っているでしょう?」
「……お母さん」
「ふんっ! それ飲んだら、出て行って頂戴。私は私で楽しく生きてるから、そっちはそっちで勝手に幸せになってればいいのよ。勇者目指すのも、もう辞めたら?」
気まずい雰囲気だ。
コスモは紅茶を飲んで、その場をしのいでいた。
『私達、いる意味ないな』
魔剣がコスモの脳内に語り掛けた。
確かに、コスモは今の所なにもしていない。
コスモは紅茶を飲み終えてしまった。
ユリもだ。
「コスモさん、帰りましょう!」
「え? いいの?」
「はい!」
コスモとユリは、ユリの親の家をあとにした。
その帰路で、コスモとユリは先程のことについて話す。
「ごめん……私なにもできなかった」
「いえ! いてくれただけで、心強かったですよ! 仲直りもできましたしね!」
「え?」
仲直りができた……?
コスモ的には、まだまだ喧嘩中だと思っているのだが。
「はい! お母さんっていっつもああなんですよ!」
「そ、そうなの?」
確かにユリに対して、謝罪はしていたが……。
「それにしても……お母さん……やっぱりかっこいいなぁ!!!!」
「ええっ!?」
コスモは思わず叫んでしまった。
かっこいい? あれが?
ユリはユリで、明るい表情を浮かべているので、嘘では無さそうだ。
「失礼かもしれないけど、どの辺りが……?」
「決して自分の言葉を曲げない所です!
コスモさんがこんなに強いんですから、演技をしてでも、戻って来てって言った方がお金持ちになれますし、得なハズです!
なのに、お母さんは自分の信念を貫きました! かっこよすぎます!」
よく分からないが、仲直りできた、ということで良いのだろうか?
「ユリ、今日はなにか食べて帰ろう」
「はい!」
お金を確認しようとすると、スカートに手紙のようなものが挟まれていた。
コスモはユリにバレないように、こっそりそれを読む。
そして、そこにはこう書かれていた。
《ユリのこと、よろしくお願いします。 ユリ母》
なるほど、不器用な人みたいだ。
とは言っても、それはコスモが言えたことではないのだが。
「どうしたんですか?」
「いや、もっと頑張らないとってね!」
正直、少し話をしただけだ。
今の段階で、ユリの母親を悪い人だと断言はできないが、決して良い人だともコスモは思えなかった。
ただ、ユリのことを任されたからには、責任を持って守ろうと思うのであった。
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