49.ずっと一緒にいたいんです!

 人間は命を繋ぎ、ここまで生きてきた。

 コスモだってそうだ。

 誰かの命を犠牲にし、今ここに立っている。


「ユリ……」


 地元の街に2人が戻って来てから3日が経過した。

 今の所、指名手配されているヨシムラは見つかっていない。


「聞いておきたいことがある」


 コスモはユリを、呼び出した。

 とは言っても、自分達の家の一室なのだが。


 コスモはユリに、どうしても聞いておきたいことがあったのだ。

 魔王との決着の前に、こちらの決着もつけておかなくてはならない。


 そう考えたのだ。


 おそらくユリは、コスモのことが好きだ。


 最初はコスモも、自意識過剰なんじゃないかと思ったが、ユリの反応からして、自分に恋愛感情を抱いている可能性が高いという結論を出した。


 だが、結局はうやむやなままだ。

 その決着を今日つける。


「ユリはさ、私のことが好きなの?」

「……なにを今更言っているんですか! 好きに決まっているじゃないですか!」

「それは……恋愛感情的な意味で?」


 思い切って、ストレートに訊いた。

 コスモは、恋愛感情というものが分からない為、恥ずかしさはさほどない。


 ただ、もし、勘違いしていたら?

 というような恥ずかしさはあった。


 ユリの答えは……。


「え、えー!? えーとですねー……。えへへ」


 かなり動揺していた。

 成長したかのように見えたユリだったが、やはり良い意味で変わっていない。


 そして、コスモの問いに対して、そうじゃないとは言っていない。

 やはり、好きなのだろうか。


「ユリ、どうなの? いつものユリらしくない」

「だ、だって……振られたら怖いですし……」

「それは告白ってことでいいのかな?」

「う、ま、まぁ……そうですよ」


 ユリは思いきり息を吸い込んだ。


「私はコスモさんのことが人間的に好きです! けど! 恋愛感情的な意味でも、私はコスモさんが好きです!」


 照れながらも、ユリはコスモに思いきり叫んだ。


「良かった」

「な、なにがですか?」

「私の自意識過剰じゃなかったんだなって」


 一体、自分のどんな所を気に入ったのだろうか?

 コスモには、それが分からなかったのだ。


「ユリは私のどんな所が好きなの?」


「す、好きな所ですか!?

そんなの……私を守ってくれたからです。

そしてその後、パーティに誘ってくれたからです!」


「そ、それだけのことで……!?」


 確かにコスモはユリのことがほっとけなくて、ユリを助け、パーティに誘った。

 けど、それだけで恋愛感情を抱くものなのだろうか?


「それだけって……それだけじゃ駄目なんですか?」


「駄目じゃないけど……あれって力があるからああいう行動に移せた訳で……

あそこでハズレスキルをひいていたら、見て見ぬふりだったと思うよ?」


「でも結果的に、助けてくれたじゃないですか!」


 確かに結果論的にはそうだ。

 だが、コスモはそんなヒーローみたいな人間ではないのだ。


「後、実はそれだけじゃないんです。

ちょっと失礼な理由ですけど……その……」


 ユリは言いづらそうに、言う。


「ほっとけないんです。

最初に会った時は、完璧な人間だと思いました。

けど、そうじゃなかった。

コスモさんはとても人間らしい人でした。

どこにでもいるような、人間です。

けど、不器用で生きづらさを感じている。

そんなコスモさんを見て、ほっとけないと思ったんです。

って……失礼過ぎですよね」


 同じ理由だ。

 恋愛的な意味を含むか含まないかの違いだけで、同じ理由だ。


「全然失礼じゃないよ。

それに、私だって思ってるんだ。ユリのことをほっとけないってね。

確かに、パーティに誘ったのは、ユリがとんでもない力を秘めているからって理由もあったんだけど、なんだかユリってあんまり強そうに見えなかったから……って私も失礼だね」


 ユリは軽く、首を横に振る。


「いえ……そんなことはないです。私は弱いです。国王様にあんな発言ができたのも、なにかあったらコスモさんが守ってくれるって信じていたからです」


「ふふっ……互いが互いを助け合ってるってことなんだね」


 ユリが気持ちをぶつけて来たのだ。

 こちらも正直に言おう。


「ユリ、私ね、恋愛感情ってものがよく分からないの」

「え……?」


「けどね……ユリとはずっと一緒にいたいと思ってる。

だからさ、ユリが私に恋愛というものを教えてくれないかな?

って……かっこつけ過ぎだね」


 少々かっこつけ過ぎてしまった。

 恥ずかしくて、コスモの顔がほんのり赤くなる。


「駄目かな……? 告白の返事的にはOK的な意味なんだけど……うん」


 恋愛感情を持っていないのに、付き合おうというのもおかしな話だ。

 けど、ずっと一緒にいたいのも、コスモの本心だ。


 すると、ユリが表情を明るくさせる。


「いいに決まってるじゃないですか! むしろ、こちらこそ、よろしくお願いいたします!」


 ユリはコスモを否定しなかった。


「本当にいいの……?」

「勿論ですよ!! 良かったです……本当に良かったです。これからはずっと一緒です!」


 嬉し泣きだろう。

 ユリは流した涙を袖で拭う。


 ずっと一緒……その言葉で、コスモは思い出した。

 そう、大事なことを確認しておきたかった。


「私はユリとずっと一緒にいたいと思っている」

「えへへ、嬉しいです」

「だからさ……」


 人としてどうなのか?

 そう思われるかもしれないが、今確認しないといけない気がした。


「だからさ……その……子供は……作りたくないんだ……

そういう表現じゃなくて文字通り……私は……私は死ぬまでユリと一緒にいたいから!!」









 人間はエルフやドワーフとは違う。


 エルフやドワーフには、2つの性が存在する。


 当然、体の内部構造も違う。


 その為、命を犠牲にしない生殖行為が可能だ。


 だが、人間にとっての生殖は、どちらかが犠牲にならなくてはならない。


 子供を作るという行為は、コスモとユリの別れを意味していた。

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