41.救出されたユリ

 コスモとユリは、帰宅していた。


「ぐぬぬ!」


 今コスモがなにをしているかというと、ユリの手足を縛っているロープをほどこうとしている所だ。

 本来であれば、包丁かなにかで切ってしまえばいいのだが、斬れない呪いは継続中の為、手でほどこうとしているのだが、中々ほどけない。


 もう1時間は格闘している。


『だったら私のスキルを使うといい』

「スキル? 回復の?」

『ああ。私の回復スキルは他とは違い、元の形に戻すという原理で行われているからな』


 だから、闘技場があんなに綺麗になったという訳か。

 素材の状態まで戻らなかったのは、魔剣にとっても綺麗な闘技場が元の形だと認識しているからだろうか?


『普通に使えば基本は他の回復スキルなどと同じだ。だが、集中すれば、その“元の形”をある程度コントロールすることが可能だ』

「つまり、ほどく前の状態をロープの“元の形”とすれば……回復させることができるんだね!?」


『その通りだ。もっとも、物理的なものだから可能なわけだがな』

「……いや、だったらさ」


 もう少し早く言って欲しかったと、コスモは思った。

 だが、今回色々と助けてもらったので、それは口には出さなかった。


『?』

「いや、ありがとう。じゃあお願い!」


『ああ。だが、このように体に密着している場合、コントロールは難しいんだ。あくまで、ロープにだけスキルを使う必要があるからな。大体1時間くらいかかる』


 ということで、待ち時間の間、コスモは今回どうやって力を取り戻したのかを、ユリに話した。


「なるほど、実際にメアさんから【剣聖】を返して貰ったんじゃなく、メアさんのスキルを使わせてもらっているような形になったんですね! これなら誰も損しないですね! 一体ヨシムラさんは、どんな技術を……」


 少し考える表情をした後、ユリは「あっ!」と、なにかを思いついたようで。


「もしかすると、アオリンの配信と似たような感じかもしれませんね」


 アオリンとは、SRランク冒険者アオリのことだ。

 スキルにより、アイテム【アオリン☆ミラー】を生成し、それをファンに売り、遠くの人達に自身の姿を届けている。

 この行為を、アオリは配信と名付けていた。


 確かに、少し似ているかもしれない。


「そうかもしれないね。本当、今回に関しては、ヨシムラさんには感謝しかないよ。こんな便利なアクセサリーをタダでくれたんだから!」


 少しズルいかもしれないが、目の悪い人にとって必要なのが眼鏡であるように、今のコスモにとってはこれが必要なのだ。

 もっとも、眼鏡と違ってなくても生きていくことは可能だろう。

 だが、コスモはこの力を求めている。

 誰かを応援するのではなく、この力で皆の中心にいたいのだ。

 応援される側になりたいのだ。


「それにしても、今回もタダでくれたんですね……少し引っかかります。もしかして……」


 ユリは、なにかを考えている。


「ヨシムラさんは、どうやって【剣聖】の情報を解析したのでしょうか?

【剣聖】と繋げるアクセサリーを作れたってことは、余程そのスキルを研究する必要があったハズです。

私達がヨシムラさんのアトリエにいたのは少しのハズです。

あの時の戦闘だけでは、明らかに情報量が足りな過ぎます……」


 ユリは、なにを不安そうな表情をしているのだろうか?


「情報料……」

「情報料?」

「はい。もしかしますと、私達が貰った装備には、私達の身体を解析できるなにかが仕込まれていた可能性があるかもしれません……」


 だから、タダだったという訳か。

 確かに、コスモが身に着けている特殊な布製の装備も、ヨシムラから貰ったものだ。


「けど、今回はそのおかげで、私達は助かった……」

「そうですね……」


 ヨシムラの真の目的がなにか。

 今のコスモには、それは分からない。

 だが言えることは……。


「今の所は、味方ってことだよね」

「はい。確かに最初は襲い掛かって来ましたが、今回は助けられましたね。

本当、ビックリしましたよ。空を飛ぶんですから!

空を飛ぶ装備なんて、初めて見ましたよ!」


 銀色のチョーカーのボタンを押すだけで、銀色の翼が展開される。

 更にもう1度ボタンを押すと、収納される。

 非常に便利な装備であった。


「後、その剣にもなにか付けたんですか?」

「え? なにも付けてないけど……」

「え!? 回復したり修復したりって、装備の力じゃないんですか!?」

「そうだ。言ってなかったね。実は魔剣さんが復活して……」


 コスモはユリに魔剣のことも話した。


「ってことはスキル内臓の武器ってことですか!? というか、復活しちゃったんですか!?」

「うん。でも、もう呪いの力には打ち勝ったみたいだったから。まだ完全には復活できてないみたいだけど」

「そうだったんですね……。でも安心しました」


「なにが?」

「独り言じゃなくて、魔剣さんと話をしていたんだって、分かって安心しました」


 確かにコスモ以外には聞こえない。

 外で魔剣と話していると、幻覚が見えているか、幻聴が聴こえていると思われるだろう。


「ごめん、心配させて」

『だったら、心の中で会話をするといい』

「できるの?」


 試しにやってみた所、無事に心の中での会話が可能だった。


『なんで言わなかったの?』

『君が聞かなかったからだ。声に出して、私と話をしたいのかと思っていた』

(なるほど)


 ちなみに、魔剣に話しかける意思がなければ、心の声は魔剣には届かないようだ。


 そしてその後、時間が経過。

 無事にロープをほどくことが、できた。


 その後、ゆっくりと休み、明日王都へ行く為の準備を整えた。


「前みたいに何日もかけて行く必要は、なくなった!」


 そう、昨日ユリと話し合い、メタルウイングで飛んで行こうという話になった。

 ユリを背中に背負うのは危ないので、お姫様抱っこだ。


「酔わない? 私は【剣聖】があるから大丈夫だけど」

「私も多分大丈夫ですよ! もし駄目だったらすぐに言います! じゃあ、出発しましょう!」


 準備が完了した。


『“王都”へと向けて、出発だ。後、いくらユリが酔わないと言っていようとも、スピードは加減した方がいい、“嘔吐”してしまうからな』


「よし、出発だ!」


 コスモはそう言うと、メタルウイングを展開し、王都へと飛び立つのであった。

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