35.訪問者
少し経つと、ユリが目を覚ました。
コスモが迷惑をかけなかったか訊くが、迷惑ではなかったという。
「お邪魔するわ!」
少し経つと、とある人物がドアを開けて、コスモ達に向けて挨拶をした。
「久しぶりね! 元気にしてた?」
「お、おっ……!?」
立っていたコスモはその人物の姿を見ると、驚いた。
驚きと焦りで腰が抜け、壁に背中と頭をぶつけ、床に座り込んでしまった。
コスモの体は恐怖で震えている。
もしも、また気が変わって、殺そうとしてきたら?
(殺される殺される殺される殺される殺される殺される死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ)
ユリはクロスに挨拶をすると、その後コスモを見て、「はっ!」とする。
そして、ユリはクロスに言う。
「ごめんなさい。コスモさんが怖がっています。帰ってくれますか?」
ユリの言葉で、コスモは1人首を振る。
このままでは、駄目だと。
またユリに迷惑をかけてしまう。
コスモは壁を支えにして、立ち上がる。
「別に怖がってないけど? クロス、久しぶりだね。さ、座って?」
3人は椅子に座る。
コスモの隣にはユリが座り、クロスと向き合う形だ。
ユリは机の下で、震えているコスモの手を握っている。
「半年ぶりだね。なにしに来たの? 今の私を倒しても、最強には繋がらないんじゃないの?」
クロスは最強であるコスモを何度も倒し、頂点に立ち続けると、半年前に言っていた。
だが、今のコスモはただの店員だ。
弱い者いじめにしかならないだろう。
「流石に今のあんたに戦いは挑まないわよ。事情は全部知ってるわ。細かい事情も、国王様から直接聞いたしね」
「じゃあ、なんで来たの?」
「来ちゃ悪い? あんたと話がしたくてね」
「話?」
「そうよ。どうしても訊いておきたいことがあってね。
コスモ、あんた、本当に【剣聖】を手放しちゃって良かったの?」
コスモだって、本当は手放したくなんて、なかった。
だが、あれは本来はメアのものだ。
そのまま持っている訳には、いかなかったのだ。
「あれは、私のスキルじゃないからね」
「コスモは真面目ね! 私だったら絶対返さないんだから!」
「いや、それ泥棒だし……悪いことすると、駄目だし……」
「はぁ……本当に真面目ね。やばくなったら、その時に形だけ謝って返しときゃいいのよ」
「それに」と、クロスは続ける。
「まだ、剣は捨てきれてないみたいだしね。未練あるんでしょ?」
「剣……?」
クロスの視線は、ベッドに通じていた。
そのベッドには、魔剣が立てかけてあった。
「そうよ。まだ、納得してないんでしょ? だから捨てられないんじゃないの?」
「ああ……あれは、捨てられないね。文字通り」
「文字通り?」
「うん。あの剣、捨てても戻って来るから」
あの魔剣は、例え捨てようとも戻って来る。
ただ、もう使わないので、オブジェと化している。
出掛ける時は、置いて行こうとしても、腰についてくるので、中々に邪魔である。
どちらにしろ、その辺に捨てられるようなものでもないので、今更捨てる勇気もないのだが。
(そういえば……)
【剣聖】が無ければ、装備したものは死んでしまうらしいが、今も異常はない。
スキルを返して、しばらく経ってそのことを思い出したコスモは、恐怖で震えたのを思い出す。
理由は不明だが、実際は死ななかった。
しかし、相変わらず斬れない呪いは継続中な為、包丁で野菜も切れず、中々に不便だ。
「戻って来るだなんて、変な剣ね。どこで買ったの?」
「拾った」
嘘ではない。
「そうだったの? へぇ、なんか見た目悪そうなのに捨てられるのが怖いだなんて、かわいいわね」
「かわいいかな?」
クロスは立ち上がる。
「とにかく、なんか困ったことがあったら、遠慮なく言いなさいね? それと、私まだ剣聖コスモを倒すの、諦めて無いから。じゃあ」
そう言うと、コスモはドアを開けて、出て行った。
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