34.このスキルは……

「心して聞いてください。あなたのスキルは……【身体能力1.1倍(弱)】です」

「え?」


 コスモは首を傾げた。

 (弱)とは、なんだろうか?

 そもそも、身体能力1.1倍とは、ハズレスキルの1つだったハズだ。


「はは……」


 コスモの口から、乾いた笑いが飛び出した。

 まさか、本当にハズレスキルが来るとは思っていなかったのだ。


 せめて、“微妙”レベルのスキルだと思っていたのに……。

 身体能力が少し上がったからどうなるというのだろうか?


「そうですよね……こんなものですよね……」


 凹んでいるコスモに、神官が言う。


「でも、(弱)なんて聞いたことがありません! もしかすると、なにか特別かもしれませんよ!」

「そう、ですね……ありがとうございました……」


 (弱)なんて書いてあるのだ。

 おそらく、特別なのだろう。


(どんな風に特別なんだろうね……)


 コスモはこのスキルに対し、更なる不安を抱いた。

 身体能力1.1倍であれば、重い物を運ぶ際に役に立ったかもしれない。

 だが、(弱)だ。

 嫌な予感がする。


「ただいま」


 コスモは帰宅する。

 凹んだままだとユリに心配されるので、コスモはあえて涼しい顔をしていた。


「おかえりなさい! ケガとかしませんでしたか?」

「大丈夫だよ。スキルも無事に解放できたしね」

「凄いですね! 偉いです!」

「ふふ、そんなに褒めなくても大丈夫だよ」


 コスモはユリに言って、スキルの実験をしたいと言う。

 スキルは物によっては、1度発動しないと詳細情報が脳に流れて来ない場合がある。

 今回コスモが取得したスキルはそちらのタイプのようで、実際に発動してみないと、(弱)の意味が分からない。


「これから毎日頼っちゃいますね! 重い物とか持ってもらっちゃいますね?」


 ニコニコのユリ。


(なんだか、気をつかわせてるみたいで、申し訳ないね)


 コスモは早速スキルを使用する。

 一体、どのような効果が……?


「おお! なんだか、少し体が軽いよ!」


 なんとなく、そんな気がする。

 1.1倍なので、その程度なのだろうが、無いよりは良かった。


 だが、問題は1分後であった。


「あれ?」


 コスモの体中の力が抜けた。

 指一本すら動かせない。

 そのまま床に倒れ込んだ。


「コスモさん!? 大丈夫ですか!?」

「大丈夫。首から上は動かせるから」


 コスモの脳内にスキルの情報が流れ込む。


「どうやら、スキルの効果らしいね」


【身体能力1.1倍(弱)】。

 効果は1分間使用者の身体能力を1.1倍にし、その後1時間行動不能になる、とのことであった。


 コスモはこれをユリに伝えた。

 するとユリはコスモをお姫様抱っこし、ベッドに寝かせた。


「ちょっと使いにくいスキルでしたね……あ、でも、前例がないってことは確かユニークスキルって奴ですよね!!」

「そうだね」


 前例のないスキルは確かにユニークスキルとも呼ばれている。

 だが、こんな欠点を持つスキル、ユニークだろうと嬉しくない。

 コスモはまた1つ、自分が嫌いになった。


(おまけに鍛えても意味ないしね)


 本来、スキルを使った際の副作用は、鍛えることで、ある程度抑えることが可能だ。

 しかし、このスキルの場合は副作用も含めての効果なので、どれだけ鍛えても副作用を消すことはできないのだ。

 1分間しか使えなく、更には1時間も行動が不能になる。

 まさに、(弱)が付くに相応しい、ふざけたスキルであった。

 おまけに、行動不能になっている間も眠るか気を失わない限り、意識はハッキリしているので、死ぬ間際に使って眠ったように死ぬことも不可能だ。


「あっ! そうです! たしか、弱いスキルって感知系のスキルでも、感知されにくいって聞いたことがあります!」

「弱いスキル……」

「いや! 悪口で言ったんじゃないですよ! 結局、弱くても強いってことです!」

(ユリ……相当無理してるね)


 ユリは恐らく無理して明るく振舞ってくれているのだろう。


「ユリ、もういいんだよ」

「え?」

「私はもう、前までの私じゃないからさ、無理して励まさなくても大丈夫だよ。それに、別に使わなければ問題ないことだしさ」


 それに、これはおそらく、自分が受け継べき罰なのだろう。

 コスモはそう、感じていた。


(絵本……か)


 コスモは、ユリが紹介してくれた絵本を思い出した。

 絵本の登場人物に当てはめたら、主人公はメア。

 そして、悪者はコスモ。


 確かに、最終的に【剣聖】は返した。

 だが、一度は本来の持ち主に返すのを拒否して、逃げてしまった。

 一度は、メアに対して、過ちを犯してしまったのだ。


「遅かったのかな……?」

「コスモさん?」

「私……泥棒したもの……返すのが……遅かったのかなぁ……」


 最近、マイナス思考だ。

 そして、よく泣いてしまう。

 本当は、泣きたくないのに。


「はっ!」


 コスモは目を覚ます。

 眠ってしまっていたようだ。

 横には、スヤスヤと眠っているユリがいた。


(またなんか色々迷惑かけちゃったのかな?)


 泣き始めた所から、記憶がない。

 だが、おそらくユリに迷惑をかけたのだろう。

 コスモは、そう考えていた。

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