第3章

33.メンタルが不調である

『おい、あの時はよくもやってくれたなぁ!!』


 コスモの目の前には、人間がいた。

 【剣聖】を取得した日に戦った人だ。


『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


 そして、大量のドラゴンが飛んで来る。

 更に、大勢のモンスターも集まって来た。


 皆が、コスモに殺意を向けているかのようだ。



「はあっ、ぐっ……!!」


 コスモは体をビクッと震わせながら、目を覚ました。

 心臓がバクバクしているのが分かる。


「夢か……」


 まただ。

 コスモは、スキル【剣聖】を持ち主に返してから、定期的に殺されかける、あるいは殺される夢を見るようになっていた。


【剣聖】は最強のスキルだった。

 あのスキルを持っていた時は、強大な力を持った影響か、心にも余裕があった。

 それに、戦いも一方的だった。


 だが、今はそんな力もない。

 そのスキルは、本来の持ち主に返してしまったからだ。


 なぜこんな夢を見るようになってしまったのか?

 コスモは、恐怖しているのだ。

 今まで自分が戦った相手が、復讐しに来るのではないのか、と。


 今のコスモが【剣聖】を持っていないということは、既にほとんどの人が知っている事実だ。

 それを知った者が、復讐として、弱体化した自分を殺しに来るのではないか?

 そう考えると、怖くて怖くて、仕方がないのだ。

 今も誰かに狙われているような気がしないでもない。


(本当、私も心配し過ぎだね)


 この前なんかは、恐怖のあまり、モンスターが襲って来る幻覚を見てしまった。

 叫びながら腰を抜かしたので、ユリを心配させてしまった。

 それもあり、もう心配はやめようと、コスモは思っているのだが、体が言うことを聞いてくれないのである。


「とりあえず、朝食食べに行こう」


 今日もユリが朝食を作る為、早起きしている。

 コスモは部屋を出て、ユリの元へと行く。


「おはよう! おお! 相変わらず美味しそうだね!」

「おはようございます! って大丈夫ですか!?」

「え?」


 無自覚だった。

 ユリがハンカチで涙を拭い取ってくれて、初めて気が付いた。


「また、怖い夢を見たんですね? 大丈夫ですよ、私はここにいますからね」


 コスモは思わず前かがみになり、自分より身長の低いユリよりも、低姿勢になる。

 すると、ユリは「よしよし」と言いながら抱きしめ、コスモの頭を撫でた。


 怖い夢を見た際などは、ユリがこうしてくれる。

 そのせいか、無意識に姿勢を低くしてしまう。


「そんなことしなくても大丈夫だよ。私の方が年上だし、それにユリを守るのは私の役目だからね。まったく、相変わらずユリは心配性なんだから」


 と、口では言っているが、非常に助かっている。

 結局、5分くらいだろうか? 涙が止まるまで、コスモはユリの胸で涙を流し続けていたのであった。


(半年前までは、私が守ってあげてたのになぁ)


 あの時のコスモは、本当に負けなしだった。

 化物と言われる程の強さを持つ、SRランク冒険者相手にも一方的に勝利できたくらいだ。


(強力スキルがあればなぁ……)


 朝食のパンを食べながら、考えていた。


(スキル……か)


 コスモのスキルは【剣聖】でなかったのだ。

 とすれば、教会に行けば、コスモの真のスキルを解放してもらえるだろう。


(怖いね)


 コスモは怖かった。

 今度こそ、ハズレスキルだったらどうする?


 【剣聖】とまで行かないにしても、強力スキルが欲しいものだ。

 いや、いっそ戦闘用のスキルでなくてもいいかもしれない。

 何か、自分の自信に繋がるスキルを身に着けられれば、過ぎ去った過去に引きずられずにいられるかもしれない。


 だが、ハズレスキルだったら……?


 更に自信を無くしてしまうかもしれない。


 けど、逃げてばかりでは駄目だ。


 チャンスがあるのならば、駄目元で試さなくては、どうするというのだ。


「ユリ、今日は教会に行こうと思う」

「え?」

「教会に行って、私のスキルを解放して来る」


 ユリは、心配そうな表情を浮かべる。


「行くんですか!?」

「うん。逃げてちゃ駄目だと、思ってね。気が変わらない内に行って来るよ」


 コスモは朝食を口に詰め込むと、サムズアップをユリに向ける。


「行って来る!」

「ちょっ! ちゃんと飲み込んでからにしてくださいよ! というか、1人で大丈夫なんですか?」

「いやいや、流石に大丈夫だよ」

「本当ですか? この前外行った時だって、強そうなドワーフさんと目が合っただけなのに、『あ……あ……駄目だ……』って言いながら、知らない人の家に隠れちゃったじゃないですか。探すの大変だったんですよ?」

「何日前のことを言ってるのかな?」


 コスモは「ふふっ」と笑った。


(最初に会った時に比べて、ユリは本当に成長したね。私も嬉しいよ)


 コスモは、ユリの成長を喜んだ。


「じゃあ、行って来るよ!」


 結局、1人で教会まで向かった。


「神官さん、よろしくお願いいたします」

「分かりました。では、スキルのロックを解除しますね。同じ人を2回だなんて、なんだか不思議な気分です」

「今度こそ、私の本当のスキルが分かりますよ!」


 そして、スキル解除の儀式が行われた。


「こ、このスキルは……!?」


 コスモはまだ分からない。

 だが、神官が驚いている。


 もしや、【剣聖】だとでも言うのだろうか?


「確かに同じようなスキルは見たことありますが……このような名称は初めてです……!! これは一体……!?」


 先程から驚いている神官。


(反応からして、【剣聖】じゃないみたいだけど、なんだか凄そうだ!)


 神官は落ち着きを取り戻すと、スキル名をコスモに言う為に、口を開いた。

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