第3章
33.メンタルが不調である
『おい、あの時はよくもやってくれたなぁ!!』
コスモの目の前には、人間がいた。
【剣聖】を取得した日に戦った人だ。
『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
そして、大量のドラゴンが飛んで来る。
更に、大勢のモンスターも集まって来た。
皆が、コスモに殺意を向けているかのようだ。
☆
「はあっ、ぐっ……!!」
コスモは体をビクッと震わせながら、目を覚ました。
心臓がバクバクしているのが分かる。
「夢か……」
まただ。
コスモは、スキル【剣聖】を持ち主に返してから、定期的に殺されかける、あるいは殺される夢を見るようになっていた。
【剣聖】は最強のスキルだった。
あのスキルを持っていた時は、強大な力を持った影響か、心にも余裕があった。
それに、戦いも一方的だった。
だが、今はそんな力もない。
そのスキルは、本来の持ち主に返してしまったからだ。
なぜこんな夢を見るようになってしまったのか?
コスモは、恐怖しているのだ。
今まで自分が戦った相手が、復讐しに来るのではないのか、と。
今のコスモが【剣聖】を持っていないということは、既にほとんどの人が知っている事実だ。
それを知った者が、復讐として、弱体化した自分を殺しに来るのではないか?
そう考えると、怖くて怖くて、仕方がないのだ。
今も誰かに狙われているような気がしないでもない。
(本当、私も心配し過ぎだね)
この前なんかは、恐怖のあまり、モンスターが襲って来る幻覚を見てしまった。
叫びながら腰を抜かしたので、ユリを心配させてしまった。
それもあり、もう心配はやめようと、コスモは思っているのだが、体が言うことを聞いてくれないのである。
「とりあえず、朝食食べに行こう」
今日もユリが朝食を作る為、早起きしている。
コスモは部屋を出て、ユリの元へと行く。
「おはよう! おお! 相変わらず美味しそうだね!」
「おはようございます! って大丈夫ですか!?」
「え?」
無自覚だった。
ユリがハンカチで涙を拭い取ってくれて、初めて気が付いた。
「また、怖い夢を見たんですね? 大丈夫ですよ、私はここにいますからね」
コスモは思わず前かがみになり、自分より身長の低いユリよりも、低姿勢になる。
すると、ユリは「よしよし」と言いながら抱きしめ、コスモの頭を撫でた。
怖い夢を見た際などは、ユリがこうしてくれる。
そのせいか、無意識に姿勢を低くしてしまう。
「そんなことしなくても大丈夫だよ。私の方が年上だし、それにユリを守るのは私の役目だからね。まったく、相変わらずユリは心配性なんだから」
と、口では言っているが、非常に助かっている。
結局、5分くらいだろうか? 涙が止まるまで、コスモはユリの胸で涙を流し続けていたのであった。
(半年前までは、私が守ってあげてたのになぁ)
あの時のコスモは、本当に負けなしだった。
化物と言われる程の強さを持つ、SRランク冒険者相手にも一方的に勝利できたくらいだ。
(強力スキルがあればなぁ……)
朝食のパンを食べながら、考えていた。
(スキル……か)
コスモのスキルは【剣聖】でなかったのだ。
とすれば、教会に行けば、コスモの真のスキルを解放してもらえるだろう。
(怖いね)
コスモは怖かった。
今度こそ、ハズレスキルだったらどうする?
【剣聖】とまで行かないにしても、強力スキルが欲しいものだ。
いや、いっそ戦闘用のスキルでなくてもいいかもしれない。
何か、自分の自信に繋がるスキルを身に着けられれば、過ぎ去った過去に引きずられずにいられるかもしれない。
だが、ハズレスキルだったら……?
更に自信を無くしてしまうかもしれない。
けど、逃げてばかりでは駄目だ。
チャンスがあるのならば、駄目元で試さなくては、どうするというのだ。
「ユリ、今日は教会に行こうと思う」
「え?」
「教会に行って、私のスキルを解放して来る」
ユリは、心配そうな表情を浮かべる。
「行くんですか!?」
「うん。逃げてちゃ駄目だと、思ってね。気が変わらない内に行って来るよ」
コスモは朝食を口に詰め込むと、サムズアップをユリに向ける。
「行って来る!」
「ちょっ! ちゃんと飲み込んでからにしてくださいよ! というか、1人で大丈夫なんですか?」
「いやいや、流石に大丈夫だよ」
「本当ですか? この前外行った時だって、強そうなドワーフさんと目が合っただけなのに、『あ……あ……駄目だ……』って言いながら、知らない人の家に隠れちゃったじゃないですか。探すの大変だったんですよ?」
「何日前のことを言ってるのかな?」
コスモは「ふふっ」と笑った。
(最初に会った時に比べて、ユリは本当に成長したね。私も嬉しいよ)
コスモは、ユリの成長を喜んだ。
「じゃあ、行って来るよ!」
結局、1人で教会まで向かった。
「神官さん、よろしくお願いいたします」
「分かりました。では、スキルのロックを解除しますね。同じ人を2回だなんて、なんだか不思議な気分です」
「今度こそ、私の本当のスキルが分かりますよ!」
そして、スキル解除の儀式が行われた。
「こ、このスキルは……!?」
コスモはまだ分からない。
だが、神官が驚いている。
もしや、【剣聖】だとでも言うのだろうか?
「確かに同じようなスキルは見たことありますが……このような名称は初めてです……!! これは一体……!?」
先程から驚いている神官。
(反応からして、【剣聖】じゃないみたいだけど、なんだか凄そうだ!)
神官は落ち着きを取り戻すと、スキル名をコスモに言う為に、口を開いた。
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