19.旅に出よう
☆コスモside
「コスモさん、今日のクッキーです! いっぱい食べてください」
「ありがとう! 毎日悪いね」
「いいですって! しばらく、こうやって家でのんびりもできなくなっちゃうと思いますので!」
ユリはここ毎日、クッキーを焼いている。
コスモがユリの焼くクッキーを気に入っているということもあるが、無意味に外出することができないというのもある。
今のコスモは有名人だからだ。
少し前までは何の取柄もない一般人だったのだが、スキル【剣聖】を取得し、更にはSRランク冒険者のクロスに勝利して以来、かなりの有名人となってしまったのだ。
「旅立ちの予定は明日、だったね」
「はい、明日です。あれ? 明日でしたっけ?」
「どうだったかな? 多分明日だった気がする」
「あっ! 予定では明後日でした……」
「じゃあ明後日にする?」
「明日でもいいですよ?」
「じゃあ、明日にしようか」
数日前、コスモとユリは話し合い、王都を目指して旅立つことを決めた。
まず理由はいくつがあるが、大きくは3つある。
1つ目は、有名になり過ぎて依頼を受けるのも一苦労だということ。
ただ、有名人になっただけであれば、まだいい。
中にはそれを面白く思っていない人もいるだろう。
そうなれば、歩いているだけで命の危険がある。
2つ目は、国王への相談だ。
魔王に関して、こちらは情報が無さすぎる。
相手がどれ程の強さかも全く分からないのだ。
だが、今まで倒されていないということは、おそらく想像を絶する強さなのだろう。
正直、コスモだけでは厳しいかもしれない。
それもあり、国王に相談し、情報を得ることが大事だと考えた。
最後に3つ目だ。
そもそも、魔王がどこにいるか分からない。
それに関しても、王都で調べる必要があるだろう。
国王が知っていればいいのだが……。
そして次の日。
コスモはいつものように、紫色の髪を、ユリから貰った黄色のリボンを用いて、ポニーテールにする。
「この街ともしばらくお別れですかぁ」
「しばらくね。全部終わったら戻って来れるよ。きっと」
「戻って来られるのは、いつになるんですかね?」
「もしかしたら、魔王を倒してからになるかもしれないね」
「えぇ!? って、確かにそうなっても不思議じゃないですよね」
王都に行き、魔王の居場所が分かったら、おそらく魔王を倒しに行くことになるだろう。
そうだとしたら、ここに戻って来られるのは、いつになるのか分からない。
「ま、絶対に無事に戻って来よう」
「そうですね!」
ユリは、敵の攻撃をオートでガードできるアクセサリー、「シールドリング」を荷物の方に向ける。
「じゃあ、頼むよ」
「はい!」
シールドリングに付いている小さなボタンを押すと、シールドリング内に荷物が収納された。
「まさか、こんな機能があったとはね。ヨシムラさんも言ってくれたらいいのに」
「きっと、忘れてたんですよ」
ヨシムラとは、100万光年先からやってきた、地球人と呼ばれる人間らしい。
100万光年がどのくらい遠いのか分からないが、謎多き人物だ。
装備をくれたり、何かと親切にしてくれた。
今はどこにいるのだろうか?
「ヨシムラさんがいれば、転移クリスタルで王都にまで行けたかもしれないのにね」
「いやいや! あんな高価でレアなアイテム、こっちからくださいとは言えないですよ! というか、本当にヨシムラさんは、どこに住んでるんでしょうか?」
「謎だね……」
確かにヨシムラは最終的に親切にしてくれた。
だが、自身のアトリエから勝手に帰ろうとしたコスモ達を殺そうとするなど、危険な行動もするので、正直あまり会いたいと思わない。
ちなみにアトリエには、ヨシムラが用意した転移クリスタルで行ったので、アトリエがどこにあるのかは不明だ。
「とりあえず、出発しようか」
「ですね!」
コスモとユリは、こっそりと、街を出るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます