20.食べるの大好き、ミアカちゃん

 これは、コスモとユリが旅立った日の出来事である。


「ユリは元気だねぇ」

「楽しいですからね! ここまで街から離れたのは、はじめてですから!」


 ユリは独学で剣を学んでいたというのに、ほとんど街の外には出たことがないらしい。


「集落に行く時も言ってたけど、ユリって本当に街の外に出たことなかったの?」

「モンスターがあまり出ないような所に散歩しに行く事はありましたよ! お弁当持って1人で!」

「モンスターがあまり出ない所って……もしかしてモンスターと戦ったことないの?」

「あ、はい……」


 そういえばユリは、戦いが好きではないのだった。

 親の為に勇者を目指していただけだった。

 ならば、当然かもしれない。

 ユリは本当に優しい子だ。


「別に責めてる訳じゃないよ? 前にも言ったでしょ、やりたいことを見つけなさいってね」

「そ、そうでしたね! よし、頑張るぞ!」


 1人ガッツポーズを決めるユリ。


(けど……やっぱり鍛えてただけあるね)


 コスモは【剣聖】のおかげで、長距離歩いた程度では疲れない。

 だが、ユリは肉体強化のスキルを持っている訳でもないのに、あまり疲れていない。

 仮に今後戦闘をしないにしても、こういった所で役に立つあたり、努力は無駄にはなっていないと言えるだろう。


「そろそろ暗くなってきましたね」

「本当だ」


 歩き続けてどのくらい経ったのだろうか?

 辺りが薄暗くなってきた。

 ここから先は森だ。

 今日の所はこの辺りで野宿する方が安全かもしれない。


「今日はここまでにしようか? ここから先はこの森を抜けないといけないみたいだし」


 コスモは地図を見せながら、そう言った。


「そうですね。どんなモンスターが出て来るか分かりませんからね。じゃあ、今日はここで野宿しましょう!」


 ユリはシールドリングのボタンを押し、収納していた道具を出す。

 今日はここにテントを張ろう。

 次に、木を集めて、発火クリスタルで燃やそう。

 そして、持って来た肉をここで焼く。


 コスモは魔剣で木をぶっ叩き、それを砕いた。

 コスモは魔剣の呪いにより、斬ることができないが、それでも【剣聖】のおかげで力づくで細かくすることはできた。


「ありがとうございます! では、発火クリスタルで火を着けますね!」


 ユリは、コスモが砕いた木に火を着ける。

 するとよく燃えた。


 次にユリは肉を、街で買った細い鉄の棒に刺し、それを焼く。

 手に持っていると疲れてしまうので、地面に刺しておいた。


「肉汁が凄いね!」

「そうですね! たまには野宿もいいものですね!」


 と、話していると。


「お、お腹が空いた……」


 フラフラしながら、こちらに向かって歩いて来る人が1人。

 年齢はユリと同じくらいだろうか?

 赤髪ショートヘアの子だ。


「大丈夫!?」


 コスモは駆け寄る。


「何か食べ物を、私に……」


 とのことだったので、その子に肉を分けることにしたのだが……。

 それはもう凄い勢いで……。


「美味しい! いやぁ! 本当にありがとう! 私、何の準備もしないで出発して来ちゃったからさー!」


 よく食べる子だった。


「お肉無くなっちゃいましたね」

「うん……」


 コスモとユリが、残念そうな顔を浮かべる。

 まさか、肉を全部食べられてしまうとは……。


「もっとお肉ない!?」

「残念だけど、あれで全部かな」

「え!? ……ごめん!! 本当にごめん!! ちょっと待っててね!!」


 どこかへと走っていった。

 そして、約15分後。


「お待たせー!」

「「!?」」


 なんと、軽々と引きずっているのはドラゴンであった。

 この子が倒したというのだろうか?


「どうしたの? もしかして、ドラゴンのお肉は嫌いだった?」


 そもそもドラゴンの肉なんて、食べたことがない。


「いや……ドラゴンってそんなに軽々しく倒せるものだっけ……?」

「簡単だったよ! さ、食べよう食べよう!」


 そして……。


「よく燃えるねー!」

「そ、そうですね」


 ユリの表情は、引き気味であった。


「ド、ドラゴンって、最低でもAランクの依頼じゃないと討伐対象にならないくらい強いですし、そもそも! あの短い時間で、ソロでって……何者なんですか?」


 その子はドラゴンの肉を食べながら言う。


「私? 私はSRランク冒険者のミアカ! 宜しくね!」

「え? ええええええええええええええええええ!?」


 ユリは絶叫するのであった。


「君達は?」


 可愛らしく、首だけをこちらへ向けてミアカは言った。


「ミアカがSRランク冒険者……?」


 見た目は小さいが、ドラゴンを倒したというのならば、実力は本物だろう。


「私はコスモ、【剣聖】よ」


 悪い子ではなさそうだ。

 コスモは自己紹介をした。

 すると、ミアカはパアッっと表情を明るくした。


「えええええ!? 君がコスモちゃん!? ……ふふふ、ラッキー!! 私はね!! コスモちゃんと友達になりに来たんだよ!! こんなに早く出会えるなんて、私ったらついてるなー!」

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